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鮮血淋漓

お久しぶりです。中々更新出来ず、すみませんでした。

皆様、体調を崩されることなくお元気でしょうか?皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。

それではどうぞ、楽しんでいってください。

前世の子供の頃、アサディーは母親に男として扱われていた。剣道を習っていたというのもその影響だ。

他にも様々な出来事を受けて、結果的にアサディーの心は女性と男性、そして無性も含めて計3種類の性別を不規則な周期で持つことになってしまったのだ。

だからその当時は言葉遣いが急に男性らしくなったり、女性らしくなってしまうことが多々あった。今でもアサディーは心の中での口調はその度に変わってしまう。さらに言えば、母と話す時はほとんど男口調で話していたため、自認している性別が女でもあっても心中の言葉遣いが男口調になってしまうことの方が多かった。

どうやらそんな体質が、生まれ変わっても尚受け継がれてしまったらしいのだ。


(言葉遣いや振る舞いには気をつけないとな...)


周りが女性だらけなことに居心地の悪さを覚えながらアサデイーは今日も仕事場へ急いだ。












アサディーは予定通り仕事場に着いた。

しばらくアサディーが糸を纏める作業をしていると、隣でアサディーと同じ作業をしていた女性が頭をカクリと落とし、船を漕ぎ始めた。

アサディー自身も、度重なる寝不足で頭痛がする程眠く、関節が錆びているのかと思うくらい重い手足を無理やり動かしているような状態だったため、睡魔に耐えきれずに寝てしまう隣の女性に痛いほど共感してしまい、アサディーは起こすことはせずに放置してしまった。

眠さゆえに頭が働いていなかったとも言えるだろうが、急に背後から床を鞭で打つ音が聞こえ、アサディーはすぐに自分の失態に気がついた。

案の定アサディーの隣の女性は引きずり倒され、罵られながら鞭で打たれたり、蹴られたり、唾をかけられたりと、暴言暴行の嵐に見舞われた。

監視者が男性だったということもあるが、そのあまりにも悲惨な光景にアサディーは呆気に取られ、すぐに動くことが出来なかった。

アサディーがはっと我に返った頃にはその監視者はアサディーの目の前に立っておりアサディーの腕を掴んで怒鳴った。


「この結び方はなんだ!結び目位置も大きさもバラバラだろうが!こんなだらしない格好で働くなどふざけているのかっ!なんの取り柄もない女なら、少しは外見くらい取り繕ったらどうだ!?」


怒鳴り声もそうだが、何より男性が自分の体に触れているという恐怖にアサディーは声も出なかった。今のアサディーは弁明することも抗うことも頭にはなく、ただ抑えきれないほどの恐怖をどうやって鎮めればいいのかということだけだった。


「待ってください!」


ただされるがままになっていたアサディーの視界の端に1人の少女が映った。少女はアサディーの腕を掴んでいる監視者に必死で言い募った。


「私の失態です!私が言って聞かせますから!」


そんな少女の様子を見守っていた周りの女性たちは少女も監視者の標的になったと嘆いた。しかし、女性たちにはそんな少女達を庇う体力も気力もなかった。

苛立った監視者が少女の方を向き、にらみつけた。

しかし、結局監視者は何も言わず、あまつさえ腕を掴んでいたアサディーを少女の方に投げつけて解放した。

少女自身も驚いたようにアサディーを受け止め、監視者のことを見上げた。少女はただ、意味がないことと知っていながら少しでも監視者の意識をアサディーから自分へ移せればと思っただけなのだ。

監視者はその後、他の場所に見回りに行き、それと同時に少女は我に返った。


「......あっ、大丈夫?怪我してない?」


心配そうに顔を覗き込む少女に、乱れた息を懸命に整えていたアサディーは顔を上げた。アサディーの顔周りや腕、足、体全体をくまなく見て安心した少女はアサディーの服の紐の結び目を直し始めた。

アサディー達が着ている服は前後で布が分かれているものだ。そのため、首元から二の腕の部分と脇腹から腰の部分にかけて前後の生地に穴が空いており、その穴に紐を通して結びつけることで服のようになるのだ。ただし、脇下の部分は紐で結ぶことが出来ないため、分かれたままにしており、着物のように袖を伸ばすことで、その分かれ目を隠している。

