第4話。午前4時の約束。
第4話。午前4時の約束
「……どうして」
アサヒは、消えかけて透き通っていく自分の両手を見つめ、ひざまずいた。
過去を変え、お母さんの事故を防いだはずだった。それなのに、世界は歪み、自分の存在そのものが消えようとしている。
「お母さんを助けたかっただけなのに……!
私のしたことは、全部間違いだったの!?」
茜色と紫色がぐちゃぐちゃに混ざり合う
【ひかりの交差点】
の真ん中で、アサヒは激しく泣き崩れた。
その時、トントン、と優しく肩を叩く手があった。
見上げると、そこには24年前の若い姿をした母・ユウコが立っていた。
彼女は優しく微笑み、消えかかっているアサヒの冷たい手を、包み込むようにギュッと握りしめた。
「間違いなんかじゃないわ、アサヒ」
「お母さん……? なんで私の名前を……」
「だって、私の娘だもの。わかるわよ」
ユウコは愛おしそうにアサヒの涙を拭った。
「あなたが未来から、私を助けるために何度も時間を旅してくれたこと。その優しさだけで、私はもう、世界一幸せなお母さんよ」
「でも! 歴史を元に戻したら、お母さんはまた病気になって、早く死んじゃうんだよ!? 私はまた、一人ぼっちになって、ボロボロになって……そんなの耐えられない!」
アサヒの叫びに、ユウコは静かに首を振った。
そして、アサヒの目を真っ直ぐに見つめ、諭すように言った。
「いい? アサヒ。過去と他人は、変えられないのよ」
ユウコの声は、不思議なほどアサヒの心の奥に染み渡っていった。
「起きてしまった過去は、どんなに魔法を使っても書き換えられない。それは、私という『他人』の人生の歴史でもあるから。他人の運命を無理に変えようとすれば、どこかが歪んでしまうの。……でもね、アサヒ」
ユウコはアサヒの胸元にそっと手を当てた。
「自分と未来は、いくらでも変えられるの。」
「自分と、未来……」
「そう。あなた自身が『いま』をどう生きるかで、これから先の未来は、いくらでも新しく作り直せるのよ。お母さんがいなくなって寂しい過去は変わらない。でも、その過去を抱えたまま、あなたが今日を大切に、楽しく生きれば、あなたの未来はどこまでも輝くの」
ユウコは優しくアサヒを抱きしめた。
その温もりは、過去の記憶ではなく、
「いま」確かにアサヒを包んでいた。
「私はね、あなたと過ごしたあの短い時間が、私の人生のすべてだった。何一つ後悔していないわ。だからアサヒ、私のために過去をやり直そうとしないで。あなた自身の『いま』を、一生懸命に楽しんで。それが、私を一番幸せにする方法よ」
「お母さん……っ」
アサヒの胸の奥で、カチリ、と何かが弾ける音がした。
過去を呪い、運命を恨んでいた自分の心が、すっと解けていく。
(そうだ。お母さんを失った過去は変えられない。でも、お母さんから貰ったたくさんの愛を胸に、私が前を向いて生きることは、今この瞬間からできるんだ――!)
アサヒがそう心から思った瞬間、透き通っていた身体に、カッと熱い血が巡るような感覚が戻ってきた。
歪んでいた
【ひかりの交差点】
が、本来の神聖な輝きを取り戻していく。
アサヒの身体が、眩しい黄金色の光を放ち始めた。
「朝日の国の光ね……。あなたの『明日』が呼んでいるわ」
ユウコは涙を浮かべながら、最高の笑顔でアサヒの背中を押した。
「行きなさい、アサヒ。今を、楽しんで!」
「うん……! ありがとう、お母さん! 私、私の未来を、絶対に輝かせてみせるよ!」
アサヒはもう、泣いていなかった。
母の手を離し、眩しい光が待つ未来の方向へ、自分の足で力強く走り出した。
(第4話・おわり)




