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俺と勉強会 下

第一話俺の日常で書いたある一文と主人公の成績はそれなりにいいという設定の間に矛盾するところがありましたので、その一文を削除させていただきました。

他にも、一部手を加えた箇所がありますのでご了承下さい。

「ただいまー」

 家に帰ると。母親に話しかけられた。

「遅かったじゃないか。こなちゃんもう来てるよ」

 早いな、集合時刻までまだあるだろうに。

「ああ、そうなんだ。どこに居るの」

「そんなん。あんたの部屋に決まってんじゃないか」

「ああ、そう。じゃあ、俺も部屋行くから」

「こなちゃんに変なことすんじゃないよ」

「しねえよ!」

 自分の息子だろうが!もっと信用してくれてもいいんじゃないの?

 自身の信用の無さを軽く嘆きつつ自分の部屋へと帰還する。

 そこには、俺の部屋で悠々と羽を伸ばす馬鹿が一人。母親が持ってきたのであろう煎餅を布団の上で寝そべりながらボリボリかじり、テレビゲームをやっている。突っ込むのも面倒くさい。

「布団の上で食うな。カスが落ちるだろう」

 七海は視線はゲーム画面から動かさずに適当な返事をする。

「きひぇやっふぁぞ、ふぁあんけん(訳・来てやったぞ、フランケン)」

 てめえ、物口に入れたまま話すな!今見たぞ!お前の口から煎餅のカス飛んでったの。

「とにかく、人の布団の上で煎餅食うな。ゲームをやる時はテレビから離れろ。何よりお前勉強しに来たんだろうが」

「なんだようるせえな。あんた私のお母さんかよ」

 本当に口が悪いなこの娘。信じられます?これ女の子の言葉なんですよ。

「だれが、テメエの母親だよったく。そういえば、お前のおばさん元気か」

「なんだよ急に?」

「いや、最近おばさん見てないから。気になっただけだ」

 こいつを育てた人物だけあって結構強烈な人だ。

「母さんは人妻だぞ。フランケン」

「知ってるわ!」

 お前の目には俺を見る時、どんなフィルターが掛かってるんかね。

「母さんはまあ、相変わらずだよ。元気」

「ふーん」

「そんだけかよ」

「そんだけだ」

「あっそ」

 俺は部屋の片隅に移動し横になると棚から漫画雑誌を取り出し読み始める。七海は七海でテレビゲームをやっているし放っときゃいい。

「おい、フランケン」

 暫くそうしていると七海が話しかけてきた。大方やっていたゲームに飽きたのだろう。

「なんだよ」

 漫画雑誌から目を離さずに応える。

「このゲーム飽きた。他のソフトは?」

「そこの箱。ゲーム機の横」

 指でソフトの場所を示すと、ゴソゴソ箱を漁る音が聞こえてきた。

「つーかあんたどうでもいいけど、ギャルゲーの数多すぎて引くわ」

 ギャルゲーじゃねえ!ビジュアルノベルだボケ!俺の前世から続く高尚な趣味を馬鹿にするんじゃねえ。

「あ、豪拳あるじゃん。私これ持ってる。よっしゃあ、かかって来いよフランケン。ギャルゲーのやり過ぎでたるみきったその顔、泣きっ面にして少しはハンサムにしてやんよ」

「いい度胸だ」

 俺は立ち上がると移動してテレビの前に陣取った。

「てめえ、もう少し詰めろブサイク」

 格ゲーをやるにあたって俺と七海の間で必ず行われる行事がある。

「おまえこそ、もっと端に寄れよチビすけ」

 場所争い、俺と七海のゲームの腕はほぼ互角。少しでもモニターの見やすい位置に陣取ったほうが勝つ。これは少しでも地理的優位に立ちたい二人によって繰り広げられる、血と汗と涙を流すのが勿体ないバトルである。

「今チビって言った!テメエ自分が少しでかいからって調子乗ってんじゃねえぞ!」

「テメエこそ、少し顔がいいからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」

「はん、私が可愛いいのは事実だろうが、調子になんか乗ってませんー」

「ああ、口と頭と性格の悪さと引き換えに得た唯一の長所だ。大事にしろよチビ」

「テメエ、言わせておけば好き放題言いやがって」

 罵詈雑言をまき散らしながらの押し合いへし合いに夢中になっていた俺達は気が付かなかった。

 俺の後ろに忍び寄る二つの影に。

「仲いいなお前ら」

 っと、いつの間にそこに居たのか慎平。お前はいつも平常運転だな主人公。俺と七海はゲームから目を離す。結局場所争いに時間を取られたことで、一度もプレイされることのなかった豪拳は、タイトルロゴとデモムービを往復するだけでその役割を終えた。哀れ。

