13 極地の攻略
日本が北極圏に領土を持ち気付いた事は氷上にもたくさんのダンジョンが在る事だった。ロシア人も気付いてはいるのだろうが彼等はヨーロッパや中近東方面の救援に忙しく何もしてはいない様であった。日本ではダンジョンが在って攻略可能であれば攻略するのが方針であったので北極圏の氷上にあるダンジョンの攻略を進めた。ある程度まで北上すると熊も狼もいないからダンジョンの攻略は容易いものだ。日本人は競争相手がいない内にとどんどん攻略を進めた。で気が付くとグリーンランドの領海手前迄進んでいた。
「一応他国の領土と領海は避けているよな?」
「ああ、その辺りは抜かりない筈だ。気付かれたら面倒そうだしな」
「気付かれる迄は黙っていれば良いよな」
「問題ないだろう。何処の国でもダンジョンは基本的に攻略して占有した者のものだし此処は何処の国の領土でも領海でもないんだ。公海上だからな」
「そうだよな。国際法上は問題ない筈だ。ダンジョンについては何の取り決めも無いから早い者勝ちだよな」
ダンジョンが排他的経済水域での資源に相当すると主張される可能性はあるが日本は公海上に浮かぶ船に相当すると主張するつもりでいた。少なくともロシアとアラスカとは協約を結んでいてダンジョンの攻略については問題ない筈だ。カナダとも近々に協約を結ぶ予定だし問題はないだろう。それにまだ北極海の排他的経済水域は確定していないから何処とも交渉のしようがない。……後で揉めるかな?北極海に面する国には話を付けた方が良いかな?ロシアとは先に話を付けておこうか。アメリカはアラスカが独立した時点で北極海の権益には無関係だよな。アメリカが納得するとも思えないが。
「南極でもダンジョンの攻略は進めているんだろう?」
「ダンジョンの攻略は順調に進めているよ。本格的に始めたのは氾濫の半年ほど前からだな」
「問題にはならなかったのか?」
「施設の設置は南極条約があるから面倒なんだがダンジョンについての取り決めはないからな。ダンジョンは基地ではないし研究施設でもない。ダンジョンの攻略も自然環境の破壊ではないし問題はないだろうと極秘で進めた。先占する事にならないかが問題とはなったがな」
「先占かぁ。領有権を主張している国はあるけど南極条約で凍結されているし何処もそれどころではないだろうな。本国の維持が優先する。監視員制度はあるけど日本人以外はもう居ないんだろう?」
「ああ、ダンジョンの氾濫時に皆退去したからな。戻った様子も無いし。定期会議も開催の予定がない。確かに何処もそれどころではないのだろう。日本は昭和基地近くのダンジョンを攻略して強化人を迎え入れて以降は順調に攻略を進めている。平和利用だし、自然環境も破壊していない。日本のダンジョンと繋がっているからもう船を使って行き来しなくても済んでいる」
日本はダンジョンの氾濫以前に南極でもダンジョンの開拓を進めていて今ではそのダンジョンも日本の一般的なダンジョンと化していたので食料の心配すら無くなっていた。ダンジョン内に住む強化人がいくらでも供給してくれるからな。日本以外の国は退去した模様だ。他国は日本も退去したと思っているだろう。
「ダンジョンは物資の輸送には向かないだろう?」
「人の行き来には充分だし輸送だって商売では無いから少しづつで充分だ。競争相手もいないから攻略も着実に進めれば良いだけだしな。一番良かったのは越冬時の心配が無くなったことだ。冬でも日本と行き来できるんだからな」
「南極に残っている他国人は本当に居ないのか?」
「それは分からないよ。皆が退去する時はかなり混乱していた。取り残された者が存在しないとは言い切れない。無線も何も入らないけどダンジョンに籠っていれば生存の可能性はあるだろう?」
「他所ではダンジョンの利用はどのぐらい進んでいたんだ?南極にある基地での話だが」
「さあ?クリスチャンがダンジョンを忌避していたのは知っているけど宗派によって差が有る様だし、昭和基地は歴史的な経緯もあって他の基地からは離れているんだよ。他所の事はよく知らないんだ。研究者の交流は義務みたいなものだけどダンジョンの研究はその中にはないし」
