多事多端
令和明けましておめでとうございます...と言いたかったところですが、なんと大型連休が終わってしまいました...執筆速度が遅くてすみません!まだまだ休日の感覚が抜けきれていませんが、気持ちを切り替えて色々励んでいきたいと思います!(文章力の向上とか...)
ですから、皆様これからもどうぞよろしくお願いします。
「え...」
アサディーはあまりのことに呆然となった。しかし時間が待ってくれるはずもなく、その間も事態は進む。
「お前!俺をなめてんのか!?遅刻しやがって!お前らみたいな下劣な奴らは時間すら守れない奴なのか!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ...」
「だからお前らみたいな卑しい奴らの子守りは嫌だったんだよ!謝れば済むと本気で思ってんのか?随分とめでたい頭だな?その頭に俺に対する敬意というものをもう一度叩き込んだ方が良さそうだ!あ?」
「訳があるんです。森でこの子と...」
「訳?そんな言い訳で俺が許すとでも?例え足が二本とも捥れようとも這ってでも時間通りに来い!...お前の今後の為に今練習しておくか?いつも這ってやって来るならお前も時間通りに来れるだろう?俺が特別にお前の両足を捥とってやるよ」
男が少女の足を鷲掴んだその瞬間、一人の少年が二人の間に分け入った。
少女の足を鷲掴んだ男の手を押さえながらその少年は男に何か語りかけているようであったが、その言葉がアサディーの耳に入ることはなかった。
そんなことよりアサディーにとってとても大事なことがあったからだ。
(お、男...)
それは、今アサディーの目に二人の男の姿が映っていること。先程までは突然のこと過ぎて頭がすぐに回っていない状態であったが、やっと事態に追い付いたとき、自分から然程遠くない場所に男がいることにアサディーは体の奥底からぞわりとした寒気に襲われていた。
「君、新人?」
少年がアサディーにそう声をかけたときには既に少女を殴っていた男の姿はなく、その場にはアサディーの方を見ている少年と地面に座り込みながら赤くなった頬を撫でている少女のみがいた。
(お、男が一人いなくなった...)
大量の冷や汗を掻き始めていたアサディーは、二人いた男が一人に減っていることに多少なりとも安堵し、少年の言葉を必死に頭で理解しようとしていた。
(きみ、は...二人称?...で、しんじん...ってなんだ?)
そんなアサディーの思考を乱す声が横から聞こえてきた。
「し、新人!?こんな幼い子を働かせるの!?この子が一体いくつだと...」
「俺に言われても...ただ雇い主が決めたことに従っているだけだ」
「そんな...」
(...話の流れが掴めない。というか二人とも話す速さが速すぎて聞き取ることすら出来ない...それよりあの子は殴られていたけれど大丈夫なのだろうか...)
アサディーを置いて二人の間で話が進んでいる中、一つの荷車がやって来た。二人の女性が重い荷車を一生懸命引きながら坂を登ってきている。
「あっ」
そう少女が呟いた瞬間、少女はその荷車に向かって走り出していった。少女は荷車を後ろから押して坂を登るのを手伝い、荷車の中にあった半透明な四角い塊をいくつか取り出した。
(あれは...)
アサディーが不思議そうに見つめていると、横の方から声が聞こえた。
「あれの正体は後で分かる。ここでの生活の仕方について説明するからついてきて」
少年がアサディーの横に膝をついて目線を合わせながらそう言うと、アサディーの手を引っ張ろうとした。
(...!)
急いでアサディーが手を引いて少年の手から逃れようとすると、案外簡単に少年は手を離し首をかしげながらもアサディーを指差した。
「そのカパは脱いだ方がいい。仕事するのに邪魔だろう」
(触られた!触られた!触られた!)
