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カンガルーポー・ピーポー  作者: 五十鈴スイ
3/5

ジェミニの森(1)

双子がいっぴき。

双子がにひき。

双子がさんびき……


眠れない夜に数えていたら、とおる兄さんに笑われてしまった。

双子は、どれだけ数えたってふたり以上にならないよ、と。


ぼくは、おかしなことを言うものだな、と思った。








「お~ん~ど~れ~は~!」


背後から聞き慣れた怒声が近づいてくる。

げっ、と叫んで振り返れば、級友兼級長の水島テツが怖い顔をして立っていた。


「清掃当番! サボるなって何回言えばわかるんだ、たけるっ」

「ごめんて~。次は絶対やるからさ、見逃してよー」

「おまえの『次』も『絶対』も! オレはもう信じない!」


そう叫ぶと水島は猛の二の腕を掴んだ。彼の背中で、逃がさないぞという意思表明の炎が立っている。


「はなしてくれよ、テッちゃん。なんせご指名なんだよ、今日は」

「はぁ? 何のご指名だよ」

「合コン。女子大生のオネエサマ方と」

「……」


水島は最大握力を行使した。


「痛い痛い痛い! 骨折れる割れる砕ける!」

「おまえのようなヤツは粉骨砕身してしまえー!」


この二人の教室でのやり取りは、もはや二年F組の面々にすれば茶飯事と化している。

ある者は彼らの喧騒に苦笑を漏らし、ある者は気にも留めず清掃にあたり、ある者は各々の雑談に忙しい。


「水島くん、粉骨砕身の使い方間違ってるよね」

「ほっといてやりな、花実」


水島の用例間違いを囁きあっているのは、近くで見ていた陣川と松本。もはや囁きどころか丸聞こえであるが。


「陣川、おまえも協力しろよ。副級長だろ」

「いやもういいじゃん、音羽のことは諦めよう」

「なんかコエーよ、その言い方。ていうか甘いだろ、いくらコイツが割とイケメンだからって……」

「イケメン、関係ない。やらない奴は何言ったってやらないでしょ。水島ももうほっときなよ。一人くらい足らなくても掃除はできるわ」


そう言い切って陣川は窓の外へ身を乗り出し、黒板消しを叩き始めた。彼女もまた本日の清掃当番なのだ。

水島は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてまごついてしまう。


「陣川ねえさんはドライだねぇ。それがありがたい。んじゃそういうことで! おつかれっしたー」

「あっこら! 待て、猛!」


その隙をついて猛が脱兎のごとく駆け出した。その足はスプリンターのように速く、水島が制止するも、あっという間に姿は消えてしまった。

ぐぬぬと拳を握り、この級長は険しい表情で陣川を睨んだ。隣の松本の方が怯えている。


「なんであんな風に言うんだよっ」

「関わるのが面倒だからよ」

「おまえそれでもクラスメートかっ」

「それでもクラスメートよ」

「ああ言えばこう言うっ」

「そしてこうも言う。水島、あんたって普段はそんなに正義漢じゃないよね」


いきり立っていた水島の目が突然泳いだ。

そんな様子を知ってか知らずか、陣川は相変わらず窓の外へ黒板消しの粉を落としている。


「あんたって去年も級長だったけど。ああいうヤツは、基本的に放置する派だったじゃん。なんであいつには絡んでくの?」


水島と陣川は一年生の時も同じクラスだった。

特に親しいわけではなかったが、陣川の方は観察力があるのか、水島の特性をしっかり掴んでいたらしい。


「……幼なじみなんだよ」


ポツリと水島が呟く。なぜか居心地が悪そうだ。

へぇ、と松本が驚きの声を上げた。陣川はふぅん、と言った。


「ってことは、あっちとも?」


陣川が黒板消しを叩くのをやめた。しかし、上半身はずっと窓の外に放り出したまま、そんなことを問うてくる。

水島は眉をひそめ、先程から彼女がずっと見ている方向へ視線を揃えた。

そこにいたのは、猛。いや、猛ではない。猛と同じ顔の、男子生徒――


みつる……」


彼もまた当番なのだろう、竹箒を細かく動かし、花壇横の水洗場を掃いている。

乱れ知らずの頭髪、銀縁の眼鏡、きっちりと首元まで締めた制服。何もかも違うけれど、その容貌だけは猛と同じ。

猛の一卵性双生児の弟。隣のクラスの、音羽充だ。


「合コン大好きなお兄ちゃんと、学年首席の弟クンか。あんな個性的な双子と竹馬の友だってんなら、そりゃあんたもほっとけないわよね」

「なんだよ。チクワの友って」

「……。ググれ水島」


ようやく身を起こし、白けた表情の陣川が教室の前方へ去っていく。もう会話に飽きてしまったらしい。


「なぁ松本。アイツ、オレのことバカだと思ってるだろ」

「うん、でもさやかは嫌いな人には話しかけもしないよ。元気出して」

「フォローになってねぇ」


水島は枯れた笑いを漏らした。

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