「ロシアからの情報ではヨーロッパ各国の人々をダンジョンを攻略しながら救援している様だから以前のロシアと同レベルかそれ以下なんだろうな。アラスカ並かな?すると南極でダンジョンを積極的に利用していた可能性は低いのか」
当時の南極でダンジョンが見つかったとしてそれを利用しているかと言うと日本ほど積極的に利用はしていないのではないか。日本以外ではダンジョン内でもその地域の環境に合わせて田畑を造ったり牧畜をしたりするのが精々らしい。それに各国にダンジョンの研究者はいたが南極に来ていた研究者はダンジョンの研究に来ている訳でもない。彼等はダンジョンが見つかったとしてもダンジョンを開拓するかと言うと先ずしないだろう。日本の様に国がダンジョンの開拓を積極的に推し進める様な状況にない限りそれは無い。そうすると南極の内陸にあるダンジョンは精々ペンギンが風よけに使うぐらいしかない。南極には人を除けば陸生生物なんていないのだ。
日本が昭和基地周辺でダンジョンの攻略を始めた時には競争相手となる生物は何も居なかった。日本はダンジョン発見の報告を上げていたが何処の国の基地からもダンジョン発見の報告は上がっていたから特に珍しいものでもなかった。見つかったダンジョン内の占有については特に問題とする国も無く各国が政府の指示に従って行っていた。南極には農民はいないからダンジョンの中で作物を作ろうとする者はおらず、南極には猛獣がいなかったから猛獣が繁殖する筈もなく問題の起こり様が無かった。中で生物が繁殖していないダンジョンなんて唯の穴に過ぎない。ダンジョンの氾濫が始まった時点では南極でダンジョンを有効利用していたのは日本だけだったのかな?
極地で勢力圏を拡げ得るのは人だけだ。日本人は南極のダンジョンを攻略する事でダンジョンを用いれば極地でなら猛獣達を気にする事も無く人が繫栄できる事に気が付いた。日本人は北極と南極でダンジョンの攻略を順調に進めていった。そして両極を人が制するのに一国で進めるのでは時間が掛かり過ぎるとの結論となった。宇宙人の侵略が迫っているかもしれないのに。
日本政府は世界状勢が変わった事を鑑みて新しく北極海会議を開催したい旨をロシア政府、アラスカ政府、カナダ政府に伝えて迫ったのだが伝え聞く所によるとノルウェーとデンマークはそれどころではない状況らしい。では仕方がないと言う事で極秘北極海会議をグリーンランドの自治政府首相を交えて開催したい旨をロシア政府に伝えた。宇宙人の侵略が迫っているかもしれないのに時間が勿体ない。いざとなったらグリーンランドの独立を後押ししてしまえば良いと考えていた。
「日本の奴等は何を焦っていると思う?こちらが譲渡した所の領有が上手く進んではいないとかか?」
「そのような報告は上がっておりません。日本の領有は順調に進んでおりロシアとの協約に準拠してサハ共和国には入っておりません」
「一歩もか?確か協約ではサハ共和国内に緩衝領域を設ける事は認めていた筈だが?こちらにとってもその方が都合が良いのだが」
「そこは私も疑問に思いまして調査したのですが日本の奴等は何故か北極海の氷の上にあるダンジョンの攻略を進めていました」
「人が住まない融けるかもしれない氷の上か?獣達の繁殖地のある島ではなくてか?」
「ウランゲリ島には既に元の住民はいません。日本は島のダンジョンの攻略を進めている様ですがホッキョクグマの優位は覆らないでしょう。今、日本人が積極的に攻略を進めているのは唯の氷の上です」
「引き続き調査しろ。奴等の目的を掴め」
「ダー。了解しました」
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「何か分かったか?」
「ダー。目的は分かりませんがしている事は分かりました。日本人は北極海の氷上のダンジョンを次々に攻略しております」
「それは協約違反だろう?」
「いえ、確認しましたがロシア領海内には一歩も踏み込んではいません。協約では互いの許可なく互いの領域のダンジョンは攻略しないとなっていて対象から外れます」
