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転生希望者、最後尾はこちらです!—行列嫌いの私の行き先は?異世界?輪廻?地獄?—

作者: 悠木 灰二
掲載日:2026/02/26

転生ものを読んでいて、不思議に思っていたことを広げてみました。

少しでも、誰かが笑ってくれますように。

おかしいと思っていたのだ。

世の中に出ている転生ものには、どうして日本人、しかも女子高生ばかり転生するんだろう、と。


この行列はなんだ。

最後尾には看板を抱えた人が叫んでいる。


「転生をご希望の方はこちらにお並びくださーい。最後尾はこちらでーす」


ずらっと並んだ女子高生たち。

そのなかには、ちらほらと疲れ切った顔をした社会人や、訳もわからずニコニコした顔で並んでいる老人もいる。


確かに日本人は行列に並ぶのなんて慣れてるもんなぁ、とぼんやりと行列を見る。


若いときは、友達や恋人とおしゃべりをしながら行列に並んでいた。

しかし、今、いや、生前はすっかり気力も体力も落ちてきていて、行列を見ると避けてしまっていた。


「逆ハーしちゃう?それとも溺愛?あー悩むー」

「えー、こんなに並んでるのかよ。これどのくらい待つんですか?」

「これ何の行列ー?ま、いっか。とりあえず並んでみようっと」

「なんか楽しそうだね。近所のかこちゃんも来るのかしらねぇ」


私はどうしようか。


子どもの頃から活字中毒だったが、大人になってからは忙しくなり、手軽に読める無料の小説投稿サイトにお世話になっていた。

そこには異世界転生の話も多く、ある程度の知識はあるつもりだ。


確かに異世界転生も面白そうだけど、わざわざ並んでまで、ってのはなー…


「お悩みですか?」


行列に並んだ人たちを見ながら悩んでいると、腕章を着けたスーツ姿の公務員のような人が話しかけてきた。


「私、転生課の案内係をしております。だいぶお悩みのようなのでよろしかったら、ご説明いたしましょうか?」

「え、あ、はい。じゃあお願いしてもいいですかね?」


職員に案内され、近くにあったブースに向かう。

隣のブースとの間には衝立があり、テーブルを挟むように椅子が置いてある。

何台もあるブースはあまり埋まっておらず、私の他には2〜3人くらいしかいないようだった。


「すみません。お手数おかけして。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。まずご説明しましょうか?それとも既に質問がおありでしょうか?」


恐縮する私に、職員の方は丁寧にそう言ってくれた。

凄く親身なわけでも、不親切なわけでもない、ちょうどいい距離感だった。

地元のお役所の感じを思い出し、少し安心した。


「えーっと、じゃあまず質問させて頂いてもよろしいですか?」

「はい、どうぞ。何をお知りになりたいですか?」

「転生するかしないかは自由ですか?」

「そうですね。まず、転生をしないという選択は原則ありません。先ほどの列に並んでいただくと、そのまま転生となり、今の記憶を残したままでいられます」


あの行列には並ばないでいい、という選択肢があって安心した。


「というと、俗にいう輪廻の輪、それに乗ると、記憶はなくなるということですか?」

「よくご存知ですね。輪廻の輪に乗った時点では記憶はあります。ただ、そこから転生の順番が回って来るまで、少々お時間をいただいております。」


乗ってからも待つのか。

何が違うんだろうか?


「こっちでも待つんですか?」

「そうですね。でも待っている間に、全てきれいさっぱり忘れて、新しい人生を始められますよ。あ、それに”楽だ”というお声も多いです」

「楽、ですか?」

「はい、輪には籠が付いていますので、ゆっくり座っているのも、立って景色を眺めていただくのもいいですよ」

「え?それって観覧車じゃ……」

「ええ、そうです。あんまり知られてないようなんですが、観覧車って、元々は輪廻の輪が原型なんですよ。多分、臨死体験した方がいたのでしょうねぇ」

「それは知りませんでした」

「あ、あと輪廻の輪でしたら、待ち時間なしですぐに乗っていただけますよ」

「……待ち時間」


なんだか、行列といい、観覧車のような輪廻の輪といい、本当にどこかの遊園地に遊びに来ているようだ。


「待ち時間なし、っていうのはいいですね」

「あの行列ですもんね」

「生前も、本当に行列は得意じゃなかったもので……」

「日本人は行列に強い、とは言われてますけど、やはりしんどいものがありますよね」


「女子高生が異世界転生者になることが多いのは、普段から行列慣れしてるからですか?」

「全体で見ると、確かに女子高生は多いですね。でも夜中に近づくとオタクの方たちも増えますよ。あの方たちも行列慣れしているらしくて」


時間帯によって並ぶ層が違ってくるのは、やはり活動時間帯が違うからなのだろうか。


それはさておき、私はやはり輪廻の輪かな。

なんで死んでまで、あんな行列に並んで待たなくちゃいけないんだ。

あの先が見えない行列の何が、人をそこまで魅了するのだろうか。

やっぱり異世界無双したいのだろうか?