いかにも涼しそうな服装だが、それもそのはず。元々この服の作り方は隣国から教わったものだ。高地にあって涼しい気候のこの国には合っていない。

今回はその結び目の位置が綺麗に1列揃っていなかったため、アサディーは監視者に目をつけられたのだ。


(カパからわずかに出ていた腕を見て、瞬時に結び目が揃っていないことに気づいたのか?なんて目ざとい......それにしても、いつも1列に揃えていたか?)


性自認が女だった時にそんなことを無意識にやっていたことにアサディーは驚いていた。ただでさえ片腕だけで紐を結ぶのは難しいのにも関わらず、その結び目を1列に揃えるのは至難の技なのだ。

体の造り自体は変わっていないはずなのだが、自認しているのが男の場合、どこか大雑把なところがあったり、不器用なところがあるアサディーはこれからどうすれば良いか頭を悩ましていた。












その後、多少の揉め事はあったものの、比較的穏やかに作業を済ませることができ、アサディーらはようやく帰路につくことが出来た。


(お腹が空いた...)


アサディーがそう思って空を見上げると、そこには歪な形をした月があった。


(あれ?夢で見た見たのと似ているような気が...?)


しかし、その月は別に揺らめいてなどいない。だが、今まで見たことがないその月の形にアサディーは不思議な胸騒ぎを覚えた。けれど、それも一瞬のことで、すぐにそんな嫌な感覚は霧散する。そんなことよりもアサディーは空腹の方が辛かった。


(そうだ、お腹が空いたといえばあのドラゴンにも餌を持っていかなければならないんだった。空腹と疲労で頭が回らなかったのか。だが、虫はどうするべきか?)


そこまで考えて、アサディーは妙な違和感に歩く速度を緩めた。


(ん?虫は昨日あの子供と一緒に探しに行かなかったか?その後は...)


途中で昨日の出来事を鮮明に思い出したアサディーは完全に足を止めた。未だに実感の湧かない出来事だった上に、度重なる空腹と疲労で全く頭が回っておらず、今の今まで昨日の出来事を忘れていたという事実にアサディーは驚愕した。


(もう会えない...)


土に埋められたドラゴンを思い出して、アサディーは昨日より深くそう実感した。

しかし、昨日ほどアサディーの心は重く沈んでいるわけではなかった。不思議なことに、男になっているアサディーは女のアサディーよりも少しさっぱりした所があった。冷たいとも言えるかもしれない。何か一つに執着し過ぎず、無謀にも自分一人で何事も出来ると思っているような性格なのだ。

実際には、それが不可能だということをアサディーもしっかり分かっている。しかし、感情面から言えばそういう節があった。

だから、今日性別が変わってしまったのかもしれない。そんなことを考えながらアサディーは再び歩みを進めたのだった。











与えられている睡眠時間は少ない。寝られる時間が着々と削られていることに焦りを覚えつつも、卵を得るために、アサディーは1度少年と訪れた森の奥へと足を踏み入れた。

その場所は川のせせらぎが聞こえる以外何の音もせず、本当にこの場所で合っているのかアサディーは一抹の不安を覚えた。

不意にぼとっ、という音が聞こえ、アサディーは心臓を跳ね上がらせながらも音のする方へと慎重に歩みを進めた。

一体何の音だったのかと地面を見ると、そこには一つの卵が転がっていた。アサディーがよく食べていた卵だ。

アサディーがそう認識するのと同時にぼとっという音がして、上から卵が降ってきた。

予想外のことで驚いたアサディーは、思わず上を見上げると、巣は比較的地上に近い位置にあり、雛が巣から卵を落としているのが見えた。

その光景を見たアサディーは、別の鳥の巣で1番最初に産まれたカッコウの雛が、まだ産まれていない他の卵を巣から押し出して落とす様を思い起こした。

地面に落ちている卵を見れば、落とされた巣が地上から比較的近い位置にあったせいか、割れている様子はなかった。しかし、巣に戻そうにも今あの鳥の雛がいる以上何度でも戻した卵を巣から落とすだろう。他の巣に入れようにも他の巣は地面から高い位置にありすぎてアサディーが木を登って入れるには不可能のように思われた。

何より、こんな言い訳じみたことを思っている時点でアサディーの頭には助けるという考えは無いのだ。先程からお腹が酷く鳴っている。


(まさか、当時は残酷だと思っていた鳥の本能に助けられるなんて...)