 慎平の横にはもう一人の来客である女生徒達のアイドル遠藤が笑顔で立っていた。残念だが俺にその笑顔は効かない。

「全く、見せつけてくれる。やかせるねえ」

 よく見ると拳を固く握り締めている遠藤は冷やかす様な口調でそんな事を言ってくる。こいつとの間を冷やかされても、微塵も嬉しくない。

「おお、悪い。気が付かなかった」

 遠藤の冷やかしをスルーした俺は訪問に気付かなかった事を詫びる。

「まあ汚いところだけど座りなよ」

 冷やかされたことに気がついていない七海が二人に座るように促した。

 この野郎、さり気なく人の家、汚えとか言いやがったな。

 まあいい、ここは大人な俺が寛大な心でお前の暴言を見逃してやる。このままじゃ話が進まん。

「よし、じゃあ皆集まったことだしそろそろ始めるか」

 馬鹿が広げた布団をたたみ、壁に立てかけてあった折りたたみのテーブルを部屋の真ん中に広げる。

 皆が適当に着席し勉強道具を取り出した。

「よし、先ずはなんの教科から始める?」

 俺が決を取るように皆に意見を聞く。

「国語」「日本史」「算数」

 見事にバラバラだった。そして七海、算数は高校の教科に存在しないぞ。

 結局、最初に国語を一時間、次に日本史を一時間、最後に数学を一時間という感じで進めてゆくことになった。

「フランケン」

「なんだ?」

 国語の時間、七海が早速俺を呼んだ。

「ちょっと」

 手招き。近いんだからこれ以上近づく必要も無いだろうと思い至った所で、思い出した。確かこいつは慎平にあまり頭が悪いのを見せたくないんだっけか?

 心配するな七海よ。お前のバカさは普段の言動で十分過ぎるほど皆知ってるから。等とはさすがに言わない。いくら俺でも言えない。たしかに好きな奴の前であまりマイナスイメージ持たれるようなことはしたくないもんな。まあ、手遅れではあるが……要は気分の問題である。

 これで下手なことを言って七海のモチベーションを下げるのはよろしくない。ならばこのままやる気になっていてもらおうではないか。俺は、手招きする七海の方へと寄っていった。

「で?どこがわからないんだ?」

 七海が学校で配られたテスト対策プリントを指差す。

「ここ」

 心なしか声が小さい。まあいいや。七海が分からないと訴えたのは読解問題の一つだった。

 こういうのって普段からやってないと力が付かないんだよな。

「今回は、答えだけ教えてやるからそれを覚えろ」

 本当はこういうのはよくないのだが、普段の積み重ねがない七海に一から教えるのでは時間がかかりすぎる。

「分かった」

 おお、慎平がいるとやはり聞き分けがいい。さすが防波堤。君は本当に居てくれるだけで頼りになるね。

「それからここ、漢字が違う。線が一本多い」

「どこ?」

「ここだここ、それから答えも違う。」

 問題内容は、これを書いた作者の意図を答えよという、国語のテストではわりとよく見かけるものだった。

 答えを書き込む空欄の中には「真実は作者と共に墓の中」と書き込まれていた。なんでこの子は川柳作ってるの?それから、この話の作者まだ生きてるよ。勝手に殺すな。

「気持ちはわかるが、テストでこの答えを書けばバツだ」

「あんたは作者の気持ちなんて分かるのかよ」

「そんなん知るか」

「やっぱりそうでしょ!なんで先生もこんな問題作るかな。エスパーでも探すの?」

「問題や先生に文句言った所で点数は上がらないぞ。読解問題には俺が模範的な解答を書き込んでおくからお前はひたすらそれを書き取りしとけ。問題も答えも全部だ。答えを身体に覚えさせろ」

 その様子を見ていた遠藤が口笛を鳴らす。若干音がかすれているのが残念だ。

「鋼、お前結構スパルタなんだな」

「どこがだ、どこが。対策問題の答えは既に教えてある。後はそれを書き写すだけの簡単な作業だ。俺ほど優しい講師は居ないだろう」

 国語力は付かない上一夜漬け以外の何者でもないが点は取れるようになる。これはマジだ。これ以上どう甘くしろというのだ。

 しかし凄いな。七海のやつ。今日は本当に素直じゃないか。普段なら色々と騒ぎ出す筈なのに今日はあんなにも熱心に書き取りをしているなんて。間違いなく慎平効果だが、長年苦戦してきただけあって感動的な光景だ。

 ちくしょう、目から汗が出てきやがったぜ。俺は、黙々と勉強を続ける慎平の元に歩み寄り、そっと肩に手を置いた。

「ありがとう。本当にありがとう」

 肩に置かれた手を、慎平は気持ち悪そうな顔で眺めながら曖昧に頷いた。

 これで俺も自分の勉強に専念できる。七海との格闘で疲れた身体に鞭打ち、自分の勉強をせずともよくなった。なんせあいつが黙々と書き写している間にその作業が出来るからだ。喜びを噛み締め、幸せな気分で試験勉強を開始する。

