猫にしつけられた男
気まぐれ投稿。
飼い猫との思い出です。
もしかしたら、勝手に脚色が入っているかも知れませんが(笑)
子どもの頃、家にミーコという猫がいた。
元々は、隣の家の敷地に住み着いていた野良猫が生んだ子猫だった。
隣の家のお婆さんが1匹の子猫を抱いて来て、僕の4つ上の兄に手渡すシーンが、僕の一番古い記憶だ。僕は母に抱かれ、それを見ていた。
ミーコにとって小さな僕は、保護すべき対象だったのだと思う。
夜はいつも兄がミーコを抱いて布団に入るのだけど、兄が寝入るとミーコは布団を抜け出し、隣で眠る僕の布団に潜り込んで来た。
ただ、いつも僕のお腹の上に乗っかって来るので、毎夜毎夜起こされるのには閉口したものである。
また、家の中で僕が1人遊びをしていると、獲物を持って来てくれる時があった。
ネズミである。
数十年前の田舎の話なので、家の中にネズミもいたのだと思う。
でもやはり、ネズミはキツかった。
ミーコがネズミを持って来てくれる度に、僕は泣いて父や母に助けを求めたものだ。
なお、ネズミはたまに生きている時もあり、僕が怯えて泣いているうちにヨタヨタと逃げて行ったりもした。そうなると、僕はさらに号泣である。
ミーコは何度もネズミを捕まえ治し、根気良く僕の前に置き続けた。
気持ちは嬉しかったけど、大迷惑だったよ。
そんな世話焼きのミーコだったけど、実はスパルタ猫だった。
その頃、僕の顔には常に2本とか3本の縦線が描かれていた。マンガの様な話だけど、ミーコに引っかかれた痕だ。
今にして思えばよく目を怪我しなかったと思うけど、両親は顔を引っかかれて泣く僕を、「ミーコに悪い事したんやろ」と笑っていた。豪快な両親だった。
で、どうして僕がミーコに引っかかれるのかと言うと、触り方が悪かったのだろう。
どんな触り方をしていたのか憶えていないけど、寝転がっているミーコを触っているうちにいきなりミーコの爪が飛んで来る。そしてミーコが立ち去り、泣いた僕が取り残されるというのが、いつものパターンだった。
でも僕が泣いたのは、引っかかれた痛みや驚きよりも、ミーコを怒らせた、ミーコに嫌われたという悲しみのせいだった様に思う。
「もう悪い事しないからー!」と泣きながらミーコを追い回していた憶えがある。完全に逆効果ですよね。
しかしミーコに嫌われて落ち込んでいると、決まってミーコの方から近づいて来てくれるのだ。
気のなさそうに歩いて来て、僕のそばにゴロリと寝転がるのである。
あれ? 許してくれたのかな? 僕はおそるおそるミーコに手を伸ばす。
ミーコは逃げない。
そっと触る。
ミーコは逃げない。
撫でてみる。
ミーコは逃げない。
嬉しくなって、撫でまわす。
ミーコに引っかかれる。
僕、泣く。
ミーコ、立ち去る。
きっと、僕は物覚えが悪かったのだろう。
でも今、スパルタ特訓の甲斐があって、猫を撫でるのは大得意です。ありがとう、ミーコ。
ある日ミーコは姿を消して、それっきり帰って来なかった。