32 海のダンジョンへの入植
日本人は人のみでは海のダンジョンの攻略を進めるのが難しいのを悟ると海豚と張り合うのは早々に放棄して海豚に導かれるままにダンジョンに入植して開拓を進めた。海洋の浅場でダンジョンを探すのは海豚に任せて開拓に専念したのだ。そんな訳で海のダンジョンを探す為に編成されたダンジョン探索隊の殆どは自らダンジョンを探す事は無く海豚を始めとする鯨類を追いかける日々を送っていた。三村と斎藤は二人で組んでそんな事をしているダンジョン探索隊の一員である。
「ダンジョン捜しを海豚に任せてからは頗る順調だな」
「海豚に先導されてダンジョンからダンジョンへ人と動植物を運んで開拓するだけだからな。楽なもんさ」
少し前までダンジョンの開口部へと人を誘導していた海豚達が最近はダンジョンからダンジョンへと直に誘導する様になった。まぁ、主が同じ群れの海豚ならダンジョンは繋げる訳だし、その方が楽で他国にはバレ難い事もあり、あっと言う間にこちらの方法が主流になった。初めの頃は海の中を自分達で試行錯誤しながら苦労してダンジョンを探していたのだからその楽な事に関しては雲泥の差だ。
「楽は楽なんだけど。バンドウイルカは活動領域が広くてダンジョンも海のあちこちにあるから面倒だな」
バンドウイルカ属は北極圏と南極圏を除く世界中の海に生息する。一つの群れが世界中の海を回遊しているなんて事はないが群れの活動領域はかなり広い。探索班は新しいダンジョンを発見する度に海のどの辺りなのか確認するのだがこれが結構な手間なのだ。海豚は近くにあるダンジョンから順に開拓を進めるなんて考えないからな。
「そうか?海豚なんてこんなもんだろ」
「斎藤ちゃんはバンドウイルカしか担当した事ないんだっけ?」
「そうだけど?」
「俺は此処に移る前はスナメリを担当してたんだけどスナメリは浅場に居て群れないしバンドウイルカみたいには動かないんだ」
「スナメリか~。スナメリならバンドウイルカのダンジョン内の浅瀬でもよく見るな」
「泳ぐのが好きなバンドウイルカとは全然違うだろ」
「まあな。のんびりプカプカと浮いているイメージだな」
「俺もそんな感じで呑気に遣ってたのさ」
日本からアラビア半島までの沿岸部の浅場に生息するスナメリは群れを作らず、自らダンジョンの主となるのは稀でたいていはバンドウイルカ等のダンジョンに棲み着いている。そんなだからスナメリが人を誘うダンジョンもそれらの別の海豚と共有するダンジョンかもしくは浅瀬にあるまだ未成熟なダンジョンだな。スナメリのダンジョンは日本の沿岸で一つ確認されたがそれが唯一で日本人は探査過程でそのダンジョンをあまり深く考える事も無しに攻略してしまった。そのダンジョンは成熟していて且つ開口部がかなり浅瀬にあった為か他の海豚とは共有されていない珍しいダンジョンだった。遠浅の海が延々と続いている不思議なダンジョンだったそうな。
「スナメリなら沿岸にある半水没のダンジョンにも普通にいるよな」
「ああ、昔は絶滅を危惧してたけど今では人のダンジョンでも順調に増えていて珍しくも無くなった。珍しいスナメリなら長江の淡水に適応した個体群だな。此処に移る前はそのスナメリを使って長江の河底にあるダンジョンを攻略できないか検討中だったよ」
「あそこは河海豚がいるだろう?動画を昔見た覚えがある。スナメリに入り込む余地があるのか?」
「残念ながら長江の河口では河海豚が確認されていないんだ。ダンジョンの浄化作用で水は綺麗になって餌の魚も増えたんだけどな。ダンジョンの氾濫で盛り返してないって事は絶滅した可能性が高い」
「それでスナメリか。……シナ人には見つからずにやれてるのか?」
「……俺が此処に移るまでは大丈夫だったがな」
「淡水には船を齧る魚はいないよな。……長江の船の往来はどうなの?」
「河口付近では船の往来はないって話だった。汽水域には齧る魚が出没するそうだ。だから船の往来がなくてその辺りの河底で何をしていようが見つかる危険は少ないんだ。淡水域についてはまだ調査を始めたばかりだったから俺は知らない」
