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一路平安

大変遅れてしまい、申し訳ありません!これくらい間が空いてしまうことが度々あるかと思いますが、それでも興味を持ってくださった方、ぜひ読んでいってください。

意見、感想、誤字脱字報告など何でも歓迎です。

(...で、どう見るんだ?)


森の中を駆け出したところまでは良かったものの、途中でスアカルケイザュイへの道が全く分からないことに気がついたアサディーは、そこから先に進めないでいた。サーバントから貰った地図も到底地図と呼べるものではなく、アサディーはただただ途方に暮れるしか無かった。

そもそも地図の形がアサディーが前世で見たような長方形ではなかったのだ。どちらかと言えばアーモンド形に近く、中央が凹んでいる。その黄ばんだ紙...皮のような素材の地図に黒...焦げ茶の線でいくつもの線が引かれてあるのだ。子供の手を二つ合わせた大きさより二回り大きい程度の大きさしかないこともあり、小さすぎてどの線がどこと繋がっているかも正確には判断できないこともアサディーが地図の見方を解読出来ない理由の一つであった。


(現在地すら分からない...)


地図を解読することを諦めたアサディーは地図を袋の中に戻し、道らしく踏み固められている場所を歩き出した。


(とりあえず森を抜けることが先決...運が良ければ街に出て、場所を聞けるはず)


そう決意をして歩き出したアサディーだったが、歩き始めて早々に初めて歩く森に不安を感じ、思わず周りをキョロキョロと見回してしまった。


(...人食い花とか...痺れ茸とか...)


異世界ファンタジーなどでよくありそうな物がこの世界にも存在するのでは、とアサディーは恐れていたのだ。

しかし、所々に異世界なのだと実感させられる物が転がっていた館の中での生活を思い返せば、一番前世の印象と近い森の中は先程とは打って変わってアサディーに安心をもたらした。


(至って普通の森、か...)


しばらく森のなかを進んでいくと、アサディーの視界の隅に赤い実が映りこみ、アサディーは足を止めた。緑ばかりのこの森の中で赤はよく映えていた。


(...赤い実?)


瞬間、アサディーは自分の視界が歪むのを感じた。


(えっ...)


歪んだ視界の中、何とか足を踏ん張り、体制を立て直したのは良かったものの、急に僅かな息苦しさと冷や汗が吹き出るのを感じ、アサディーは思わずしゃがみこんでしまった。


(なんだ...これ?) 


頭が混乱したまま、アサディーは体にきたしている異常が収まるのを待ち、少し落ち着いてきたと思った瞬間に立ち上がって赤い実の方は見向きもせず、走り出した。

早くその場を離れたかったのだ。


(...この森はやはり日本の森とは違うということなのか?ただ木の実を見ただけで気分が悪くなるなんて...)


取り敢えず早くこの得体の知れない森を抜け出したいという気持ちで一杯になったアサディーは周りを見渡すことなく、獣道に沿って歩みを進めた。

一体どれ程歩き続けただろうか?アサディーの視線の先に村と思わしき集落が見え始めていた。


(あそこでスアカルの場所について聞けば教えてくれるかもしれない)


期待を胸に集落に近づいていったアサディーだったが、近づくにつれてアサディーの歩みは遅くなっていった。

村に人気はなく、所々にぽつん、ぽつんと建っている石を積み重ねたような家は崩れかけていた。畑と思わしき場所には焦げ茶色の草が所々に生えており、畑の土も見た目からして水分が足りていないのは一目瞭然であった。


(ここは...廃墟なのか?)


アサディーは廃墟のような集落にゆっくりと足を踏み入れた。ほとんど何も音が聞こえず、無意識にアサディーの足運びも忍び足になっていた。

やっと村の中央まで歩みを進めた時、突然強い風が吹き、アサディーは思わず身を竦めた。


(さ、さむい...森の中にいたときは落葉している気配もなく寒さも特に感じなかったけれど、今は冬なのか?)


風が過ぎ去った後にアサディーが手を擦り合わせて寒さを誤魔化していると、背後から声が降っていきた。


「こんなところで何やってんだ、あんた!死んじまうよ!?」


囁くように頭上で叫ばれ、アサディーはそのまま上を見上げた。

アサディーの視界に映ったのは、浅黒い肌に深い皺が幾重も刻まれた老齢な女性の顔だった。


(し...し、んじ...しんじまう?........死ぬ...は?こ、この寒さのせいで死ぬ...という、こと?)


