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38 グールとの争い

 長江を攻略していた日本人は三峡ダムの決壊による災害をダンジョンに籠りやり過ごすことができた。そして次に始まった核攻撃もダンジョンに籠りやり過ごす事ができた。それで済めばよかったのだが……




 三峡ダムの決壊で生じた激流により長江のあちこちで土砂や瓦礫が溜まり堤防は決壊した。加えてその後の核攻撃で長江流域には幾つものクレーターができてそこに水が流れ込んだ。長江はその流れを変えてあちこちで水が引いて河底が露わとなった。河底であったところには水溜まりが無数にできていて魚介類が取り残されておりグールがそれを捕りに来るようになった。


「王さん、この深そうな水溜まりはダンジョンじゃないか?」


「ああ、そうみたいだな。水が澄んでいるのに底が見えん」


 その水溜まりは遠目にはただの大きな水溜まりに見えたのだが魚を捕ろうとして近づいてみると周辺にある水溜まりとは違い水が澄んでいた。そして水が澄んでいて魚影は濃いのに底は見えなかった。


「魚がいくらでも捕れそうだな。ダンジョンなら中で繁殖しているだろうし」


「だがそこらの水溜まりと違って深いから容易には捕れんぞ」


「それはそうだ。でも網を入れれば捕れるんじゃないか」


「そうだな。だがその網がない」


 水溜まりに取り残された魚なら素手で充分だと二人が持ってきたのはバケツだけだ。


「網は取りに戻ればいいさ」


「俺は網なんて持ってないぞ。陽さんは持ってるのか?」


「そんなのは持ってる奴を探せばいいさ」


「それはそうか。じゃあ、魚もそこそこ捕れたし戻って網を探すか」


 王と陽は自分たちの見つけたダンジョンの中が水で満たされていると思い込んでいて人が住めるとは思っていなかった。それでたいして重要とは思わず網を探しながらダンジョンを見つけたことを吹聴した。そして翌日、網を何とか都合した二人は知り合いを数人誘ってダンジョンの水溜まりに来たのだがそこには既に大勢の者がいて魚を捕っていた。


「陽さん、出遅れたぞ」


「焦らなくてもこれがダンジョンなら魚は捕り尽くせないほど中にいるさ」


「それもそうか」


 そんなことを話しながら網を用意しているとダンジョンの水溜まりから一人の男が浮き上がってきた。


「このダンジョンの中には空気があるぞ。魚も取り放題だ」


 男は自慢げに魚の詰まった魚籠を掲げて見せた。すると辺りからこんな声が聞こえてきた。


「空気があるなら住めるよな?」


「深層を攻略して主になれるやもしれんぞ」


「主になれば今の惨めな生活からはおさらばだ」


 グールたちは先を争って水溜まりへと飛び込み始めた。あわよくばダンジョンの主になれる。主にはなれなくても深層の攻略に関わるだけで主の取り巻きとして支配層の一員ぐらいにはなれるかもしれないのだ。魚なんて獲っている場合ではない。

 シナでは核攻撃で地表の産業基盤が破壊されると地表を勢力基盤とする支配層が力を失いダンジョンに住む者たちが好き勝手に動くようになった。そしてダンジョンの深層に住む主とその取り巻きたちが新たな支配層として台頭した。この状勢下ではダンジョンの深いところに住む者ほど位は高くダンジョンの外で魚を捕っているような者たちは底辺だ。彼らはダンジョンへの出入りを許されてはいるが住居は外にあり中に住むことは許されていない。核攻撃が続く間はダンジョンへの避難を許されていたが核攻撃の応酬が終わると早々にダンジョンから放射性物質の漂う外へと追い出されていた。この底辺から通常の手段で深層に住む立場になるのはまず不可能だ。だが未攻略のダンジョンなら深層に辿り着き主となれば一気にダンジョンの支配者に成り上がれる。