シナ人が海に出て来ない事から齧る魚に対応する造船能力が無いらしい事は推察された。だが淡水でなら以前の様に船が使えるから船を利用している可能性があった。
「さっき呑気に遣ってたと言ってたけど今の話だとこれから長江の攻略で忙しくなるんじゃないのか?」
「そうなんだよ。それでそろそろそっちに廻されるかなと思ってたらこっちに廻された。バンドウイルカ班の方が圧倒的に忙しいんだとさ」
「バンドウイルカは生息域が広いからな。それに群れが無数にあってそれぞれに付かないといけないし人手はいくらでも欲しいのが現状だよ」
「確かにスナメリ班よりは忙しいよな。スナメリは群れないからそれなりに面倒なんだけどな」
「だけど長江のダンジョン攻略はシナ勢力に対する最前線なのにこっちに人を廻していいのか?」
「探りを入れている段階だからな。きっと、まだそう忙しくも無いんだよ。本格的な攻略が始まるまでには上の奴等が調整するんでないかな?」
「……そちらが忙しくなったからと戻られても困るんだがなぁ。インド洋から先に手を拡げる話も有るし。まぁ、今の所は太平洋で手一杯なんだけどさ」
「次は南米と聞いてるけど?」
「その次の話さ。インド洋から先は海豚によるダンジョン攻略が先行していて人の入植は追いつけていないのが現状だ。太平洋側を優先しているからな。あちらには人を廻せていないんだ」
「いずれは何処かの国が気付くだろうからそれまでに太平洋での日本の優位を確立しておかないとな。出来得れば世界中の海でと行きたい所だけどさ」
ダンジョンの開拓は海豚、鯨、鯱等の鯨類の間で瞬く間に広まって、鯨類は海洋でその存在感を増していた。このダンジョンの開拓を覚えた鯨類は世界中の海で人をダンジョンへと誘っていたのだが日本人以外はこれに気付いていなかった。
そんな状況下で日本人による海のダンジョンへの本格的な入植は始まった。まだシナ人の乱の最中で南極や南米、オセアニアの地でもダンジョンの攻略で忙しかった頃だな。入植を進めるに当たって勢力圏を鯨類の促すままに速やかに拡げようとする意見も出たのだが日本の方針は近場から確実に固めて行くものとなった。ダンジョンが繋がるにしても海のダンジョンに入植するとなると艦船は必要で、緊急時を考慮して近くの陸に拠点の無いダンジョンへの入植を避けたのだ。陸でのダンジョン攻略にも人が足りていない頃だったしあまり手を広げ過ぎるとダンジョン内の人口が少なくて非常時に手薄になる懸念もあった。人口の増加率からすると初期入植者一万人程で五年程何処にも露見しなければ計算上は大丈夫なのだが、誰もがこの件をそんなにも長い間に亘って隠せ通せるとは思ってもいなかった。
日本人はまず日本沿岸からシナ大陸沿岸に沿う形で海のダンジョンへの入植を進めて、次に東南アジア、オセアニアそして太平洋の島々へと手を伸ばしていった。日本近海から東南アジアにかけての海域で活動していたのは殆どが日本の艦船で事は露見しそうになかった。たまにアメリカの原潜がうろついていたが奴等は鯨類には興味が無い様で鯨類の誘いを受けている筈なのにそれに気付く様子もなかった。オーストラリアとニュージーランドの近海では事が露見するのを恐れて日本人は慎重に事を進めた。日本人から見ると鯨類の誘いはあからさまで日本人はこれが露見するのは時間の問題だと考えていたのだが何処からも気付かれる様子はなく、日本人は順調に入植を進めた。グアム等のアメリカ領の島々の沿岸でも入植を進めたが気付かれる様子はなかった。ハワイ近海に進出したのは南極宣言の頃だったがここでも気付かれなかった。
「なんか順調すぎて妙な気分だ。未だに何処にもバレてないなんて」
「本当にな。シナ大陸沿岸はともかくオーストラリアとニュージーランドはシナ人の乱も収まったのに何故海に出てないのかな?」
「さあ?沿岸に鮫が増えて危険だって話だからその所為かな?」
