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恋愛もの

お湯の沸くキッチンの前にたたずむ僕

作者: たこす
掲載日:2018/02/20

こちらは、自作品『雪の舞う駅のホームにたたずむ僕』の二次創作です。

文章そのままに、場面を「カップ焼きそばを作ってるシーン」に置き換えました。

 お湯が沸いていた。

 コポコポ、コポコポと音を立てながら沸いていた。


 鍋の底から湧き出る空気の塊はどこか儚げで、まるで僕の心を象徴しているかのようだった。


「もういいかな」


 彼女は鍋の中を覗き込んでそう言った。


「もういいよね」


 僕もそれにこたえる。

 彼女は鍋を持ち上げると、蓋を開けて待っていた2つのカップ焼きそばに注ぎ入れた。

 湯気とともにカップ焼きそばのいい匂いが漂ってくる。


「どれくらいでできるかな?」


 震える声で尋ねると彼女は言った。


「たぶん、すぐよ」


 嘘だとすぐにわかった。

 彼女は嘘をつくとき、首を傾ける癖がある。

 目の前の彼女は首を傾けてゆらゆらと身体を揺り動かしていた。


 その仕草がとてもかわいくて、僕はわざとだまされたフリをした。


「そっか、よかった」

「うん……」


 彼女は頷くとグッと僕の胸に頭をもたげてきた。


「だから、少しだけ、我慢して」

「すぐに食べられるんだ。我慢するよ」

「うん」


 彼女は頭をもたげたまま離れようとしなかった。

 じっと僕の胸に頭を押し付けていた。

 その肩に手を添えると彼女は言った。


「まだ、開けないでね」

「うん、君もね」

「熱いから、気を付けてね」

「うん、君もね」

「スパイスには気を付けるんだよ?」

「うん、君もね」

「お湯を捨てる時、麺をこぼしちゃダメなんだから」

「うん、こぼすもんか」

「………」

「……他には?」

「ええと、それから、それから」


 なおも言いたそうな彼女だったけれど、無情にもセットしていたキッチンタイマーが鳴り響いた。

 完成の合図だ。


 彼女は僕の胸から頭を放して、こう言った。



「出来上がりだね」



 チョロチョロッと流れるお湯の音とともに湯気が立ち上る。

 巻き起こる煙の中で、彼女は泣いていた。

 ボロボロと涙をこぼしながら泣いていた。


 なんで?

 なんで泣くの?

 お湯を捨てただけで泣くなんて。



 泣き虫だな。



 僕は曇った彼女のメガネを覗き込みながら精一杯の笑顔を見せた。

 クシャクシャな顔をした彼女の顔がいっそうクシャクシャに歪む。

 スッと伸ばした手の平が、僕のカップ焼きそばに触れた。


「ソース……」

「……え?」

「ソース……先に入れた」

「あ」


 気が付けば蓋からはソースの色に染まったお湯が流れ出ていた。


 やってしまった。

 僕はとんでもないことをしでかしてしまった。

 まさかソースを先に入れてたなんて。

 大失態だ。

 だから彼女は泣いていたのか。


 申し訳ない顔をして横を見ると、彼女は涙目を浮かべながら僕の頭を小突いた。


「このおっちょこちょい」


 クスリと微笑む彼女に、僕は「てへっ」と舌を出した。

お読みいただきありがとうございました。

元の作品も読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。ソース……! そして、パロディ→原作の順で読んだものですから、後から考えると、何だか二人の結婚後の日々みたいで、じわじわと感動が。
[良い点] あ、サイレントで? 失礼しました〜 スタコラ〜 え? 違う? 感想書いていい? てか、あいかわらずのラブラブさんに心がほっこり……癒されました。。。 [気になる点] ソースは泣く…
[良い点] >湯気とともにカップ焼きそばのいい匂いが漂ってくる。  突っ込もうと思ってたら、まさかこれがソースを入れてしまった伏線だったとは!  このリハクの目をもってしても見抜けなかった!
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