しかし、そう思ってはいるものの中々アサディーは落ちた卵達に手を伸ばすことが出来なかった。心はもう決まっているのに、その行為が酷く醜いもののように思えて躊躇ってしまうのだ。


(散々、この鳥の卵に助けられて、今更醜いも何もあったものじゃない...)


しばらく卵を見つめていたアサディーだったが、ようやくその卵を手に取った。しかし、それでも手の中の卵を見つめ続けることを止めない。アサディーはただただこの鳥の卵か産まれるはずの雛が可哀想で仕方がなかった。

アサディーの頭に、片腕を失った少年と死んでしまったドラゴンの姿が蘇る。


(贖罪のためにどう生きていいのか、そもそも生きていいのかも分からないこんな人間に食べられるなんて本当に哀れだ...)


どうしていつも真っ当に生きたいのに周りを傷つけてしまうのか、アサディーには分からなかった。


(...サーバントみたいに1歩引いて接してくれたらどんなに良かったか。俺の本能は醜くも生きたいと願ってしまう。だから、助けを求めても巻き込まれないよう傍観しているサーバントとの距離が1番楽だった...俺の何がいけなかったのだろう?)


答えの出ない問いかけを自分に何度もしながら、アサディーは寝所へ戻るしか無かった。











物音を立てないよう、アサディーは静かに部屋まで歩いた。

アサディーの目の前には粘土を焼いたような板がある。その板は上下で分かれており、麻縄のような縄で上下の板を結びつけることによって2枚の板はくっ付いていた。この縄を解くと下の板が下に落ち、部屋に入れるという仕組みだ。

しかし、アサディーの背丈では縄の結び目の位置まで手が届かない。そのため、この扉の近くに台座を置いている。今回もその台座を用いて部屋に入ろうと思ったアサディーの視界に扉の隅で転がっている台座が映った。

台座が転がっていることに僅かな違和感を感じながらも、早く眠りたいと思っていたアサディーはすぐに台座を拾い上げて、音を立てないよう、慎重に板を下に下ろした。

部屋に入ったら早く扉を閉めて早く寝ようと思いながらアサディーが部屋に足を踏み入れると、足元からピチャリという音が聞こえた。まるで水たまりにでも足を踏み入れた感覚にアサディーは疑問に思い、足元を見下ろした。

アサディーの足元には真っ赤な深紅の水たまりが広がっていた。

それを見たアサディーは一瞬思考を止めた。そして、思考を止めたまま顔を上げ、部屋の中を見渡した。...見渡してしまった。

混乱の最中、アサディーがまず初めに感じたのは恐怖だった。死屍累々となっている部屋の惨状にアサディーは恐怖した。足が震えて、立っているのすらやっとの状態だったアサディーは生死の確認すら行うことが出来なかった。だが、もしアサディーの体が言うことを聞いていたとしても、アサディーはきっと死体の山に駆け寄ることなど出来なかっただろう。もし、それで心の臓が止まっていることを確認してしまったら、死んでいるのだと認めなければならないからだ。

死んでいると確認しなければまだ生きている可能性があるのだと、混乱し正常に回っていない頭で判断したアサディーは、ただ己が倒れないよう震える足に力を込めるのに必死だった。一度倒れてしまえばもう立ち上がれない、そんな確信がアサディーの中にあったのだ。

そして同時にアサディーの頭の中ではずっと警鐘が鳴り響き、早くここから離れなければいけないと本能が語っていた。しかし、それでもアサディーはその場から離れられずにいた。