さすがにそれはない、と思ったアサディーは女性が何のことを言っているのか分からず戸惑っていた。そんなアサディーを見かねたのか、女性は急にアサディーの手首を引っ張り、どこかへ連れていこうとした。女性がアサディーを連れていこうとした先には、アサディーが先程家だろうと思った石造りの建物があった。厚さが薄い黒い石が円状に積み重ねられており、まるで円錐のような形をした建物だった。

アサディーをその建物の方へと引っ張っていく間もその女性は何か話しているようだったが、早口過ぎたのと知らない単語が多く出てきたこととでアサディーは女性が何を言っているのか全く理解出来なかった。

女性がアサディーを引っ張る力はそれほど強くはなく、逆に弱々しいほどだったが、死ぬ等と言われたアサディーは女性に逆らうことはせず、取り敢えずそのままついていこうと考えていた。しかしアサディーがそう考えていた矢先、女性は急に立ち止まって振り向き、アサディーが被っているカパのフードを取ろうとした。不意を突かれたアサディーは脱げてしまったフードを急いで被り直したが、女性の驚愕した顔を見て、髪と目の色がばれてしまったことを悟った。

しかし女性は何をするでもなくただアサディーを見つめるだけで、アサディーは逃げた方が良いのか、話し合いの余地があるのか、どちらを選択すべきなのか決めかねていた。話し合いと言っても一体何を話せば良いのか分からないアサディーだったが、取り敢えず穏便に済ませた方が良いと考え、口を開こうとした瞬間、女性はアサディーがやって来た森の方を向いて何か呟くと、アサディーの方に向き直って手を伸ばしてきた。まるでアサディーを捕まえるかのように...

すぐに危機を感じたアサディーは、考えるよりも早くその女性に背を向けて走り出していた。そんなアサディーに対して女性は、一体どこからそんな声が出せるのかと思うほどの金切り声を上げてアサディーを追いかけた。その声に呼応するかのように、今までアサディーが廃墟だと思っていた数々の家から人がぞろぞろと現れ、アサディーを追いかけ始めた。

アサディーはその中を脇目も振らずにひたすら走り、気が付けば再びどこかの森の中へと迷い混んでいた。

アサディーは痛む脇腹を押さえながら、カラカラに乾いた口の中を唾液で湿らせ、唾液を飲み込む際の喉の痛みに顔をしかめた。アサディーの体力はもう限界で、千鳥足になっていた。


(休もう...)


追っ手がもう来ないのを確認したアサディーは近くの手頃な木に寄りかかって、乱れた息を調えようとした。すぐに何故追われたのか思考を巡らせようとしたアサディーだったが、抗えない睡魔にアサディーの意識はどんどんと薄れていった。






(何故...)

「ねえ?」

(どうして...)

「大丈夫?」 

(どうしてあなたは...)

「どうしたの?」

(わたしが...わたしは)

「起きて?」 

(わたしは何故あなたを...信じられなかったの?)

「ねえ!起きてってば!」


突然の頭を揺さぶられる感覚にアサディーは目を覚ますと、そこには一人の少女がいた。


(...誰?)

「大丈夫?」


その少女に肩を触られた瞬間アサディーは捕まると思い、急いで身を引こうとしたが、すぐに寝る際に背もたれにしていた木にぶつかってしまった。


「一体何をやっているの?」   


アサディーに声をかけてきた少女が不思議そうな顔をしていることにやっと気がついたアサディーは、動きを止め、少女をまじまじと見つめた。


(村の人では...ない?)


そう判断したアサディーは、取り敢えずスアカルケイザュイへの道を聞くだけ聞いてみようと少女に声をかけた。


「スアカル、へ道ほしい」

「...えっ?どういうこと?スアカルがどうしたの?へ道って何のこと?欲しいってどういう意味?ちょっとよく分からない。私の聞き間違えかな?もう一回言ってくれる?」


アサディーは少女に矢継ぎ早に質問を浴びせられ、目を白黒させていた。


(は、早い。一体何を言っているのかさっぱり分からない...知っている単語らしきものが何一つ無いってどういうこと?)


一方、少女の方は少女の方で小さな子供に対して戸惑っていた。


(スアカルってやっぱりスアカルケイザュイのことだよね?こんな子供がそこに何か用があるのかな?それにこの子、こんな森の中で何で寝ていたんだろう?山菜取りとか?でも、この子まだ幼そうだし、まだ親が目を離してはいけない時期だと思うんだけど...山菜取り以外にこんな森に用があるとしたらやっぱりスアカルケイザュイしかないけれど...まさかあそこで働くとか?いや、それこそ絶対ないか...本当にこの子は何が言いたいんだろう?)