 七海が予想を上回る程素直に俺のアドバイスを聞いてくれたおかげで、勉強会は大いに捗った。俺は俺で自分の勉強が出来たしな。

 日本史は殆ど暗記みたいなものだから、教えるのも楽だったし。数学の方は多少手こずったが、なんとか基本の問題を出来るぐらいまでは仕上げられた。さすがにテスト前に応用問題がしっかり出来るところまでは仕上げられなかったが……。

 まあ、七海は覚えるのが早い代わりに忘れるのも早いので、テストまで、今日教えた事の記憶を保っていられるかの方が重要なのだがそれはあいつの問題だ。

 テスト勉強に一段落ついた俺たちは、昼間買ってきた。ジュースと駄菓子をやっつけながら。談笑していた。そういえば昼間って言えば、西岡と会ったんだっけ。

 その事を告げた時、意外にもその話題に食いついてきたのは遠藤だった。

「西岡ってあれだろ?お前んちの近くの道場の娘だろ?子沢山の」

「西岡流柔術な。それよりお前詳しいな」

「ああ、偶に話すからな」

 さすがイケメン。こいつの交友範囲は留まるところを知らないな。

「へえ、そうなのか。しかし意外だな。お前と西岡に接点があるなんてな。お前はともかく、西岡ってあまり社交的な感じはしないんだが……」

「まあ本人とどうって言うよりあいつの友達と俺がよく話すから、必然的にそばにいる西岡も会話に参加する感じだな。西岡自身は、確かにあまり話さないやつだな。会話だってこっちから振らないと一切返して来ないしな」

 まあ、そんな感じだろうな。悪いが、西岡がにこやかに男と談笑する姿が想像できない。

「っけ!思った通り。感じの悪い野郎だな」

 ふ菓子を齧りながらお行儀の悪い事を言ったのは七海だ。だから、口に物を入れたまま話すな!ふ菓子のカスが飛んでるんだよ。

「まあ、校門の一件以来あいつの方からも話しかけられる様になったけどな」

 校門の一件て言うとあれだろ。俺の評判が地に堕ちたあの事件だろ。

「鋼君はどこの道場へ行っているのか。鋼君は普段何をやっているのか。鋼君の様子が最近変なのだが何か遭ったとかと……まあ、大半はお前の事なんだがな」

「怖!!」

 あいつ、口じゃ気にしてないとかいいながら思いきり根に持ってるんじゃないかよ。リベンジする気まんまんじゃねえか!情報収集にも余念がないじゃん。

「俺、この試験が終わったら。あいつと再戦するんだ」

「そうなのか?」

 慎平が、不穏なフラグを建てそうな俺のつぶやきに反応した。

「今日、なし崩し的にそうなった」

「はん、女子と話して鼻の下伸ばしてっからだ」

 はい口汚く罵ってくださってありがとうございます七海さん。引っ叩くぞチビ。

「まあ、何はともあれ良かったじゃねえか鋼、あれじゃないのモテ期ってやつ」

 意味不明な事を行ってきたのは遠藤だった。万年モテ期みたいな奴はその辺の感覚も麻痺しているのだろう。見当違いも甚だしい。

「俺が、誰にモテてるってんだよ?」

 その疑問に遠藤が即座に答えた。

「俺だ」

 いや真剣にご勘弁願いたい……。いい加減しつこいと思って封印していたあれを使わざる負えない。

 沈まれ俺のケツ。

「まあ、それは冗談なんだが、気をつけた方がいいぜ七海ちゃん」

「あ?何がだよ?」

 遠藤の言葉にうまい棒を齧りながら胡散臭そうに返事をする七海。もう注意するの面倒臭い。放っとこう。

「早く色々とハッキリさせないと。後悔するんじゃないのかなってさ」

「何言ってんだよ?あんた」

 幸せを呼ぶツボを売りつけに来た知人を見るような目で遠藤を見る七海は、コップに継がれたミルクティーをグビグビと飲んでいる。一生懸命に飲んでいるが、果たしてミルクティーに含まれるカルシウムの量は如何なものなのだろうか。

「まあ、逃がした魚のでかさを思い知る前に素直になりなさいっていうお兄さんなりのアドバイスかな」

 ははあん、成る程。そういうことか。流石は遠藤。伊達にモテてるわけではない。会話の流れ的には不自然な点はあるが、俺達の中では一番そういった気遣いが出来る人種らしい。ならば察しのいい俺も一肌脱ごうではないか。

「慎平、遠藤先生のありがたい言葉の意味、お前もよく考えておくことだ」

「なんだよ急に?」

「なに、それは自分で考えることだ朴念仁。自分で気づかないと意味のないことだからな」

 そうだよな遠藤。お前も七海と慎平の関係を心配してくれてるんだろ?

「なんなんだよ本当に……」

 本当に訳のわからなそうな顔で俺を見る慎平をスルーした俺は一仕事終えた男の顔で遠藤に視線を送る。そっちは任せたぜ遠藤。

「お前って馬鹿だよなあ」

 何故か遠藤は呆れた顔で俺を見ながらそんな事を言っていた。

 失礼な。

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