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僕の一手

作者: 煌星 キラ

 夏休み初日の、俺……角歩(かっぽ) 飛龍(ひりゅう)は午前中に1日の宿題ノルマを終えて家のリビングでノンビリしていた。


「兄ちゃ~ん」


 と、その時リビングにやって来たのは自分よりも小柄で栗色の髪に鳶色のクリッとした目が特徴的な眼鏡を掛けた少年……もとい俺の義弟、角歩(かっぽ) 金太(かんた)だ。


「金太か……どうした?」


 俺が体を起こして訊ねると、金太はいつものあどけない顔で答えた。


「これから僕、将棋クラブに行ってくるね!」


「ん……おう、分かった。気を付けて行ってこいよ」


「うん! 行ってきまーす!」


 俺が笑顔で見送ると、金太は笑顔で出掛けていった。


 ……さて、ここで俺がさっき義弟と言ったのか…………実は、俺の両親は俺が幼い頃に離婚していて、俺は母さんに引き取られたんだ。そして、母さんの再婚相手の息子が金太って訳だ。義父さんの相手の人は結婚前に金太を授かっていたらしいんだが、出産時に相手の人の容態が急変して、金太は助かったらしいんだけど、相手の人は命を落としたらしい。母さんがどういった経緯でイケメン俳優のシングルファザーと知り合ったのかは分からないけど、今は義父さんのマネージャーをしているみたい。いつも忙しそうにしてるのに朝ごはんはしっかり作ってくれるし、俺の弁当も毎日バリエーション豊かに作ってくれて、とても助かってる。時々、俺が晩飯を作ってるからか、自分の料理スキルが高いと思っているのは内緒の話だ。

 ……っと、話がずれたな…………それで、金太は最近、近所にある将棋クラブに通うようになった。何でも、時々棋士の人が直々に教えてくれるとかで結構人気のあるクラブらしい。

 ……俺? 俺も何回か足を運んだ事あったけど、元々三日坊主になりやすい事もあって今は全く行ってないなぁ。


「…………久しぶりに行ってみるか?」


 思い立ったが吉日! 俺は簡単に身支度を整えて出掛ける事に。




「うっし、着いた着いた! ひっさしぶりだなぁ……」


 歩いて10数分……金太の通う将棋クラブに辿り着いた。


「みんな元気にしてるかな……?」


 俺は懐かしさを感じつつクラブのドアを開けた。



「ゴルァ! いい加減金払えや!」


「だからアンタらに払う金は払い終えたって言ったろ!!」


「っ!!??」


 ドアを開けてすぐに聞こえたのがこの怒鳴り声とそれに反論する声だ…………でも、反論する声の方には聞き覚えがあった。俺は目の前にできていた野次馬を少しずつ掻き分けながら前に進んでいくと、ヤケに風貌からしてヤクザだと見てとれる男が椅子に座っているガタイの良い男性(このクラブのオーナー)に詰め寄っているのが分かった。オーナーはちょっと冷や汗を流しながらも威嚇していた…………あの風貌で小心者だからなぁ……


「それにウチは毎年奨励会に何人かは入会している……それなのにアンタらにこのクラブは渡せない!」


「黙れやぁ! オメェはワシに幾ら借りたのか忘れたのかよ!! そんで払えんかったら、その肩代わりでクラブの建物を貰うって約束をしていた筈やろぅが!!」


「っ……それは…………そうだが……あんな法外的な利子を認めれるか!」


「そんな法外的な利子で借りたのはドコのどいつや!」


「うぐぅ…………」


 ……あ、言葉負けした…………ホント、弱いよな。将棋は強いけど。


「…………そんなら……ひとつ、賭けをせぇへんか?」


「か、賭け……だと?」


「せや。ワシとワシの決めたアンタんとこのメンバーの一騎討ちで指すんや。アンタんとこのが勝てば金の件は無かった事にする。けど、ワシが勝てばこの建物はもらう…………えぇな?」


 うわ……何それ野次馬(この将棋クラブのメンバー)がざわついてるぞ…………あ、声聞こえる……「あの人と!? やりたくないよ……」「あの人って元奨励会なんでしょ? 負け確じゃん」…………え、あの男の人元奨励会員?!


「…………分かった」


 おいおいオーナー!? そこ受けちゃうの!? こっちが負けたらここ無くなるのに?!


「せやなぁ……おう、そこのボンズ…………お前さん、相手してくれぇや」


 男の人が野次馬をぐるりと見渡して、俺と目があったかと思うと俺の方を指差して言った…………あれ? 後ろの人かな??


「お前や! いっちゃん前の!!」


 一番前……って俺?!


「え、お……俺ぇ!?」


「せや。お前に相手してもらおうか……それともなんや、自信無いんか?」


 …………なんか、こうも挑発されると癪に触るな……


「ちょ、ちょっと待て!! 彼はウチのメンバーじゃ「分かりました」?! 飛龍君!?」


「一応、ここに出入りしていた時期もありましたし……メンバーじゃないとは言い切れないんで。受けますよ」


俺は手身近な将棋盤のある席へと移動した。相手の人も真向かいの席に座る……


「いや、しかしだな…………勝てる自信あるのか?」


 オーナーにそう聞かれて駒を並べる手が止まった。

 …………そう、俺は確かに何回か足を運んだ事はある。だが、下手の横好きといった感じで、いつも惨敗していたのだ。でも……


「確かに、俺は弱いかもしれませんけど、一応俺なりには特訓してたので問題ないです…………」


 そう。三日坊主になりやすいのが俺の特徴ではあるが、もうひとつ俺の特徴で忘れてはいけない物がある…………それは


「なので……負けないです!」


「ふん、初心者だったのか……軽く捻り潰してあげよう」


「……だったら、さっさとやんぞ」


「…………お前さん、口の聞き方に気ぃつけた方がえぇで?」


「ゴタゴタ言わずやろうぜ…………」


「っ…………あぁ。やってやろうやないかい。持ち時間は各々10分切れ負けでえぇな?」


「あぁ、問題ない」


 俺の、怒りのメーター吹っ切れたら…………超本気モードになるって事だ。


「先手は譲ってやるよ……かかってこいや!」


「んじゃ……いざ、尋常に…………」


『対局、願う(宜しくなぁ)!!』


「まずはっ……2六歩っ!!」















 そして、これが俺の将棋指しとしての第一歩となったんだ…………

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