少年に触られたことが衝撃的で全く少年の話が耳に入っていないアサディーだったが、思わず俯いてカパの被り物の部分をさらに深く被るように手で引っ張っていると、よほど脱ぎたくないのだと勘違いした少年が軽く肩を竦めてスアカルケイザュイの方へ歩き出した。
少年が自分から離れたことにより少し冷静になれたアサディーもまた少年はスアカルケイザュイの案内をしてくれる気ではという考えに至り、少し間を空けて少年の後についていった。
スアカルケイザュイ、それは貧しい家庭を支えるために少女たちが働きに来る場所である。アアサという下草の茎を煮詰めると出てくる半透明な液から布を作っており、今アサディーがいる場所は特に布を作るための糸を作る場所だった。少女が荷車から取り出した半透明な塊はアアサを煮詰めて抽出した液を冷まして固めたもので、それを延ばして細く切り、その何本かを編んで一本の糸を作り出すのである。
ちなみに荷車を引いてきた二人の女性はまた別の場所にあるスアカルケイザュイで布を作るのに必要なアアサの採取と煮詰めて半透明な液を抽出する仕事をしており、アサディーがこれから働くことになる、このスアカルケイザュイに定期的にその液の塊を持ってくる。このスアカルケイザュイもまた別のスアカルケイザュイのところへ定期的に糸を運びに行っている。
また、寝泊まりする場所はどのスアカルケイザュイからも大体2㎞ほど遠くの場所にあり、食事や洗濯、掃除など家事全般を働いている皆で分担しながら生活している。
監視役はそれぞれの建物に男性が約13人ずつおり、もし少しでも仕事を怠るような真似をすれば即座に鞭を打つ役目を持っている。だから本来ならスアカルケイザュイの統括を任されている地主は実際にスアカルケイザュイにやって来ることはほぼないのだが、何故か運悪く少女が遅れた日に限ってその地主がスアカルケイザュイを訪れており、仕事の時間に遅れてしまったことがばれたのだ。
「これで説明は以上だけれど、何か質問とかある?」
「...い、いえ。ないです」
(きっと、質問があるかどうか聞かれたのだと思うけれど...)
「それなら...」
「カパちゃんは私と同じ、糸を編む仕事を担当しよ!」
突然後ろからかけられた声に驚きつつもアサディーが振り向くと、そこには先ほどアサディーをスアカルケイザュイまで案内した少女がいた。
「カ、カパちゃん?」
「そうそう。各自の一時的な呼び名がないと不便だからそう呼んだんだけど、嫌だった?」
(「カパちゃん」って別の意味を持つ単語とかではなくて、私を呼んだ名前だよね...?嫌というかなんというか、本名を聞かないの?ここでは本名を名乗ってはいけないとか...?)
予想外の呼び名にアサディーが思わず口を閉ざしてしまうと、先ほどアサディーにスアカルケイザュイの中の案内やスアカルケザュイでの仕事や決まり、などを教えていた少年は小さくため息をついた。
「普通に雇い主から与えられた番号で呼び合えば良いだろう?」
「そんなの冷たい感じがするよ!大体、名前は貴族とか皇族とかしか持たないってこと自体が不思議なんだよ」
「そこら辺のお偉いさんたちは家系が複雑だから名前とか持って細かく区別しようとするのは当たり前だろう。逆に相手の呼び名がないと困ると感じているのはお前くらいだ」
「何で相手の名前がないのに普通に生活出来るのかなぁ」
(つ、つまり私が名前を持っていることは異質なこと...なのかな?一応領主の娘だから?...あれ?名前がないと不便って言っているってことはこの女の子も本当は名前を持っているってこと?何でだろう?...まあ、色々事情があるのかな?)
アサディーがぽんぽんと進んでいく会話を何とか聞き取り、理解出来た単語を組み合わせて自分なりの結論を導き出した時にはすでに二人の話は終わっており、少女がアサディーの方に顔を向けながらついてくるのを待っていた。
「カパちゃんはまだ小さいから刃物とか扱う仕事は危ないし、アアサオク(アアサから抽出された液の名称)を平たく潰すアレは力がいるから細い糸を編む仕事をしよ」
少女はアサディーの返事を待つことなく近くの壁に吊り下がっていた布をめくった。めくった先にはそこそこの大きさの部屋が現れ、そこでは多くの女性が忙しなく働いていた。
まだこの国には扉がない。故に部屋と部屋を遮断する際には獣の皮を加工した革を吊るすことが多い。だが値段が高く、部屋と部屋を区切るのは貴族や王族、高級な宿くらいだった。このスアカルケザュイでも、革とはいかないまでも布を吊るして部屋を区切ることのよって各作業ごとに最低限必要な作業範囲を確保し、限られた場所を効率良く活用出来ていた。
(多くの女性たちが糸を大量に編んでいる...)
少女に連れられて部屋に入ったアサディーは、糸を高いところから吊るして、それを上から下まで撚りをかけている様子を見つめた。
(編む人によって編む速さの差が結構あるかもしれない。特にあの人はあんなに速い!...でもみんなとても痩せこけている?顔にはクマが出来ているし...目も堕ち窪んでいる気がする...)
