Chat.0 -Aisyu-
「私の名前は"ルナ・タイニー・ハピネス"。
皇家第二階級・桜花三柱の一柱「タイニー家」の第三皇女です。
別に自己紹介がしたくてこんな場所を用意したわけではありません。
ただ、皇女で有るべき行動。
そう自己紹介を怠ることなど、皇家を愚弄するのも良い所。
私は常々思いますの。
「貴様に名乗る名など持たぬ」などと抜かす愚弄者。
彼らに「王」や「皇」を名乗る資格があるのですか?
武力や知力が勝っていたら、その国を治める技量もあると?
勘違いもいいところ。
民と接し民を思い、家族と接し家族を思い、国との争いを無くすことに紛力する。
それが真の頂点のあるべき姿だと私は思います。
っと、すみません。
本筋からかなりずれました。
今回は私が出会った一匹の龍とのお話をお聞きになってもらいたいと思い、ここにお集まり頂きました。
お粗末な話になるかもしれませんが、最後までどうぞお付き合い下さい」
まだ、成人でもない若い少女が礼拝堂で声を高らかにあげ、昔話を始める。
集まっているのは少女より圧倒的に年上の方々ばかりだ。
そんな方々に自分の初恋談を語るなど、正直な話、ただの馬鹿だ。
やがて、二時間ぐらいで話は終わり、少女は礼拝堂を後にした。
しかし、彼女の表情はどこか寂しげだった。
話はとくに暴動も無く、スムーズに聞いてもらえた。
その後も、拍手と共に後ろ姿を見送られたので、集まった方々からも良好だったのだろう。
だが、彼女はそんな話をしても「満足」には到底至れない。
それもその筈。
どんなに過去があっても、どんなに思い出があっても、彼はこの時空にはいない。
「死別」の諦めではなく「離別」の苦しみを掴んでしまった少女。
まだ二十も来ていない彼女にとっては、重すぎる物である。
木々から差し込む光が眩しくて、手で顔を覆う。
そういえば、貴方もこんなに眩しかったわね。
月はそう囁き、前を見た。
少し歩いて、ふと思い出す。
彼と初めて会った場所もココだったね。
先程、語ったばかりなのに、忘れていた。
そんな自分が少し残念だ。