 底辺から這い上がるチャンスが転がり込んできたと皆が先を争って水溜まりへと飛び込んでいるのに王と陽の二人はそれに加わらずにいた。


「王さんは行かないのかい?」


「俺が泳げないのは知ってるだろ。陽さんだって泳げないからここにいるんだろうに」


 ダンジョンの水溜まりの周りには二人のように泳げない者たちが屯っていた。


「そうだけどさ。主になれるチャンスだぞ。何とかならんもんかなぁ」


「もとは河底のダンジョンで中は水でいっぱいだ。泳げん俺たちには何ともならんよ」


「泳げればいいんだよな」


「ああ、泳げればな」


「よし決めた。俺は泳げるようになる。今日から練習する」


「練習しても泳げるようになる頃には主は決まっているぞ」


「主にはなれなくても主の取り巻きぐらいにはなれるだろ」


「そんなに上手く行くもんか!中層に住めればいいところだ」


「それでも今よりはマシじゃないか」


「それもそうか。どうなっても今よりはマシだな」


「それにダンジョンがここだけのはずがない。ここで主になれなくても他でなれるかもしれん」


 王と陽の二人はその日から水泳の練習を始めた。


 長江沿いでは河底にあるダンジョンに住めることが知れ渡った。水の引いた河底にはダンジョンを求めて底辺から這い上がろうとするグールが押し寄せ、日本人の住むダンジョンにはグールの侵入が相次ぐようになった。








 日本人は三峡ダムの決壊でダムより上流で水位が下がることは想定していた。他勢力からの攻撃がなくても三峡ダムがいずれは決壊すると考えていたからだ。三峡ダムについては中華人民共和国が崩壊する前から色々と言われていたからな。それでダムの決壊で露わになるであろうダンジョンについてはモン族を支援して防備を手厚くしていた。だがそれに核攻撃が加わることで長江の河底にあるダンジョンがここまで露わになるとは思ってもいなかった。日本政府はシナで共産党勢力が南進を始めたときに日本への核攻撃がありうるとして避難訓練を始めたのだがシナの産業基盤を破壊しつくすまで核攻撃がエスカレートするなんて全くの想定外だった。ダンジョンの存在が核兵器による相互破壊という歯止めの力を減ずることには気づいていたのだが、戦術核を二、三発撃ちあえばシナの各勢力は互いに威信を保ててそこで核攻撃を止めると判断していたのだ。ダンジョンの存在がここまで核抑止力の箍を緩めるとは思ってもいなかった。そんな訳で日本人は想定外に大量のダンジョンが露わになったことへの対応に追われることとなった。


「報告します。島に上陸したグールの掃討を完了しました。味方死亡者0負傷者五、敵死亡者二十三負傷者0、敵生存者はダンジョンから撤退したと思われますが念のため島内と水中を捜索中です」


「侵入した敵は三十程か」


「島への上陸を許したのはそのぐらいです」


「少ない気もするがどう思う?」 


 島に上陸してないグールがいるにしても数が少ない気がする。まぁ、そのお陰でグールの侵攻を楽に阻止できているのだが。


「それは泳げるグールが少ないからでは?」


「このダンジョンには今まで五回の侵攻があって我々は総計で百人を超えるグールを殲滅した。泳げる者が少ないなら少ないなりに数を揃えてから一気に侵攻してくればいいだろう?なんで少ない人数で何度も侵攻してくるんだ?」


「何故でしょう?勢力が違うとか同勢力の中に派閥があって手柄争いをしているとかですかね?」


「派閥争いはあり得るな」


「派閥の下部組織が別々に探りを入れているのかもしれませんね」


「これが探りなら近いうちに大挙して攻めてくるかもしれんな」


「その可能性はありますね。長江流域の地表にあるダンジョンの中に河や湖がないとは思えません。泳げるグールがもっといてもおかしくないです」


「そうなんだよ。でも衛星での観測によると長江や湖で泳ぐ者は少ないんだ。日本では海にあるダンジョンに住むようになってから水に適応した姿形の者が急増してダンジョンの外の川や湖でもよく見かけるだろ?でも長江にはそれらしいグールが見当たらなかった。南進が始まる前の話だがな」