人間観察が点で駄目なアサディーでさえ違和感を覚えた女性たちの様子にアサディーが目を離せないでいると、アサディーたちの方に歩いてくる人物が急に視界に入り、アサディーは視線の先をその人物へと向けた。その人物はアサディーが先程糸を編むのがすごく速いと思っていた女性だった。
その女性はまずはじめにアサディーの隣に立っている少女に目を向け、続いてアサディーの方に目を向けたとき、一瞬だけ眉を上げた。しかしすぐに顔をもとに戻し、二人に向かって口を開いた。
「二人は...床に散らばっている糸を集めて束ねておきなさい」
「はい」
「?...はい」
言い終わった女性はすぐに先程いた場所に戻って糸を編む作業に入った。少女はすぐに床に散らばっている糸を一ヶ所に纏め始めた。女性が何て言っているのかうまく聞き取れなかったアサディーもまた、糸を集め始めた少女に倣って糸を集め始めた。
(集めた糸は数本で束にして先端を結んでいる...のかな?でも、どう結んでいるんだろう?)
疑問に思ったアサディーがじっと少女の手元を見ていると、急に顔を上げた少女と目があった。
(?...手元を見すぎたのが悪かったのかな?)
そんなことを思ったアサディーの耳元に少女は口を急に近づけ、こそこそと話し出した。
「寮でのことは後で話すんだけど、その前に言っておきたい事があってね。えーと、そろそろ来ると思うんだけど...あっ、来た!」
少女が目をやっていた方へアサディーも目を向けると、そこには天井にぶつからないよう背を屈めながら部屋に入ってきた青年がいた。
(お、男...)
思わず手に持っていた糸を強く握りしめたアサディーの耳に再び少女の声が入ってきた。
「ここでは各部屋ごとに一、二人ずつ監視役がつくんだけど、その日の当番が誰になるかによって少し遅めに来ていいかどうかとか仕事中に少し休憩していいかどうかが決まるの。担当者は定期的に変わるんだけど、規則性があるから覚えておいたほうが良いよ。あとで教えてあげる。...とは言っても私もここに来たばかりだからそんなに知らないんだけど...とにかく今日のあの男の人の顔は覚えておいたほうが良いよ。あの人、仕事本当にやる気ないみたいで朝来るのも遅いし、いつも寝ているから。まあ、その御蔭でカパちゃんをここまで連れてくる時間があったんだけどね」
(...とても大切なことを話されていた気がするけれど、話が長すぎて全く頭に入ってこなかった。相変わらず話す速度が早いし...でも、とうばん、という言葉は聞いたことがある気が...使用人の仕事をするときに...なんだったか...あっ、当番!)
少女が部屋に入ってきた青年を見ながらアサディーに話しかけてきたことと「当番」という単語の意味になんとなく少女が言いたいことが分かった気がしたアサディーは、一度深呼吸してから青年の方へと目を向けた。
青年は片膝を立てて床に座り、目をつぶっていた。腰には茶色い縄のようなものが巻かれてついている。
(む、鞭?)
初めて見る鞭の存在をアサディーがじっと見つめていると、少女がアサディーが被っているカパの裾を引っ張り、アサディーの注意を自分の方へと向けた。
「結び方についても教えておくね」
そう言って少女は手に持っていた糸の先端を右手で持ち、先端近くで輪を作って、糸の先端をその輪の中に通し始めた。そして糸の先端を左側に長く伸びている糸の後ろを通るようにして再び輪の中に通し、輪を絞めるように糸を引っ張って糸の先端に小さな輪を作った。
「こんな風に輪っかを作って、あの縄に刺さっているあの鉤爪にかけていくの」
少女が視線を向けた先には天井付近の壁から壁に麻縄みたいな縄が渡されており、縄から生えるようにして突き刺さっている、動物の牙のように白く鋭く尖った物体があった。その物体をフックのようにして数本の糸がかかっており、その下で女性たちが糸を編んでいた。
「多分私たちは身長が足りないからここで糸の輪っかを作る作業を任されたんだと思うよ。あそこにこれを引っ掛けていく人も糸を編んでいる人もみんな背が高い人たちだから」
(しんちょう...身長?が...ない...少ない?から...?)
