ルーナの初依頼
翌朝、目覚めたルーナがナミと共に部屋を出ると、ちょうど隣の部屋からニッケとベルが顔を出した。
「あ、おはようございます! ルーナさん!」
「おはよ~、ルーナちゃんっ」
「二人ともおはよう」
「お二方とも、おはようございます」
ルーナはにっこりと微笑み、ナミはメイドらしくスカートの裾をつまんで上品に挨拶する。
「そろそろ朝ごはんですね! ウチ、お腹ペコペコです!」
「ここの朝ごはんはすっごく美味しいんだよ~!」
「ふふ、楽しみだわ」
そんな調子で話しながら、四人は宿屋の食堂へと降りていった。
「あら、おはよう。昨日はぐっすり眠れたかしら?」
出迎えたのは、ひまわりのように明るい笑顔を浮かべる女将だった。
「はい! いつもお世話になってます!」
「今日も頑張れそうだよ~」
ニッケとベルが元気に応じると、ルーナも自然と気持ちが温かくなる。
やがて小さな花瓶の飾られた木のテーブルに腰かけると、まだ年端もいかない看板娘が盆を抱えて駆け寄ってきた。
「おねーさんたち、はいどうぞっ!」
運ばれてきたのは黒麦パンにキャベツの酢漬け、そして目玉焼き。
シンプルだがどこか家庭の温もりを感じさせる朝食だ。
「あら、素朴で美味しそう。まだ小さいのに立派ね」
「えっへん! ゆっくりしていってね!」
誇らしげに胸を張る看板娘の姿に、ルーナはどこかアルスを重ねて、思わず微笑んでしまった。
黒麦パンをちぎって口に運ぶと、香ばしい香りとふんわりとした食感が口いっぱいに広がる。
「ん~っ! これ、とっても美味しいわ!」
「こちらの目玉焼きも絶妙なお味です、お嬢様」
「ママがまごころこめて作ってるからだよ!」
どうやら女将の娘らしい。ベルが笑顔で頭を撫でると、少女は嬉しそうに目を細めた。
「いつもありがとね、メイちゃん」
「うん! ベルおねーさんもがんばってね!」
にぎやかなやりとりにルーナも自然と笑みがこぼれる。
「聞いてくださいメイちゃん、ウチら新しい仲間ができたんですよ!」
「そんな、大げさよ……ちょっと照れるわ」
ルーナは頬を赤らめつつも、みんなで食卓を囲む温もりに胸を満たされていた。
こうして心温まる朝食を終えた彼女たちは、再びハンターギルドへと向かうのであった。
ハンターギルドの門を潜ると、朝早いというのに屈強なハンターたちがすでにたむろしていた。
「うげっ、あの闇メイドとデカブツだ……!」
「道を開けろ!」
ナミとアルスの姿に気付くや、男たちは蜘蛛の子を散らすように道を開ける。
「闇メイドとは人聞きが悪いですね。……まあ、お嬢様の安全が守れるのなら、わたくしは闇にでも影にでもなりましょう」
「キュイ~!(ぼくも強いんだぞっ)」
「あはは……」
お付きの二人がギルド内で恐れられている様子に、ルーナは苦笑を浮かべつつも、頼もしさを感じずにはいられなかった。
海を割るように開けられた通路を通り抜け、受付へ進むと、受付嬢のアイリスが笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。ルーナ様、こちらがハンター証でございます」
差し出されたカードを受け取ったルーナは、それを天井へかざした。
「これが……わたしを証明するものなのね!」
「お嬢様もこれで責任ある立場となりました。その成長を喜ばしく思うと同時に、少し寂しくもございます」
ナミはハンカチで目を押さえ、しんみりとした声を漏らす。
「ナミ、たとえわたしが自立しても、あなたにはずっとそばにいてほしいわ。だってあなたはわたしの大切なメイドなんだから」
「お嬢様……! はい、このナミ、永久にお嬢様に仕えることをここに誓います」
ルーナの手を取ったナミは片膝をつき、厳かに忠誠を誓う。
その清らかな光景に、周囲のハンターたちから思わず感嘆のため息が漏れた。
その張り詰めた空気を、明るい声が和らげる。
「ルーナさん! 晴れてハンターになったことですし、早速一緒に依頼を受けましょう!」
胸を張るニッケに、ルーナも笑顔で手を差し出した。
「ええ、よろしく頼むわ!」
二人が力強く握手を交わすと、アイリスが依頼書を差し出す。
「でしたら、こちらなどいかがでしょう? 近隣の村で畑を荒らす害獣の駆除です」
「初心者向けでありながら、責任も伴う内容ですね。お嬢様の初仕事にふさわしいかと存じます」
ナミがうなずくと、ルーナも迷いなく依頼書を受け取った。
「ええ、これでお願いします!」
こうしてルーナは、記念すべき初めてのハンター依頼を引き受けたのである。
「それじゃあ早速出発です!」
「「おーっ!」」
「キュイ~!」
再びアルスの背にまたがったルーナたちは、フローラの町を後にした。
青々と広がる平原に風が渡り、草の香りが鼻をくすぐる。
初仕事に胸を躍らせるルーナの表情もまた、朝の光のように輝いていた。
アルスの背に揺られて進むことしばらく、ベルがふいに身を乗り出した。
「ねえ、ちょっと下ろしてほしいな」
「ええ、いいけど……。――止まって、アルス」
ルーナの声に従って、アルスがふわりと宙で停止する。
ベルはひょいと飛び降りると、草むらにしゃがみ込み、熱心に葉をかき分け始めた。
「……やっぱりこれだよ!」
手にしていたのは、先がくるりと巻いた柔らかな緑の芽。
「それは……クサワラビですね」
「そう! 傷薬にできる薬草だよ。覚えてて良かった~」
ナミが目を細めて感心する横で、ベルは得意げにそれを腰のポーチへ。
「いきなり薬草を見つけるなんて、幸先いいですね!」
とニッケが笑えば、
「うんっ! 今日の運勢はサイコーだよ! ……あ、あそこにも別の薬草が!」
ベルが駆け出そうとした瞬間、ルーナが苦笑しながら釘を刺した。
「――薬草探しはほどほどにね。今は害獣退治が先でしょ?」
「えへへ、ごめんごめん」
ぺろりと舌を出したベルがアルスの背に乗り直すと、アルスが首をかしげて『ぼくも探したら見つかるかな?』と無邪気に鳴いた。
「アルスは魚を探してちょうだい」
『そっかぁ~』
そんなやり取りに笑いがこぼれる中、ルーナたちは再び進み出した。