「鮫が増えたのは日本沿岸も同じだけど潜ってる奴はいるぞ」
「日本でも海水浴は下火だろ?潜ってるのは一部のもの好きだけだ」
「でもオーストラリアやニュージーランドにも物好きはいるだろ?それに日本よりもマリンスポーツは盛んだったと思うけど?」
「スキューバダイビングが盛んだった場所では見つからない様にダンジョンへの出入りを避けているだろ?まぁ、海豚はそんなのはお構いなしだし、人を見たらダンジョンへと誘うけどな」
「ペンギンすら海豚のダンジョンで繁殖しているのになんで気付かないんだろうな?」
オーストラリアとニュージーランドに棲むペンギン数種が鯨類のダンジョン内で繁殖しているのが確認されていた。鯨類のダンジョン内に陸生動物は居らず、人が入植するまでペンギンの営巣地に彼等の繁殖を脅かす存在はなかったと言っていい。ペンギンの他にアシカ、アザラシ、オットセイ等が鯨類のダンジョン内で繁殖していた。
「海豚のダンジョンと言ってはいるけど同じダンジョンに居るペンギンと海豚はどちらが先にダンジョンに棲み付いたか分からないんだ。道具がないと海のダンジョンに入れない人とは違うさ」
「ダンジョンの氾濫でペンギンが勢力を盛り返したのは知ってる筈だ。なら何処かのダンジョンで繁殖しているのは推定される。海中のダンジョンが怪しいと考える奴は居ないのかな?」
ニュージーランドでは鯨類を食べる習慣はなく、海辺に住む人達にとって海豚等は海に棲む身近な存在の筈なのだ。シナ人の乱の影響で国が乱れたにしてもそろそろ落ち着いたし、ダンジョンへの忌避が無くなったからには海豚の誘いに乗る者が現れても不思議ではない。日本人は鯨類のダンジョンの存在がいつ露見してもおかしくないと考えていた。
「日本でも以前は半水没状態のダンジョンで繁殖していると考える人しかいなかった。海豚がそこで繁殖しているのは確認されてるし、開口部が水没しているダンジョン内に大気が有るとは誰も思いもしなかったからな」
「川底にあるダンジョンぐらい調べればいいのにな」
「それはお前だからそう思うんだよ。お前は日本の川も長江と同じだと思ってるだろ」
「??どう言う事?」
「日本の川みたいに狭い川の川底にはそもそもダンジョンの開口部が発生し難いんだよ。ダンジョンは近くに地面が有ればそちらに開口部を造るんだ。その方が沢山の生物を誘い込めるからな。それで島国の川にはそもそもダンジョンが少ないんだ。日本なら川沿いの堤防にダンジョンの開口部がある可能性が高いな。そんな訳で日本では琵琶湖の湖底にはいくつもダンジョンが見つかってるけどそれに比べて川底のダンジョンは少ないんだ」
「ああ、そうなのか。俺はスナメリを使えば日本の川も攻略が捗るかななんて考えていたけど……」
「長江は幅が広い。だから河底にもダンジョンが普通にある。でも日本の川にはそれほどはないんだ」
「でもそれなら湖でなら見つかるって事だろう?海よりは危険が少ないしダンジョンに入る奴もいるんじゃないのか?」
「水中にあるダンジョンは一見すると唯の洞穴だ。水没していたら中も水で満たされていると思うだろ?中で迷って溺れる恐れがあるのに態々入ろうとする奴はそうはいないさ」
ダンジョンは中に棲む生物に合わせてダンジョン内の環境を整える。そうやってダンジョンの主を頂点とするダンジョン内の生態系を維持するのだ。そして川に棲む水生生物の多くは大気を必要としているからそれらが水中にあるダンジョンの中に棲み付くと大気ができる。日本の湖や川の水中にあるダンジョンの多くは人が攻略する以前はヌートリアや様々な水鳥が主だった。ヒグマはこのダンジョンに入り込んだとしても好む環境ではないのでダンジョンの主にはならない。水中のダンジョン内に草の種を持ち込む動物はいるけど木の実を持ち込む動物はいないから森が形成される事がなくて中の生態系はヒグマの好みではないのだ。人は様々な生き物を持ち込んでダンジョンを好みの環境にしようとするけど他にそんな動物はいない。