辛うじて簡単な単語は聞き取ったアサディーだったが、「身長が少ない」とはどういう意味なのか察することは出来なかった。その代わり周りを見たアサディーは何人かの少女が作業に取り掛かっているのが目に入り、アサディーも急いで作業に取り掛かった。
結局、夜になっても月明かりを頼りに作業し続けたアサディーらは約13時間も長い間働かされることとなった。その間、監視役である青年はついに目を覚ますことはなく、アサディーの傍らにいた少女は飽きることなく何かを話していた。それがアサディーに対してなのか独り言なのか、アサディーには分からなかったが、作業に集中していたアサディーが少女の言葉を聞き取ることは出来なかった。
ほぼ真っ暗闇の中、行きに来た記憶と足から伝わる感触、淡い月明かりのみを頼りに帰る道中、アサディーは少女から寮での説明を聞いた。
寮での家事は年少者がするもので、寮に帰ったらすぐに食事の支度をして配膳、その後年長者を部屋まで行って食堂に呼び、年長者から食事を始める。食事が終わったあとは掃除と洗濯係、水を汲む係に分かれ、掃除は年長者の部屋から掃除を始め、次に公共の場の掃除、最後に年少者たちの部屋を掃除、洗濯は年長者の部屋から洗濯物を回収し、何回かに分けてから水瓶から取り出した水で濯ぎ洗いをし、部屋に干す。外に干すとすぐに大量の落ち葉がついてしまうからだ。水を汲む係は往復5時間もの時間をかけて水を汲みに行き、帰って来たら急いでスアカルケイザュイへ向かわなければ行けない。もちろん特別に睡眠時間を設けてくれることはない。水瓶にはスアカルケイザュイで働いている女性たち全員が必要な一日分の量の水しか貯められないため、毎日誰かが交代制で汲みに行くしかないのだ。
何度も聞き直しながらも何とか少女が言っている内容を理解できたアサディーは、スアカルケイザュイは本当に酷い場所なのだと改めて認識し直したのだった。
(それにしてもよく話す子だ...)
スアカルケイザュイで働いているときも、スアカルケイザュイから寮への道中も少女はずっと話していた。上手く会話を続けることが出来ないアサディーにとって、アサディーの相づちや反応をあまり気にしない少女の話し方は気が楽だった。
(けれど...)
アサディーは視線を、生気を失ったかのように何も喋らず、今にも倒れそうな様子で一歩一歩踏みしめながら歩く他の女性達に向けた。
(いつか私もこの子もあんな風に...)
先ゆく不安を煽るかのように、冷たい一陣の風がアサディーのカパを揺らした。
寮に着いてアサディーが最初に頼まれたことはソラメンを練ることだった。
「ソラメン...」
「そう、捏ねたソラメンを少しずつちぎって汁物の具にするの」
ソラメン、それは貧しい暮らしをしている家庭では定番の食べ物だ。多少養分の少ない土地でも、水をあまり与えなくても育てることが出来る。また、涼しい気候を好むため、あまり植物が育たない寒い地域でよく育てられている。ただし、皮が厚いため、あまり食べるところがないのが難点な植物でもある。
ソラメンは根を食べるのが一般的で、見た目はジャガイモをサツマイモくらいに細長くしたような形をしている。しかし、ジャガイモやサツマイモとは違い皮が固いため、太い木の棒を上から落として潰し、取れるだけの皮は全て取ってから練るのがよく知られている食べ方だ。ただし、皮もその中身もジャガイモの皮のような色をしているため、皮と中身が区別できず、ほとんど皮も中身も一緒に食べるような状態になることが多いが...
ソラメンは練ると少し粘り気が出るため、汁物に入れてもばらばらになることはない。だが、あまり汁物に入れることは少ない。何故ならソラメンを煮ると酷い蘞みが出るからだ。
「しかし、煮る...」
「ああ、美味しくなくなるよね...でも、そうした方が多くの人に食事が行き渡るでしょ?具がなくても汁に味がつくし」
(しかし、多く、人の食事...行く?ない、味...?つまり、多くの人に食事が行き渡るから汁物にするってこと?...そんなに食べ物が支給されないなんて...確かその食事代も給料から引かれるって言うし)
と、いくらアサディーが思ったとしても状況が変わるわけでもなく、アサディーは皮を取り除かれたソラメンをさらに手で捏ねる作業を行った。
ソラメンを捏ねるのは予想以上の力が必要で、アサディーはほぼ全体重をそのまま伝えるように捏ね、やっと全てのソラメンを捏ね終わったあと、アサディーは席についていることを許された。
少女曰く、
「汁物茹でてもらおうにも火元は危ないし、食器を運ぶのも溢しそうで危ない」
とのことだった。
アサディーも自分くらいの年ならば仕方がないと思い、決められた席に座った。ここでは一番明るい場所、つまり月明かりが入ってきやすい窓際が年長者の席になり、一番月明かりが入らない隅の席が年少者の席になる。
将来もう少し成長すれば手伝うことになるだろう女性たちの作業をアサディーが見ていると、とうとうアサディーが座っている席までソラメンで出汁を取った汁物が運ばれてきた。
アサディーの体に異変が起きたのはその直後だった。
急に身体中に恐怖という名の楔が打ち込まれ、少しでも動けば後ろから八つ裂きにされるような感覚に陥ったのだ。恐怖と同様に吐き気も催し、急激に背中や顔に冷や汗が流れるをアサディーは朧気ながら感じていた。周りで誰かが何かを言っているような気がしたものの、何とか自分を保っていられる今の均衡が崩れると危うい気がしたアサディーは、身動ぎすら出来ず、何も言葉を発することが出来なかった。
そのうちアサディーの視界は陰りを帯び、気がついたときには黄ばんだ天井を眺めていた。
(あれ?いつの間に寝たんだ?)