「転生先は選べるのですか?」

「ある程度は選べるんですが、決められている行き先の空き次第ですね」

「え、そうなんですか?」


あの人たちは、長時間並んだとしても、希望する転生先があるとも限らない、ということを知っているのだろうか?


「並んでいる方々は、それをご存じなんですか?」

「やはり現世の流行もあって、当然異世界転生するものだと思い込んでいる方は多いですね。」

「やっぱり」

「まあ全体の比率として、転生先は異世界が多いんですけど、それ以上にご希望される方が多いんです。そうするとご希望に添えないこともあるんで、窓口で揉めてしまうんですよね。結果、行列が益々伸びてしまうっていう」

「あー……」

「そして基本的なルールとして、記憶を残した状態では、亡くなった時代に生まれ変わることや、生前に関わった人たちのもとへ転生することは出来ません」


となると、今の記憶を持った状態で、それが通用するかもわからない場所や時代に生まれ変わるよりも、異世界に生まれ変わった方がチャンスがある、と考える人が多いということか。


「ちなみに、どうして創作物に似た世界が多いんですか?」

「これは恥ずかしながら、企画課のアイデアが追いついてない状態でして……」

「……企画課」


乙ゲーやゲームに転生する話が多いとは思っていたが、まさかの企画課が創作物をパクっていたとは。

まあ、著作権とやらは現世でしか適用されないということか。

お役所っぽくは見えても、そこのところはグレーなんだろう、と納得してしまった。


「実際のところ、輪廻の輪に乗る方と、転生する方はどちらが多いんですか?」

「そうですね、輪廻の方は5割、転生は2割というところでしょうか」

「転生の方が2割って、なんだか意外に少ないですね」


ん……?

輪廻5割で転生2割では7割にしかならない。

残りの3割って……?


「あの、あとの3割って?」

「あー、やっぱりそう思われますよね。残り2割は転生にも輪廻にも行けない方たちになります」

「というと……?」

「俗にいう地獄に行く方たちですね」

「やっぱり地獄ってあるんですね」

「ええ、地獄課です。ああ、ちょうど閻魔課長があちらに」

「閻魔課長……」


なんというパワーワードだ。


閻魔課長は転生課の課長らしき人に、今日飲みに行かない?とばかりに、コップで何かを飲むジェスチャーをしていた。


「ちなみに見学とかって出来たりするんですか?」


ここまで来たら、裏側を全部知りたく、いや見たくなってきた。


「うーん、見学ですか?ちょっと課長に確認してみないと……」


そう言いつつ、職員は課長に声をかけた。


「課長、こちらの方が見学されたいそうなんですが……」

「はいはい?見学ですか?大丈夫ですよ。こちらの書類に必要事項を書いていただくことになりますが」


そう言って課長は1枚の書類を渡してきた。

氏名、生年月日、生前の職業、そして細かく要項が書かれていた。

私は必要事項を記入し、要項は軽く目を通した程度で書類を課長に返す。


「はいはい。じゃあちょっと判子押しますね。……えーっと、どちらの見学をご希望ですか?」

「やっぱり輪廻の輪ですかね。あと、できれば地獄も見せていただきたいのですが」


——「できれば」なんて嘘だ。

閻魔課長を見てしまった以上、地獄がどんなものなのか、物凄く気になっている。


「地獄ですかー、普段だったらちょっと難しいんですけどねー。ちょうど閻魔くんもいるし、頼んでみましょうか」


そう言って転生課の課長は閻魔課長の方へ歩いていった。


「地獄が見たいなんて、怖くないんですか?」


転生課課長と閻魔課長が話している間に、職員の方が尋ねてきた。


「うーん、ちょっと怖いんですけど、でもこんな機会はそうそうないっていうか……」

「あー、乗りたくないけど、人気で通常待ち時間が2時間の絶叫マシンが、たまたま待ち時間が5分の時に通りかかった、みたいな感じですね」


なんとなく職員の方は、私の好奇心に共感してくれたようだった。

だが、何故遊園地に例えるのだろうか。

職員にとって、ここは遊園地みたいなものなのだろうか。


「閻魔くんがね、見学を許してくれましたよ。詳しいことは直接彼に聞いてね」


戻ってきた転生課の課長にそう言われ、閻魔課長の元へ向かった。


「見学を許してくださって、どうもありがとうございます。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」