「排他的経済水域内ではないのか?」
「排他的経済水域が未確定だから北極海会議の開催を望んでいるのだと思われます。既得権として認めさせるつもりでしょう」
「それにしてもだ。氷上のダンジョンを手に入れてもその下の資源は手に入らないだろう?ダンジョンは領土ではない」
「でも居住は可能です。北極海の氷上に幾つのダンジョンが存在するのかは分かりませんが膨大な数に上るでしょう」
「でもそれだけだ。資源も何もない」
「ダンジョンが在れば人は養えますよ。そして今のままだと北極海の殆どのダンジョンが日本人のものとなります」
「獣達は………寒すぎて何も居ないな。有るのは氷とダンジョンだけだ」
「そうです。競争相手は居ないので攻略も楽なものです。そして一つのダンジョンで百万人以上の角付きが居住可能です。千個のダンジョンを確保すれば将来的には総勢十億人となります」
「……北極海でそんなに養えるのか?何もないのに」
「ダンジョンが在れば可能です」
ダンジョンが一番重要な資源と言う事か。ダンジョンの数だけ人が養える。それも戦闘力が並ではない角付き供だ。それにしても北極海の氷上とは盲点だな。不毛な上に大地すらないのに。
「でも妙だな。会議などせずに黙っていれば良い話だろう?気が付いた時にはもう手が付けられなくなっている可能性が高い。会議の目的はなんだ?」
「我々なら黙っていますよね」
「我々が先に気が付いていればな。バレて何処かが騒ぎ出してからから会議を開いても遅くはない。……西と南ではなくて北に目を向けるべきだったな。日本政府に秘密会談を要請しろ。それと北極海の攻略を進めろ。それから南極へ行く検討を始めろ」
「南極ですか?」
「北極海がこれなら南極大陸も同じだろう?ダンジョンの攻略を進めなくてどうする。日本の奴等には出遅れているだろうがな」
「ダー。了解しました。サハ共和国は如何しますか手が足りませんが」
「レナ川から東を日本に押し付ける。そこまでは協約で可能な筈だ」
「会談の場所は何処にしますか?」
「モスクワと言いたい所だが日本の奴等がついでにヨーロッパにも行こうとなっては面白くない。ハバロフスクにしろ。あそこなら日本とロシアしか行く所はない」
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ハバロフスク秘密会談において日本側は果たしてどこまで信じて貰えるものかと異星人の侵略の可能性について最初に言及したが、ロシア側はジョークだと思い話は進んだ。
「北極海のダンジョンについては互いの領海内については攻略しない。領海外の公海上については攻略に上限を設けるが基本的には早い者勝ち。この内容で北極海会議では纏めるで宜しいか」
「公海上のダンジョン攻略の上限は幾つかな?日本は既に攻略済みでこれを減らすのは難しいよ」
「上限は二百でこれ以上は会議で承認後とするでどうですか?」
「それでは既に超えている。三百にしたいな」
「それでは多すぎないか?」
「ダンジョンの数は六ヶ国で計千八百となるが推定では二千以上あるからそれでも二百以上余る」
現状で三百のダンジョンを攻略可能な力があるのは日本とロシアともしかしたらカナダぐらいだから問題になるとは思えないな。
「六ヶ国以外の他国にはダンジョンを渡さないつもりか?」
「ええ、六ヶ国の排他的経済水域内にありますからね。何か問題はありますか?アメリカが口を出し始めたら会議が成り立たちませんよ?」
アメリカに介入されたくはないよな、お互いに。
「それには同意する。アメリカには漏れないようにしないといけないな。アラスカは良いとしてカナダからアメリカに漏れる恐れは?」
「アメリカはカナダを見捨てた。金持ちだけ受け入れた感じだ。今の状勢が続けばカナダが獣達の勢力圏に飲み込まれると判断した様だな。自国領だったアラスカにすらそんな感じだったからな。日本はカナダと協約を結んで支援を開始した所だ」
日本とカナダは既に協約を結んでいてロシアやアラスカと同様の支援を開始していた。対価は移住権の確保と北極海にあるグリーンランドの隣のエルズミーア島とアクセルハイバーグ島の二つだ。日本からは飛び地にはなるがダンジョンが在れば繋がるから問題はないだろう。
