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広いこの世界

作者: 愛紗とし

 何処までも深淵を魅せる空、地平線まで続く大地、空気も澄みきっている。


  俺は、この日の出を見る為に此処まで来た、目を閉じれば太陽の息吹きさえ感じとれる。



  毎日訪れる代わり映えのない朝の時間。


  洗面所でうがいをし冷蔵庫からヨーグルト、野菜ジュース、コーヒーを出して別のグラスに注ぎ入れる。


  何処かの国旗のようにも見える、時間を気にしながら野菜ジュースとヨーグルトのグラスを順に握り一気に、流し込んでいく。


  残ったコーヒーを持ち時間を確認する。


「まだ全然早いな、電車に余裕で間に合う、時間ギリギリまで家での一時を嗜みたい」


  そうすることで、2回も時間に追われないリラックスタイムを味わえる、この時間をむしゃぶり尽くさないと損をした気分になってしまう。


  スマホでニュースを確認する。


  世界の何処かでは、今日も戦争が起きている。


  今の俺の手には、アイスコーヒーとスマホとリラックスタイムがある。


  これで良いのだろうか?


  ちゃんと遅刻しないように、慌てないように、多少のトラブルなら対処出来る時間に起きて、用意をして仕事に向かう。


  これで良いのだろうか?


  何も間違いを冒していない、俺は、何も間違っていない。


 

  会社に休暇届けを提出していた。


  赴くまま、パスポートを取得し、飛行機に乗った。


 紛争地区で、生の空気を吸った。


  仕事が嫌になった訳ではない、友達にも良くして貰ってる、閃いた訳でも操られている訳でもない、理由が存在しないのだ。


  この地区を見て歩く事で、確信が生まれていた。


  俺は、生へのリアルが欲しかったのだろう。


  ここでは、生きる事に意味など存在し無かった。


 生活に意味を求めていない事は明白だった。


 飢饉、疫病、銃、地雷、死が常に近くに存在している。


  しかし皆が、活きている。


  生きている。


  ただ生きて行く、逸れこそが尊いのだ。


  人が人と争う、彼等はまだ気付いていないだけだ、命の素晴らしさを!


  この紛争地帯でも命の素晴らしさを知れば、愛するものに慈しみも生まれるだろう。


  こんな簡単な事に、今まで気付く事が出来なかったなんて、俺はバカだな。


  大自然に包まれて、初めて気付く事が出来た、俺は、あの娘の事を好きだったんだ。


  早く会って伝えたい、この沸き上がる想いを、ここで感じた総てを。


  朝日に輝く涙が頬を伝って落ちた、恥ずかしくなど無い。


 有りのままを見て欲しいんだ!


 俺は、朝日に叫んだ。


『2度と忘れないからな! この景色! 後悔なんか1つも無い有難う』


「そして空を見上げた」


 足の下で踏んでしまった、地雷の感触を感じながら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何とも皮肉の利いた話だと思います。誰もが望んでいないと思われている紛争の中に生を感じるという主人公の考えは平和な国にいたからこそ持てたのかなあとか、とにかく色々考えさせられる作品でした。 …
2019/01/13 18:26 退会済み
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