「確かに水に満たされた洞穴に入ろうとする奴はまずおらんな」
「そうだろう?」
「それにしてもこうも見つからないものかなぁ?」
「……オーストラリアでシナ人の乱が始まった時にオーストラリア人難民が海に逃げてバンドウイルカの群れに助けられた話は知っているか?」
「ああ、聞いた覚えがあるな。それがどうかしたか?」
「その海豚達なんだがオーストラリア人をダンジョンに誘っていたらしいんだ。船に纏わりついていたのは助けていたのでも遊んでいたのでもなくて人をダンジョンに誘っていたのさ」
「……その話は初耳だな。でもその頃は日本ですら海のダンジョンの攻略に本格的には乗り出していなかっただろう?」
「そう。日本もまだ手探り状態の頃だな。研究者がバンドウイルカの誘いに乗り始めた頃の筈だ」
「バンドウイルカの生息域が広いのは知ってたけど情報の伝播も速いんだな。それにしても誰かは知らんが誘っているのに良く気付けたな」
「気付いたのは時々顔を出すダンジョン研究者の横井さんだよ。何処からともなく現れては色々と聞き回っているあの人」
「ああ、あの時々しつこく質問してくる人か。俺は基地で見かけても目を合わさない様にしてる」
「その横井さんが海豚に助けられたオーストラリア人の話を知って態々ニューギニアまで調べに行ったんだ。そして海豚が人をダンジョンへと誘っているのを確認した」
「ふ~ん。まぁ、普通は気付かないか。海豚が船と並んで泳いでいるのを見てダンジョンに誘っているなんて普通は思わんな」
「そうだろう?だからオーストラリア人やニュージーランド人はまず気付かないと思うんだ。ロシア人やヨーロッパ人も同じ事さ」
「そうにしても未だに事が露見しないのは偶々で運が良いだけとしか俺には思えんがな」
「まぁ、それが運だろうが気付かれてないんだからそれでいいさ。俺達の仕事は事が露見するまでの間に出来得る限り入植を進めて日本の勢力圏を拡げる事だからな」
日本人は誰もが何れは事が露見すると思いながら海のダンジョンへの入植を進めていた。だが事が露見する兆しはいつまで経っても表れず多くの者がそれを訝しく思いながらも入植は順調に進んだ。
三村と斎藤はその日もいつもの様にバンドウイルカに導かれてダンジョンからダンジョンへ移動したのだがなんとそこには先住民が居た。
「ではマニュアルに従って住民と接触しますかね」
「どうせ、また日本人だろ」
「駄目だよ、三村。先入観を持って仕事をしては。下手を打つと外交問題なんだから」
「でもなぁ、斎藤ちゃん。会って日本人でなかった試しはないじゃないか」
ダンジョンに先住民が居た場合はマニュアルに沿ってその住民と接触する。だが未だに先住民が日本人でなかった試しはない。そして今回も接触したらやはり日本人だった。このダンジョンは他の班が入植を始めた後だったのだ。なんだかなぁ。
「ほら、やっぱり日本人だった」
「此処はマダライルカのダンジョンらしいぞ」
「この前はバンドウイルカ、その前もバンドウイルカだった。その前はシナウスイロイルカだったかな。鯱だった事もあるな。でもどのダンジョンにも人は日本人しか居なかった」
「そうだな。今まで多くの鯨類のダンジョンに入って様々な鯨類を見たけど人は日本人だけだった」
「それにしても最近は他班とのバッティングが増えたよな」
「そろそろこの辺りからは人を移した方がいいな。こうもバッティングが増えると効率が悪い」
「そうするといよいよ南米か?ポツポツと試験的な入植を始めてると聞いたけど」
「ああ、バッティングが多い所から人を移す予定ではいるんだ。南米に廻るかどうかは上次第だが」
三村がスナメリ班から移ったばかりの頃はダンジョンで他の班とバッティングする事も少なかったのだが最近は珍しくも無くなった。回遊域が重なる鯨類が多くて各々の担当する鯨類から同じダンジョンに連れて行かれる事が増えたのだ。群れによって回遊域は決まっているから同じ群れに付いて行く限りこの傾向は続くだろうな。