 日本の勢力圏では水に適応した者が増えてダンジョンの外でも珍しくもない存在だ。モン族にも水に適応した者が結構な数いる。だが今のところそれらしいグールは確認されていない。


「確かに攻めてきたグールの中にそれらしいのは見てませんね。なんとか泳げる感じのグールが大半です」


「水に適応したグールはいるにしても数が少ないんだろうな。大勢いればダンジョンの外に追われるものがいてそれらが長江や黄河に住み着いて河底にあるダンジョンも疾うに発見されていたはずだ」


「このままの状況が続けば楽なのですが」


「それはないだろうな。ダンジョン深層の湖等で訓練して泳げるグールを増やすことは可能だ。ひと月もあれば数は揃う」


 グールの奴らは水中のダンジョンにも住めるのを知った。侵入者の数が少ないのは探りを入れている段階だからだろう。泳げるグールが増えたら大挙して攻めてくる可能性は高い。


「海にあるダンジョンにもグールが攻めてくる可能性がありますね」


「海岸に近いダンジョンは今までより一層の警戒が必要だろうな」


 海にある人の住むダンジョンのほとんどは主が鯨類で解放状態にある。ダンジョンの深層まで行けば自分の属する群れのダンジョンとは繋がるし、イルカに付いて行くだけでかなりの数のダンジョンに自由に行けるようになる。一旦グールに潜入されたらどこまでも侵食されそうだ。








 王と陽は今日も泳げない仲間で協同してダンジョンの水溜まりに網を入れて魚を捕っていた。ダンジョンの主になれるかもと始めた水泳の練習はすでに止めていた。二人は銃を持った者がダンジョンの中に住んでいるのを知ると早々に諦めたのだ。時々諦めきれない者たちが徒党を組んでこのダンジョンに侵入していたが二人はそれを横目で眺めているだけだった。


「陽さん、奴らはまだ諦めてないんだな」


「主になれるチャンスだからな。諦めきれんのだろう」


「だが入った奴らのほとんどが戻ってこんのだぞ」


「最近のは浅層に住んでる奴らだ。外に住んでいる俺らみたいのは疾うに諦めてるよ」


 最初に勢い込んで入った奴らは一人も戻らなかった。ダンジョン攻略が順調で先を争って深層を目指している可能性もあるが一人も戻らないのはおかしい。それで様子見に入った奴が中の島に銃を持った者がいるのを見付けてこのダンジョンに人が住んでいることが知れた。そいつは小さな島ぐらいなら大勢で攻めれば攻略可能だと判断したのだろう。それで人を集めて二十人ぐらいで再突入したのだが一人しか戻ってはこなかった。他の奴らは銃で撃たれたそうだ。相手が強化される前の人なら銃を持っていようがどうにかできただろうがダンジョンに住む者が強化されていないはずがない。ダンジョンの外に住むほとんどの者がこれを聞いて攻略を諦めた。『このダンジョンには主が既にいるのだ。ダンジョンの浅層にすら住めない者が主となれる可能性はまずない』と。だが諦めきれない者たちはダンジョンの中に住む身内を頼って人を集めた。浅層に住む者たちはダンジョンを追い出された者たちよりは強いと自負しており、この主になれるチャンスに多くの者が飛びついた。だがそいつらもこのダンジョンに入ったきり戻ってはこなかった。


「だが浅層の奴らもほとんど戻ってはいないだろう?諦めてもよさそうなもんだ」


「浅層と言っても最近の奴らは中層近くから来てるらしい。自分たちなら攻略できるとでも思っているんだろう。俺らより強いのは確かだろうからな」


「お偉いさんたちは何を考えているんだろうな。銃もなしに勝てるわけもないのに」


「王さんは深層に入ったことはないのか?」


「怖くて行けないよ」


 王は物心ついた頃から地表に住んでいてダンジョンには浅層までしか入った覚えがなかった。ダンジョンは避難場所ぐらいの認識でずっと生活していたのだ。この辺りは核攻撃が始まるまでは戦闘に巻き込まれることもなく、選り好みさえしなければ仕事はいくらでもありそれでやっていけた。


