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悲しみの果てに ~探偵物語〜  作者: 白井花乃
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8

喫茶店から去って行く探偵を目で追いながら、ゆきは再び、探偵の言葉を思い出していた。

調査依頼は行ったが、もしも私が疑っている通りの結果。いや、それ以上の事が判明した時。私にはその真実を受け止めるだけの力があるのだろうか。真実を知った後の事はどうすればいいのだろうか。考えるだけで滅入りそうだ。


しかし、ゆきの悩みはこれまでの悩みとは一変していた。探偵に相談するまでは、自分が我慢していれば現在の生活を乱す事は無い。少しの間、自分が見て見ぬふりをしていれば良いのだ。そうすれば全てが元通りになる。


でも、今は違う。


真実を知りたいと意思決定した事で、少なくとも今の自分からは一歩前へと進めるはずだ。


ゆきは、その様な事を考えながら残ったコーヒーを一気に飲み干し、喫茶店の出口の方へと向かって行く。入店した時との立ち振る舞いとは別人だ。歩く姿は勇壮で猛々しい。まるで一流ファッションモデルの歩き方の様だ。


『ちょっと、お姉さん。お会計まだだよ』


不愛想な喫茶店マスターが出口へ颯爽と向かうゆきを引き留めた。


『えっ・・・』


マスターに呼び止められ、急いでテーブルの上を確認する。そこには未精算の会計用紙が置かれていた。

探偵と自分が飲み干したコーヒー代が支払われていなかったのだ。


『クスクス。あんなに格好付けて出て行ってたけど、お金払ってないじゃん。探偵さん』


ゆきはハッとした。


笑ったのは何日ぶりだろう。いや、何か月ぶりだろう。最近は本当に気疲れしてストレスも溜まり、笑う事など完全に忘れていた。


『探偵さんに一本取られたわ。うふふ』


故意的になのか偶発的なのか。こういうシチュエーションを作った探偵にゆきは感謝した。


『マスター。コーヒーはおいくらですか』


『2杯で1300円だよ』


『マスター、インスタントコーヒーにしては高すぎですよ。うふふ』


ゆきは支払いを済ませて、出口から外へと飛び出した。

12月に入り、街では慌ただしくクリスマスの準備が始まっている。


『そっか。もう今年も終わりなんだなぁ』


ゆきはそう呟くと、今日は遠回りして帰りたくなったのだろう。自宅とは反対方向へと歩んでいった。

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