「それにしても何でバンドウイルカは鯱と同じダンジョンに平気で棲めるのかな?ヒグマのダンジョンに人が住む様なものだろう?俺なら絶対に逃げ出すよ。不思議で仕方がない」
「……いや、そうとは限らないんじゃないか?猛獣のダンジョンの中に住み付いた人々も確認されているし。それに海豚を食べないタイプの鯱もいるからな」
「そうか、あまり不思議でもないのか」
「それに鯨類は広い海域を回遊しているからか縄張り意識が陸の動物とは違うんだ。互いが同じダンジョン内に居てもあまり気にしないんだよ」
「そう言えば沖合の深い海域を好む海豚もバンドウイルカのダンジョンに居るな。ダンジョンの中でも水の深い所が好きみたいで陸に住む人の目にはあまり入らないんだけどさ」
「三村が前担当してたスナメリもバンドウイルカのダンジョンに棲んでいるだろ」
「ああ、確かにそうだな」
ダンジョンの氾濫以降、陸の動物は総じて猛々しくなった。食物連鎖の頂点にいる類の動物は特にその傾向が顕著で体が巨大化した上に角が生えたり牙がでかく成ったりもした。そして陸でダンジョンの主となっている動物はダンジョンを丸ごと縄張りとしていて対抗し得る動物の侵入を許さない。下手に侵入を許したらダンジョンを乗っ取られるからな。ダンジョンの主が二種以上いてダンジョンを共有するなんてまず有り得ないのだ。同種でさえも群れが違えばダンジョンを共有しないのは普通の事だ。
ヒグマのダンジョンなら一層に数十頭ものヒグマがいてそれぞれが縄張りを持っている。そして同じダンジョンに棲むヒグマ同士であれば普通は遭遇しても互いに威嚇し合うぐらいで争いに発展する事はない。争うとすれば頭数が増えて縄張り争いが勃発するか繁殖期に雌の取り合いで争うぐらいだ。こうしたヒグマのダンジョンに人が群れを成して侵入し中でヒグマに遭遇すれば通常なら排除される。たいていは皆殺しにされるが運が良ければダンジョンから追い出されるだけで済む。人がダンジョン内でヒグマに遭遇しても威嚇ぐらいで済む場合もあるがそれは人が少数でヒグマにとって脅威ではない時だ。その場合のダンジョン内での人の立ち位置は他の小動物と違わない。人はヒグマの顔色を窺いながら生きる破目になるな。
対して鯨類はダンジョンの発生以降も外観的にはあまり変わっていなかった。バンドウイルカは少し大きくなってはいるものの鯱よりは小さく、鯱は元々の大きさから変わってはいなかった。鯨類は今以上に大きくなる事にさしてメリットがないのだろうな。陸の動物の多くが生やした角は泳ぎの邪魔になるのか鯨類に生えたものはなかった。元々牙が発達した一角の姿形は変わらないし他に牙が伸びた鯨類は現れなかった。ただこれはあくまで外観的にはと言う話で内側は随分強化されているらしい。泳ぐスピードは明らかに速くなっているし、歯の強度も上がっている、そして知能も上がっている様だ。まぁ、餌となる魚や甲殻類等が強化されているのだから何も変化が無ければ今頃は餌が食べれずに衰退してるわな。
バンドウイルカのダンジョンは他種との共有が普通になされている。何故そうなのかは色々と推測されているが要は大洋を棲み処とするバンドウイルカの活動領域が広いからだろうな。彼等のダンジョンは層の一層一層が陸の動物のダンジョンに比べると異様に広い。そしてその広さについてはダンジョンの主の意識が反映されたものと考えられている。この主の意識と言うのが重要で鯨類は縄張り意識が陸の動物とは異なるのだ。縄張りの境界領域が広いのかもしれない。少なくともバンドウイルカにとって他の鯨類は居て当然の存在でダンジョンから排除する対象ではないのだ。捕食者である鯱でもそれは同じでバンドウイルカと鯱は主が代わるのではなく新たに主が加わる形でダンジョンを共有していた。
陸であればヒグマに乗っ取られた人のダンジョンは主がヒグマに替わって人は主ではなくなる。でも海ではダンジョンの主である種が複数なのが普通だ。日本人はそれを利用して海のダンジョンに入植し、着々とその勢力圏を拡げた。




