変化を望む中身、停滞を望む外見
昔、こんな言葉を聞いたことがある。
「変わらないことは、逃げ」
「変わることは、今の自分からの逃げ」
どちらも正しい。正しいが故に究極の二択である
変わりたいと願えば、今までの自分を否定してしまう。
変わりたくないと願えば、これからの自分を否定してしまう。
ならば、どちらを選べばいいのだろう。
そもそも、選ぶこと自体間違いなのだろうか。
しかし『二択』には、『選ばない』なんて、
三つ目の選択肢は出されていない。
なら、どうすればいいのだろう?
「…ぃ。ぉーい。おーい、聞いてるか?」
一人頭の中に浮かんでしまった疑問を考え自分の世界に入っていると、誰かから声をかけられる。それによって、自分の意識は頭の中から相手へと向けられる。
「あっごめん。聞いてなかったわ。んで何だっけ?」
「うわっ酷いなー。恋愛相談の最中にそれはないでしょ!」
彼から言葉を聞くことによって、自分が今どういう現状に置かれているかを思い出す。
「あぁーごめんごめん。それでそれで?」
「適当すぎる…だから、亜衣ちゃんに告るか告ら無いかの話!」
彼が言っている『亜衣ちゃん』と言うのは、高校に入ってからの仲の良いグループにいる女の子のことだ。
「分かってるって!それでどうするんだ?」
「だから相談してるんだよ!告って成功してこのグループの空気をちょっと変えちゃうか、あえて告らないで今のみんな楽しい現状を維持するか。」
「あっ、成功することは決まってるのね。」
何言ってるんだコイツ。そう思ってしまった。
「そんな事はいいから、意見行かせてよ『駿』!」
自己紹介が遅れてしまったが、俺の名前は
『二原 駿樹』だ。
…って俺誰に自己紹介してるんだろ。恥ずかし…
「まぁ、個人的には今のままがいいかな?もし仮に、『蓮太郎』が振られちゃってグループの空気悪くなると困るし…あと成功して、2人が幸せそうなの見ても、イライラするだけだし…」
彼の名前は
『香山 蓮太郎』
高校に入ってからのグループの1人で、若干おちゃらけ者のうるさいヤツだ。
…またやってしまった…独り言する癖何とかやめないとな。
「うわっ。サラッと自分の願望入っちゃってるよ…」
ちなみに俺は、高校に入ってからの
『リア充を的に見てる、弄られキャラ』
を作っている。
何故かと言うと、都合がいいからだ。
このキャラはグループの中心にいることが出来る。
誰からも弄られるということは、皆と等しく繋がりができるということだ。
後、色々試してこれが一番しっくりくる
っと言うのも理由になっている。
「うるさいな…いいだろ!リア充なんて目に毒。目に毒なんだから!」
「なんで二回言ったんだよ。はぁ、これだから駿は、顔は良いのに性格に難があるから彼女出来ないんだよ…」
顔が良いなんてそんなこと思ってない癖に。
「そうなんだよ!顔もいいのに…か・お・も!」
「いやほんと、そういう所」
「まぁ良いじゃん、それでどうするの?」
「それを!駿に相談してるんだって!」
「あれ?そうだったっけ?」
「はぁ、駿が話そらすからだよ…」
「ははっ、まぁさっきも言ったと思うけど、俺は今のままがいいかな。正直今のこの感じが一番居心地良いからね。でも、もし蓮太郎が本当に、亜衣の事が好きなら、告白しても構わないと思ってる。ごめんな、さっきと言ってることが矛盾してるけど…」
「言おうとしてることは分かるけど…うーん…やっぱりもうちょっと待ってみるよ!いろんな人に相談してから決める!話聞いてくれてありがと!今度何か奢ってやるよ!」
良かった、上手くいった。ごめんな蓮太郎…
俺は、今変えられると困るんだ。
だから、だから。
もう少し、もう少し待っててくれ…
俺に、変わる決心がつくまで。
「なんか上から目線だな…5000カラットのダイヤで!」
「いや無理」
「えっ!?じゃあ、永遠の命で」
「はぁ、なんかもういいや。今度夕飯な」
「いやさっき、何かって」
「ゆ・う・は・ん・な!」
「あっはい」
「じゃあ、俺部活行ってくるね!」
「おう、怪我すんなよー」
「あいよ!今日はありがと!また何かあったら相談するな!ほんとに駿は頼りになるよ!」
「あぁ、何も出来ないと思うけど、話くらいは聞くよ」
「おっけー!じゃあまた明日ー!」
「また明日ー」
『頼りになる』か
俺なんかに話してくれて、そんなこと思ったのか。
ほんとに思ってくれたのか?
…よそう。あまり深く考えるな。
「っさぁ、帰るか!」
心では変わりたいと思ってる。
けど、心に身体がついて行かない。
思う事はいつもやってきた。
行動を起こそうとも何度も思った。
でも、その考えとは裏腹に身体は止まり、後ろを振り返る。
進む事を、変わる事を恐れて。
変わったことによって『変わる』今を恐れて。
オレンジ色に沈む夕日を背に、
いつもと変わらぬ景色を前に、
彼はまた、
彼はまだ、
『変化』を恐れる