三択ロース
メリークリスマス。
街をサンタクロースが走る。
トナカイではなく、赤いトラックである。1軒1軒車を停めて、赤いサンタクロースが、赤い食べ物を渡していた。何かあるのか?
目が悪い私には良く見えないが、とにかくトラックが進んでは止まり、止まっては進む。
家主はそれを受け取ると狂喜乱舞していた。
ピンポーン。
「山本茂樹さんのお宅ですか?いつも、村井精肉店にご来店誠にありがとうございます。感謝の気持ちとしてクリスマスプレゼントと言ってはなんですが、お肉をプレゼントしたいと思いまして。」
村井精肉店のその男は彼に言った。
「ほう。サンタクロース的な感じですね。お歳暮ということでお受け取りすればよろしいんですかな。」家主はそれに返事をする。
「まぁ、そう受け止めても宜しいでしょう。今日は、クリスマスということでローストチキンなどを召し上がるんですか?」
「いやぁ、昨日食べましたよ。ケーキとともに。」
「あっ!そうでしたか。では…」
村井精肉店の男は、こちらの気配に気付いたようで声を潜めて、会話の内容が漏れることを防いだ。
私はトラックの後に隠れていた。 彼に見つかると尾行していると思われてまずいことになるからだ。
しばらくたったあと。
「そこにいるんだろ?松山!観念しろ。逃げ通そうたってそうもいかめぇ。追いかけたって無駄だ。スクープの一枚も撮れねぇよ。」
その言葉を聞いて私はどきりとした。どうやらバレていたようだ。私は、密かに隠れて写真を撮ろうとしていただけなのだ。
「どうやら、バレていたんだな。だけど新聞のネタにするつもりは無かったぜ。」
「嘘付け、お前、新聞社に務めてたんだろ?確か。この前、同窓会で言っていたよな。新聞社で新聞記事を書いていますって。」
「俺はもう新聞社は辞めた。今は職を探している途中だ。」
あくまでこれは嘘である。そうでもしなければ、この面白い話題を取り逃してしまうから。
「お前は仕事の職じゃなくて、食べる方の食を探しているんだな?」
「まぁ、そうかもしれないな。だが、こんなに高級な肉をくれるのか?」
「今宵はクリスマスだ。ということでな。大盤振る舞いってことで、特別にプレゼントしてやる。別におまえのためじゃねぇかんな。」
「じゃあ、店の信用の為か。それで、軽くツンだぞ。」
「うるせぇ。さぁ、選んでもらうよ。プレゼントの肉。Aが米沢牛のロース、Bが神戸牛のロース、Cが松坂牛のロース。さぁ、選んでくれ!」
「サンタクロースだけに、三択ロースってかけてんのか。だが、その話、胡散臭いな。まぁ、Cの松坂牛にするとしよう。」
すぐに目の前には、サシの入った上質な松坂牛が姿を表した。