「俺はダンジョンをいくつか渡ってきたから何度も入ったことがある」


 陽は戦闘地域からダンジョン伝いに逃げてここに辿り着いた口でいくつものダンジョンの深層に入ったことがあった。


「どんな感じよ?」


「中の様相は浅層も深層もそんなに変わらない。ただ深層に住んでいるのは化け物と言っていい。機関銃で撃たれても死にそうにないのがうようよいる」


「そうか、俺たちが死ぬ攻撃でも深層の奴らには屁でもないのか」


「だからダンジョンを攻略できないのも深層に住むお偉いさんから見れば俺らが弱すぎるのが悪いのさ」


「……深層の奴らに出張って貰えばこのダンジョンを攻略できるんでないの?」


「無理無理、ほとんどの奴が泳げないんだから。このダンジョンの中では俺らと同じさ」


 グールの支配するダンジョンに住むほとんどの者は泳げない。泳げるのは泳ぐのが好きで泳いでいる者か魚を捕るのが好きで湖等で潜って魚を捕っている者だけだ。魚が食べたいだけなら浅い池を造って魚を養殖すればいいので泳ぐ必要はないのだ。


「お偉いさんたちはこのダンジョンを攻略する気はあるのかな?」


「ひと月もすればわかる。攻略する気なら深層で泳ぐ訓練をしているはずだ。ダンジョンを攻略するとなれば監視している奴らの顔つきが変わるだろうさ」


 中からの侵攻があり得るのでダンジョンの水溜まりの周囲には鉄条網が張り巡らせれていた。そしてそこには監視棟がいくつも設けられていて出入り口では人をチェックして情報を収集していた。情報を得るためかダンジョンへ入ることに制限はなかったが漁をして魚が捕れても半分は取り上げられた。中から攻めてくる様子が全然ないため監視の奴らのほとんどは暇そうにしていた。


「今、監視している奴らはやる気ないよな。俺らの上前を撥ねるのが仕事みたいな感じだし」


「命令されて中層辺りから嫌々出てきている奴らばかりだからな。だが攻め込むとなれば深層からも何人かは出てくるだろうから雰囲気が変わるさ」


 






 探索班の市居と篠田はダンジョン内の巡回任務に就いてダンジョンの口の辺りでグールの侵入を警戒していた。南進が始まった頃にダンジョン探索が休止となり待機状態が続いていたのがグールの侵入が始まって防衛の人手が足りないのでこちらに回されたのだ。


「グールの侵入が始まってだいたいひと月か。思っていたほどグールの攻勢が強くならないな」


 篠田は相棒の市居に呑気に話しかけた。グールの攻勢は想定していたよりもかなり弱く、グールが侵入した当初の張り詰めた空気は霧散しており、二人は戦闘要員ではないこともあって緊張感の欠片もなかった。地表でのひと月はダンジョンの深層だと三年と四ヶ月ほどになる。戦闘の準備をするには充分な期間なのに戦闘が激化する兆候が全然ないのだ。


「地表ではまだ戦いが続いるしこちらに戦力を廻す余裕がないんだろうさ」


「それにしてもシナの人口からすると少ない気がするがなぁ。ダンジョン深層で泳ぐ訓練を受けたグールが大挙して攻めてくるような話だったろ」


「それだけ地表での戦いが激しいってことじゃないの?良いことじゃないか」


「良いことなのか?」


「良いことだろ?こちらに回す余裕がないほど奴らの潰し合いが続いているってことさ」


「そうか、そうだな。でも人数が少ないのはそれだとしてグールの武装がなんか貧弱じゃないか?船なんて小型船しか見ないし数も少ない」


「小型船しか見ないのはでかい船が入れるほどダンジョンの口が大きくないから当然だろ」


 二人が巡回しているダンジョンの口は水が引いたことで半水没のダンジョンのようになっており船で侵入できる状態にあるため船での侵入が多かった。ただその口はさほど大きくもないので小型船しか入れないし仮に口が大きかったとしても周囲は水が引いて水深が浅いから中大型の船を運んでくるのは困難だった。