アサディーが体を起こそうとしたの時、アサディーの耳に誰かの足音が入ってきた。
「あっ、起きた?」
アサディーに近づいてきたのは先程まで食事の支度をしていたはずの少女。
「う、うん?」
微妙な表情をしながら頷くアサディーに、少女は首をかしげながらも安堵の笑みを浮かべた。
「良かった。一時はどうなることかと」
(どう、なる...どうなる?...んー?)
「一体どうしたの?なんか急に尋常じゃない様子になって気絶したけど...」
(...何かを聞かれているのは分かるんだけど、何を聞かれているんだろう?というか何で私、横になっていたんだっけ?)
「あっ、話すのも辛い感じ?それなら無理しなくて良いよ。...ところで、カパちゃんのご飯、他の女の人にあげちゃったの。ごめんね。まあ一食抜いたぐらいでは死なないから大丈夫だよ」
(えっと...また死ぬって単語が出てきた気が...もしかして死にそうだった?もしかしたらそれで気絶とかしたのかも...)
「でも、何で急に過呼吸になったんだろうね。体も硬直した感じで動かなくなっちゃったし...」
(逆接だ...でも何とか助かったって感じかな?...何で死にそうになったんだろう?まさか、病気?ここの衛生状態も悪そうだったし。お手洗いなんて館のところと同じくらい薄暗くて汚いし、虫も湧いてて、臭いも酷かったし、拭く為の紙なんて用意されていなくてなんかよく分からない使い回しの葉っぱで拭くことになったし。汗だくの体だってお風呂以前に布で拭くことすら許されないらしいし...)
「まあまあ、そんなに考えこまなくて大丈夫だよ。きっと一晩たったら治ってるから。あっ、水汲みは私が一人でやって来るから安心して寝てて」
そう言って少女はまた部屋を出ていこうとした。
その時アサディーは、少女は今まで自分のことを看病してくれたのではという考えが過り、お礼を言わなくてはと少女の服の裾を掴んだ。そんなアサディーの行動に対して不思議そうにしながら少女はアサディーの方を振り返った。
「どうしたの?」
「...あ、ありがとう」
その言葉を聞いた少女は一瞬目をぱちくりとさせたが、すぐに破顔した。
「そんな...気にする事ないよ。私、孤児院の出でさ。たくさん妹たちがいたからついつい面倒見たくなっちゃうんだよね...」
そう言って再びアサディーに近づくと、少女はアサディーの頭を撫でた。
「安心して。明日にはきっと良くなっているよ」
そう言って少女は今度こそ部屋から出ていった。
(頭、撫でられた...)
アサディーは自分の頭に手を宛ながら、少女が出てていった部屋の入り口をずっと見ていた。
それから毎食、食事を見るたびに過呼吸になり、気絶する事になるとはこのときのアサディーは考えもしなかった。
今回流れ的にはほぼ何の発展もないのですが、何とか次の回では物語が動きそうなところまで書き上げました!(長かった!)
次回はまた新しい登場人物?が登場します!(予定)
「アアサ」というのは「亜麻」から来ています。ただ、読み方を変えただけです、はい。
サブタイトル共々そろそろネーミングセンスの無さがばれそうな予感...今回の新しい登場人物たちの名前が出てこないのとは関係はありませんからね?(多分)
もちろん糸の作り方は私が考えたものなので、実際に亜麻を煮ると得体のしれない成分が出てくるわけではありません。糸の質感のイメージはプラスチックで出来た糸みたいな感じでしょうか?リネンのような質感ではないと思います...
「ソラメン」というのは「ジャガイモ」の学名である「Solanum」の元である「solamen」から取ったものです。ラテン語で「安静」という意味のらしいです。ジャガイモに鎮痛作用があるかららしいです。
なんか無駄にややこしいですね、はい。
最初の方に何の発展もないとか書きましたが、ちょっとこれからの流れ的に必要な布石とかを書きたかったので、どうかご容赦を。
長々と失礼しました~