それでもアサディーが何度も似たような言葉を繰り返すことによって少女には何とか意味が通じ、乗り気がしないながらもしぶしぶスアカルケイザュイのもとへアサディーを連れていくことにした。


(連れていけば何か分かるかもしれないし...さすがにあそこの監視者もこんな幼児に乱暴なことはしないと思うし...多分)

「取り敢えず...じゃあ、行こうか?」


少女はアサディーの方を振り返り、手を差し出した。アサディーは相変わらず少女の早口のような言葉に単語を何一つ理解できていなかったが、その動作によって連れていってくれるのだと思い、差し出されと手を掴んだ。


「え?」


とたんに少女は不思議そうな顔をしてアサディーの方をまじまじと見つめた。アサディーもそれに戸惑い、もしかしたら自分は勘違いしていたのではと不安になりかけたとき、少女は首をかしげながらもアサディーの手を引いて歩き出した。


(な、なにか違った?そ、それとも合ってた?)


アサディーの頭の中でそんな疑問がぐるぐると渦巻いていると、急に視界が開け、湿地のような場所に出た。


(臭いがすごい...)


あまりの強烈な臭いに思わず鼻を覆おうとしたアサディーだったが、少女が思いっきりこちらを振り向いたことによってその機会を逃してしまった。


「じゃあ、履いている物を脱いで。この上を走るときに邪魔だから持った方がいいよ」    

(..........ん?は、走る?どこを?...き、聞き間違えたのか?そうだ。聞き間違えたに違いない。相変わらず話す速度が速すぎて他の単語が全く聞き取れなかったし。そうでなければ一体どこを走るというんだ)


若干現実逃避気味なアサディーのことなど意にも介さず、少女はどんどん麻紐のような物を解いていき、紐によって止まっていた布のような物を足から外していく。そして全て外し終わって裸足になった少女は、少し助走をつけたと思うといきなり水面を走り出した。


(...は?)


対岸までたどり着いた少女は、まるでアサディーを待つかのように後ろを振り向いた。


(...あれ?人間って水の上歩けるんだっけ?)


目の前の現象と自分の中の常識との差に困惑しながら、実は湿地の中に足の踏み場になるようなものが沈んでいるのではとアサディーは水面に顔を近づけた。


(ただ茶色く汚れた水の上に緑と茶色の斑模様の葉っぱが大量に浮いているだけなのだけれど...)


とうとう、もしかして彼女は人間によく似た種族なのでは、と考え始めたアサディーを見かねた少女が向こう側からアサディーの方へ帰ってきた。


「どうしたの?もしかしてこういう風に水面を走るのは初めて?大丈夫だよ?躊躇しないで走り抜ければ走れるよ?」 

(えっと...また、走れとか言われているのか?私と貴女の種族って本当に同じ?)


ついに、実は自分も人間によく似た種族に転生したのでは、という結論に至ったアサディーだったが、その結論に至った直前に少女に無理矢理立ち上がらせられ、ものすごい力で湿地の方へと引っ張られた。


(はっ!?いや、まっ!)


そんなアサディーの心の叫びなど虚しく、強制的にアサディーは水の上を歩かなければならない状況に陥った。

水面に足を置いた瞬間に固いと感じたアサディーだったが、すぐにどろっとした感触に襲われ、すぐにアサディーは慌てて次の足を踏み出した。少女に思いっきり手を引かれたこともあってか、危なげなくもなんとか向こう岸までたどり着いたアサディーは、この世界の原理が前世の世界と全く違うのだ思い込むことにし、ほぼ無心の状態で少女に手を引かれていた。

一体どれ程歩いただろうか。再びアサディーらが森が開けた場所に出ると、そこにはアサディーが過ごしていた館よりも1.5倍はある煉瓦のような物で出来た建物があった。


「ここがスアカルケイザュイだけれど...」


少女はそう呟きながらアサディーの方を振り返ろうとした。しかし、アサディーがスアカルケイザュイの建物に目をやっている隙に後ろから少女に近づいていた大柄の男がいきなり少女を殴り飛ばしたのだった。

終わりの切れ方が変な気はしましたが、これ以上先延ばしにしてしまうと、そのままうだうだと更新を延ばしてしまいそうな予感がしたのでここで切りました...まだスアカルケイザュイに到着したばかりですみません...

今までの流れ必要ないんじゃないか?とか思われるかもしれませんが、私的には必要だったのです!ごめんなさい!

あっ、サブタイトルは完全に皮肉です。


ちなみに水と片栗粉を1:1くらいの割合で混ぜるとダイラタンシー流体が出来上がるんですよね...この話、興味があったら調べてみてくださいね。今回の話とこの話が一体何の関係があるのか多分分かると思うので。 

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