「小型船しかないのはそれだとして数が少ないのは?」


「ん~船の数が少ないのはアメリカがやった電磁パルス攻撃の所為じゃないか?」


「電磁パルス攻撃って沖縄と台湾が巻き添えを食らったやつだよな。エアコンがいかれて大変なのは聞いたなぁ」


 アメリカ合衆国はシナ全土に対して電磁パルス攻撃を行っていた。大陸に近い沖縄と台湾はその巻き添えを食らった形だ。ロシアの一部も巻き添えを食らっていてシナ周辺の国々とアメリカ合衆国との関係が更に悪化していた。本当に巻き添えかどうかも怪しいものだからな。日本ではアメリカ合衆国の故意との見方が強くロシアと台湾でもそれは同じだ。

 中国共産党も世界各地に電磁パルス攻撃を行ったはずなのだが人工衛星からの攻撃で阻止されたのかシナとその周辺でしか電磁パルス攻撃による被害はなかった。


「シナは全土でインフラがやられたはずだ。産業地帯にある設備は電子機器がいかれてほぼ全滅だろうな。設備がなくては兵器も船も新しく作るのは難しい。既存の船も同じ様に電子機器がいかれているはずだからそれも設備がなくては修理するのは難しいだろう」


「そうか、攻撃したくても船の数が揃わないのか」


「そうそう、だからグールの攻勢が弱くてもおかしくはないってことさ」


「でも軍事施設は電磁パルス攻撃への対処を行っていたはずだろう?無事なのもあるんじゃないの?」


「確かに。でも無事なのがあってもこちらには廻せないんじゃないか?グールの奴らにとって地表での勢力争いに優先してまですることじゃないのさ」


「優先順位が低いってことか。こちらからもダンジョンの外へは攻めにくいもんな」


 ダンジョンの位置は知られていてグールはその周辺の防備を固めている。中途半端な動員ではダンジョンから出るところをやられるのが落ちだ。水に適応した者たちなら数は揃えられるが彼らは陸上戦には向いてない。ダンジョンの浅層を陸地に変えれば陸上部隊の大規模な動員も可能とはなるが城のお濠を埋めるようなもので防衛力が下がるためメリットよりデメリットの方が大きい。


「今までやりあってこのダンジョンの中がどんな状況かはグールの奴らも掴んでいるだろうな。向こうからも攻め難いけどこちらからも攻め難いことぐらいは」


「すると奴らの地表での争いが落ち着かない間はこのままってことか」


「グールの侵入が続いてもこちらから攻勢に出ることはまずない。日本政府の方針が変わらない以上グール間で勢力争いが続く限り今の状況が続くのさ」


 長江のダンジョンに住む日本人の多くは市居のようにこの状況が当面続くと考えていた。このダンジョンから打って出るのは非常に困難だ。ダンジョンの位置は知られているから敵が防備を固めている狭い海岸に上陸を強行するようなもので外からの支援なしには不可能と言っていいだろう。シナの沿岸部であればまだしも内陸部にあるこのダンジョンへの外からの支援は無謀にすぎる。ダンジョンに籠って防御に徹するのが賢明な選択だろうな。




 長江における日本人とグールの争いは膠着状態にあった。日本側から攻めるにはダンジョンの外からの支援が欠かせないが日本政府にそこまでする気はなかった。シナの地表で勢力圏を広げても苦労に比して得るものが少ないのだ。長江の河底にあるダンジョンは未攻略のものがほとんどだったがシナの地表にあるダンジョンのほとんどは攻略済みなのだから。そんな面倒なことに労力を費やすぐらいなら日本の勢力圏内に新たに発生するであろうダンジョンを探した方がマシであった。

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