白磁
制服から覗く白い腕を美しいと思った。
その腕は陶器のように白く、触れたら冷たいのだろうかと考えた。
俺は変態か?
生物教師の中井博は頭を抱える。
俺は欲求不満なのか?
自分が恐ろしく感じた。
まだ大人になりきれていない子供。
そんな境に生きる生徒たちは時に無謀で美しい。
「どうした、中井?」
化学教師の西崎裕一が不思議そうに見ている。
「…人生について考えていた」
中井の答えに「はぁ?」と西崎は眉をひそめて答えた。
ちょうどいい、西崎に付き合ってもらおう。
今日は酒を飲みたい気分なのだ。
「…お前、今日暇だろう?付き合え!」
そう言うと無理やり西崎を連れて学校を出た。
酒は飲んでも酔わない。
それくらい中井は強かった。
「教師って言っても所詮は人間。
己の欲望には逆らえないものだよな」
遠くを見つめて中井が告げる。
その言葉に西崎は苦笑した。
「どうしたんだよ?
何かあったのか?」
お前変だぞ、と西崎は言って酒を飲む。
「一瞬、女子高生にときめいた。
俺は変態なんだ」
中井の言葉に西崎は酒を豪快に噴き出した。
「ちょっ、汚ねぇな!
何してんだよ!」
「お前が変なことを言うからだろう!」
西崎がむせながら抗議する。
だって仕方ない。
そう思ったのだから、と中井はつぶやく。
冗談じゃない、それなら俺は変態か!と西崎は心の中で叫んだ。
「今時の女子高生は侮れん。
大人顔負けだ。
それが恐ろしくも可愛らしい」
中井の言葉に西崎は曖昧に頷く。
「ああ、教師になんてならなければ、こんなに悩まなかったのに」
中井はため息をついた。
教師は天職だと思っていた。
それなのに…!
「…人生大いに悩めよ。
但し、犯罪はするな。
そうなる前に相談しろよ。
何とかするから」
西崎は真剣な顔で告げた。
暗そうなこの化学教師は意外にまともな事を言うし、頼りになることを知っている。
眼鏡をはずし、前髪をかきあげると意外と格好いい。
普通にしていたらモテる方だと思う。
以前聞いたことがある。
何故、前髪を短くしないのか?と
モテる必要はない、という潔い答えに中井は好感をもったのだ。
それから中井は何かあると西崎と飲みに行くようになった。
「サンキュー。
もし変態になりそうだったら相談するよ」
話をしたら何だか吹っ切れた気がした。
おお、と言って西崎は酒を飲む。
でもしばらくはあの美しい肌に悩まされそうだ、と中井は思った。