プロローグ〜自分の名は〜
《術式構築が完了しました・・・・術式の起動を確認。》
そんな声が聞こえて、目が覚めた。
此処は何処だろう?・・・・半分開けた瞼の先は、薄暗い石で出来た天井と、淡い灯りを灯している蝋燭の火が見える。燭台、だっけ?。
「気が付きましたか?」
頭がボーッとしていて、天井と見詰め合っているオレにだと思うんだけど、誰かが声を掛けてきた。
多分、俺が呼ばれたと思って、声の方を向いた。
「あっ、起きられましたね。お疲れ様です。これで手続き及び、儀式は全て終了しました。あとは・・・この後、所長からの説明会ですね。それさえ終われば、全て完了・・・あの〜どうかされました?」
声の方を向くと、手には分厚い種類を持った二十歳ぐらいの女の人が立っていた。初めは笑いながら話して、色々と説明してくれていたけど、途中でオレの事が気になったらしく、話を中断してくれた。
お陰でようやく聞く事ができる・・・オレは動かないままで、女の人に向かって疑問を投げかけた。
「あの・・・此処・・・何処ですか?。オレ・・・なんで、ここにいるですか?」
そうオレは今、頭がボーッとしてしまっていた・・・何も思い出せない。なぜ、ここにいるのか、女の人が話してくれた事も、自分が何者なのかも・・・何も分からない。
名前も、歳も思い出せないでいた。
「あぁ、なるほど!。そういう事ですか。すみません、気がつかなくて。」
えっ?。なんか、軽く流されたんだけど・・・記憶喪失だよね、オレ?。結構どころか、かなりの大ごとのような気がするんだけど?。
女の人はオレの話を聞いて、納得したかの様に手を打ち、笑いながらに説明をしてくれた。
「よくあるんですよ。儀式の副作用で、一時的な記憶喪失になられる方が。でも、平気ですよ?。少し経てば、記憶は戻りますし、長くても半日ほどですから。」
よくあるって・・・良いのか?。と言うか、儀式って何だ?。そもそも、何でオレはここにいるんだろ?
「ちなみに、どれぐらい記憶が無くなってますか?。ご自身の事だけでしょうか?。それとも殆ど忘れている感じでしょうか?。」
「えっと・・・多分、何も覚えてないんだと思い・・・ます?」
そう女の人に伝えると、ようやく体を起こす事が出来そうなぐらいには意識がハッキリして来た。なので、ゆっくりと体を起こしてみると、どうゆう状況なのかほんの少しだけわかった。
石壁で囲まれた部屋で、その奥の方には人が一人が横になれるぐらいの石台がある。その石台は中が削られて、窪みが出来ている。更に、その中には鮮やか過ぎる蒼い液体が流されていた。
オレはその鮮やか過ぎる蒼い液体の中に、全裸のまま首元まで浸かっていた。
「えっと・・・あの・・・何で裸?」
「儀式は衣類着用厳禁なんですよ。はい、これをどうぞ。」
「えっ・・・あっ、はい、ど、どうも。」
女の人は全裸のオレを見て、何も動じずにタオルを渡してくれた・・・オレは、すげぇ恥ずかしいけどな!。
オレは股間部分を隠しながら、タオルを受け取って台から降りた。
「あの、オレのこと知ってるんですよね?。オレはどこの、誰なんですか?」
「そうですね。記憶は戻りますけど、今は忘れてるんですから不安ですよね?。そうです、私はあなたの事を知っていますよ?。ですが、親しいと言うわけではなくて、書類上・手続上での関係ですが。
では、本当は自己紹介は済んでいるんですが、改めまして自己紹介を。私の名前は『リーシュ』と申します。
ここ、『義勇兵師団エルドア事務所』の受付兼『聖ルミナリエ教団』のサポーターです。」
「義勇兵?・・・教団?」
「はい。ギルドとは、ギルドに寄せられた依頼を紹介、委託し、皆さんに解決・完遂して貰うための場所。まぁ、仕事案内の場所だと思ってください。ちなみに、貴方のような方々を、世間では『傭兵』ではなく、『義勇兵』とか『冒険者」とか呼ばれてます。
個人的には、義勇兵の呼び方が好みですね。如何にも、みんなの為に頑張ってます!みたいな感じがして、良いと思うんですよ。」
「は、はぁ・・?」
「義勇兵の仕事内容は様々です。魔物討伐や薬草調達、地域調査などなど、多くの仕事があります。中には、危険な物もありますし、人命に関わる案件もあります。で・す・が!!、その分御給金、じゃなくて、報奨金もガッポリ稼げますし、ご自分の力を示せるカッコよくて、やりがいのある仕事なんですよ!!」
何だろう・・・このリーシュって人、妙にテンション高いがする。と言うか、オレが低いだけなのか?。
いや、テンションも気になるけど・・・・今、不穏な事言わなかったか?。魔物?命の危険?・・・それってヤバくね?。
あっ、いや・・・そうか・・・でも、オレはそれでもなろうと・・・思ったんだっけ?
「あぁ、そろそろ本題が良いですよね?。まぁ、ここはそう言った場所でして、貴方はここに新人義勇兵になる為にやって来られたんですよ。そして今、その手続き等が終ったところですね。で、貴方のお名前等はですね・・・ちょっと待ってくだいね。」
リーシュさんはそう言って、持っていた書類をパラパラと捲りながら何かを探し始めた。
その間、オレは自分の体を確認した・・・日に焼けた様な褐色の肌に、少し幼い気がする手足と胴体。
と言うことは、オレは子供・・・そうだ、オレはまだ子供で・・・。
「お名前は、『シュゲン』さん。年齢は十三歳ですね。こちらの資料にはそう書かれてます。その他のことは、所長からお聞きください。」
「シュゲン・・・そうだ・・・オレの名前は、”シュゲン”。」
「そうです、それが貴方のお名前です。これからよろしくお願いしますね、シュゲンさん。」
リーシュさんに名前を呼ばれると、不思議な気分になった。シュゲンが自分の名前だと思えて、しっくりする気がするのに、どこか違和感がする気がする。
何だろう・・・でも、オレはシュゲン・・・そうだよ、それ以上でも以下でもない。
微かに感じた違和感を振り払い、オレは自分の名前を心の中で何度も繰り返し、呼び続けた。すると、その違和感も無くなって、やっぱり気のせいだと納得した。
「では、シュゲンさん。この後は、服を着てもらってから、ギルド所長の説明会に向かいます。衣類はこちらにありますので、よろしくお願いします。」
「はい。分かりました。」
リーシュさんの案内のもと、オレは今後の為の説明会に参加し、オレは晴れて”駆け出し義勇兵”としての幕が開いたのだった。