今部屋の前でこの惨状を生み出した張本人が待ち構えているかもしれない、今後ろを振り向けば凶器を持った犯人がこちらに刃物を向けているかもしれない、そんな妄想がアサディーの頭を過ぎり、恐怖に飲み込まれてしまったアサディーは声もあげられず、息をすることさえ忘れてただ硬直するしか無かったのだ。

見たくもない光景を目に止め続け、どれくらいの時間が経っただろうか。どれほど待っても何の衝撃も無く、アサディーは恐る恐る背後を伺った。そこには誰もおらず、ただ開いたままの扉があるだけだった。

それを確認したアサディーは急に息苦しさを覚え、自分が知らずのうちに息を止めていたことに気がついた。慌てて深呼吸をし、また恐る恐る正面の光景に向き直った。実は一度見た時は、その光景の意味を理解した瞬間に思わず視線を床に落としてしまったのだ。もう一度きちんと目の前の光景を見て、アサディーは言葉に表せない感情になった。怖いのか悲しいのか、泣きたいのか叫びたいのか、よく分からない感情がごちゃ混ぜになって一気にアサディーを襲った。

その感情を処理しきれないアサディーはただ、顔を歪め、早鐘を打つ心臓音を耳にしながら浅い呼吸を繰り返すしか無かった。

それでもずっとそのままではいられない。慣れたくはないがようやく血なまぐさい臭いにも慣れてきた頃、アサディーはじりじりと死体の山に近づいて行った。床には血痕が飛び散り、まるで足を床で擦るかのように歩みを進めていたアサディーはその血痕が足に付着する度に肩を飛びあがらせて動きを止めた。

やっとの思いで死体の近くに来たアサディーだったが、中々死体に触れる勇気を持つことは出来なかった。

死体に近づくに連れて濃くなってくる血なまぐさい臭いも手伝ってか、アサディーは胸がむかむかしてくるのを感じていた。


(吐きそう...)


ただでさえ青白かった顔をさらに真っ白に変えて、アサディーはゆっくりゆっくり死体のそばにしゃがみ込んだ。

亡くなってすぐなのか、気絶しているだけと言われても不思議ではないほど死体は生者の気を残していた。しかし、恐怖に歪んだ顔の口から出るあぶくや体から流れ出る血液が誰かに殺されたのだと強く訴えていた。

もしかしたら、すぐに目を覚まして自分に襲いかかってくるかもしれない、そんな馬鹿げた考えが浮かび上がった瞬間、アサディーはその考えをすぐに頭の隅に追いやった。また、恐怖に飲み込まれてしまえば動けなくなると思ったからだ。

触る勇気も出ずにただ死体を眺めていると、アサディー脳裏に前世でのトラウマのような出来事が過ぎり、アサディーの胸は更にむかむかとし出した。


(違う...!お願いだから消えてくれ...!)


このまま死体のそばにいても前世のことを思い出して本当に吐いてしまうかもしれないと危機を覚えたアサディーは、なるべく何も考えないようにすぐに立ち上がり、再び扉の近くまで足早に戻った。

しかし、アサディーの頭の中は未だに混乱状態で、次にどう行動すればいいのか全く思い浮かばなかった。


(ど、どうすれば良いんだ?死体を見たらどうすればいいんだったか...?...それになんだ?この光景の妙な既視感は?前世のあの出来事とはまた別の...)


そこまで考えた時、急にアサディーの口が背後から塞がれ、後ろに引き摺られた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

随分前から死体を見た時の反応を想像していたのですが、結局長々とした文章になってしまいました...ちなみに未だに死体を見たら自分がどんな反応をするのか想像出来てはいません...

今回、主人公の設定を急に入れてしまった感じはありますが、少し先で使おうと思っている設定なので、頭の片隅にでも置いておいてもらえる嬉しいです。

主人公の設定が増えていって、捌ききれていない気もしますが、後の展開で使います...そして、恐らく主人公の設定はまだ増えます...

しかも、主人公の感情が複雑になってきて、どの場面で何の感情を優先するのか取捨選択が難しいですね...

至らない点も多いかと思いますが、精進しながら書いていきたいと思うので、よろしくお願いします。

次回くらいに少年の設定をもう少し公開出来ればいいなと思っています。

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