「カナダから漏れる恐れは少ないのか。グリーンランドは?」
「それはそちらの方が詳しいだろう?日本には最近のヨーロッパ状勢は入らないんだ」
「デンマークにそんな余裕は無い。グリーンランドは放置状態だな。ノルウェーにも余裕は無いな」
「では北欧三ヶ国とデンマークをロシアで押さえれないか?そうすればグリーンランドの独立は住民しだいだ」
「それは何とかする。ロシアはヨーロッパの救援に力を入れていて北欧三ヶ国と東ヨーロッパ諸国は協約済みだ。他のヨーロッパ諸国とも順次協約の予定だ」
日本にアラスカとカナダを押さえられた以上は我々は何としてもグリーンランドとスヴァールバル諸島を押さえないと不味い。このままでは北極海は名目は如何あれ日本のもの同然となる。
「スヴァールバル諸島の取り扱いは?」
「あそこはホッキョクグマに占領された。今は人がいない」
「ウランゲリ島と同じ状況か。人がいなくては来れないな。ノルウェーの席だけでも用意しておこうか」
スヴァールバル諸島はノルウェー領だがスヴァールバル条約があって面倒な島だ。人がいないのは好都合だ。ノルウェーを押さえれば何とかなる。
「開催場所は何処にする?」
「当面は秘密会議だな。……グリーンランドはどうかな」
開催するなら北極圏内でないとな。グリーンランドなら新たに日本領となった二島の隣だ。
「行くのは良いが航空機では目立つぞ。アメリカにはまるわかりだな」
かと言って他に良い場所は無いな。日本がヨーロッパ方面に来るのは面白くないし、こちらが日本領に行くのも面白くない。グリーンランドが一番力が無くて扱い易いのは確かだ。
「その件なんだが、連絡通路用のダンジョンを各国に一つ設定したいのだがもしくは北極会議用に一つだけでも良いがな」
「言っている事が分からんな」
「主が同じならダンジョンが繋がる事は君達ロシア人も知っているな」
「ああ、ハバロフスクにもそれを利用して来た。だが日本とロシアのダンジョンは繋がらないぞ。主が違うからな」
「そこでだ、連絡用に各国で一つ共用のダンジョンを用意するかもしくは会議用に一つ共用のダンジョンを用意すれば行き来が楽になる」
「そんな事が可能なのか?」
「可能だ。日本で検証した限りでは全て成功した。今も新しい領民の懐柔に使っている。日本国民になる事は了承しても民族的な矜持は捨てれんからな。ダンジョンを直接繋ぐ様なことはせずに共用のダンジョンを間に入れている。ロシアでも試してみると良い。ロシアは多民族国家で繋がってないダンジョンも多いだろう?上手く使えば他国の懐柔にも使える筈だ」
「ああ、確かに。だが君達は対価もなしにこんな重要な情報まで教えて何を考えている」
「北極海会議を可能な限り秘密裏に且つ早く進めたいだけだ。これで二国間での行き来はダンジョンで可能となる。格段に秘密度が上がるぞ。日本にそこまでの信頼が無いなら北極海会議用だけでも用意したい」
「二国間の移動に輸送機器が必要なくなるのだな」
「ああ、大量の移動は無理だが今回の様な非公式な秘密会談ぐらいは充分に可能だ。ダンジョンの通路を潜るだけだから移動時の事故もまずない」
「持ち帰って検討しよう。論文はあるのか?」
「日本語の原文のコピーとロシア語の翻訳だ。会談の最後に纏めてデータを渡そう。そちらでも似た研究は遣っているだろうから詳しい事はそいつらに聞いてくれ」
「了解した。この方法を使うかどうかは置いといて北極海会議を開催するならグリーンランドが一番象徴的で良いな。土地の殆どが北極圏内にある」
「同意する。グリーンランドが象徴的なのは確かだ。北極圏ではダンジョンの利用次第でグリーンランドが一番発展する。獣の脅威が一番少ない土地だからな」
「ではその方向で話を進めよう。北極海会議についてはこんな所かな。では次はこちらからの要請だ。サハ共和国のレナ川とその支流から東を協約に従って日本側に譲渡したい」
ロシア側はサハ共和国北東部の日本への割譲について話し始めた。