離れたところで見ていたときよりもずっと大きく、私はかなり上を見上げなければならなかった。


「転生課に来ているときでちょうど良かったです。では行きましょうか」


地獄に向かいながら、閻魔課長に質問をしてみた。


「このお仕事はもう長いんですか?」

「そうですね。もう長いことしてます」


閻魔課長は意外と物腰の柔らかい人だった。

ただ声は腹にどーんと響く。


「地獄へ行く人の割合は全体の2割と聞きましたが」

「日々変動はありますが、大体そのくらいでしょうね」

「やはり大変ですか?」

「そうですね、気は抜けない仕事ではあります。でも、この仕事に就いて長いので、加減の仕方にはもう慣れました」


……何の加減だろう。


「……週休2日制ですか?」

「24時間体制ということもあり、基本的に週休2日のシフト制です。ただ、夜勤の週は3日の休みが貰えますよ」


地獄課は、まさかの現世より優しい職場であった。


「あ、あそこが地獄の門です」


閻魔課長に言われ、指を差した方を見ると、確かに禍々しい黒い大きな門がある。


……でも、思ったより綺麗?

そう感じながら門に近づくと、掃除をしている人たちがいる。


「あー、いつもありがとうね。今度清掃課の方に差し入れ届けるから」

「いえいえ、地獄課の皆さん、いつも綺麗に使ってくださるんでね。だいぶ楽させていただいてますよ。輪廻の輪と転生案内ブースは、一部の利用者のマナーが悪くて、あっちは大変なんですけどね」

「あまりにも態度悪い利用者がいたら、内線で呼んでください」

「はは、それは心強い。じゃ、私たちはこの辺で」


清掃課の職員たちと別れた閻魔課長は私の方を振り返った。


「すみません、お待たせしてしまいました。じゃ、どうぞ中へ」


そう言って、閻魔課長は地獄の門を開けてくれた。


「あの、これって、入ったら出られないということはないですかね……?」


若干怖くなってしまい尋ねると、閻魔課長は思わず笑った。


「ぐわはははっ、いや失礼。今まで特に怯えた様子もなく私に付いてきていましたが、やっぱり少しは恐怖を感じてくださったのですね」

「お恥ずかしい限りです。この門は一人では開けられないな、と思ったら急に怖くなってしまって」


閻魔課長の言葉を信じ、一歩踏み出し門に近づく。

硫黄の臭いがする。

叫び声は聞こえない。

思い切って中へ入ってみる。


「あれ?静か……?」

「今はちょうど移動の時間じゃなかったかな」


そう言いながら閻魔課長は時計を確認する。


「やはりそうでした」

「移動ですか?」

「同じ罰だけだと利用者も飽きてしまいますし、今は満遍なく行うようにしているんですよ」

「満遍なく……?」

「ええ。暑いなかや寒いなかに放置したり、体の一部だけ痛めつけるような偏った罰だと、満足度が低い、とマーケティングをした上層部から言われましてね」


その満足度は、誰の、何に対する満足度なんだろうか……


罪人らしい人たちが近くに移動してきた。

目が虚ろな人もいれば、ギラギラしている人もいる。

あれは罰を受けた時間に比例するのだろうか?


「移動が終わったようですね。もう少しで罰を受ける時間が始まります。見ていきますか?」

「いえ、もう充分です」


罰を受ける時間はその人のものだ。

部外者が気軽に見ていいものではない。


閻魔課長はこれから大事な会議があるとかで、部下の方に私を転生課まで送っていくように頼んでくれた。


「お忙しい中ありがとうございました」

「いえ、何かお役に立てたなら幸いです。あなたに合う場所が見つかると良いですね」

「あ、いえ私は輪廻の方へ向かうつもりです」

「そうでしたか。地獄にいらしていただけるのかと。意外に向いているかもしれませんよ」

「まさかそんな。そこまでの悪いことはしてないはずです」


閻魔課長に笑いながら別れを告げ、部下の方に連れられ転生課に戻る。

部下の方はいかに閻魔課長がいい上司であるか、道中ずっと聞かせてくれた。

……だが、閻魔課長の拷問の腕前についての話題は、全力で遠慮させていただいた。


転生課に戻ると、さっきの職員の方が気づいてくれ、近づいてきた。


「地獄はどうでした?」

「意外と言ったら失礼ですが、きれいなところでした。」

「恐ろしい場所だから汚い、って噂やイメージは付いて回ってしまいますからね」


やはり、私だけの思い込みではなかったようだ。


「じゃあもうそろそろ輪廻の方へ向かおうと思います。どちらに行けばいいんでしょうか?」

「あ、ご案内しますよ。見学をご希望されてましたし、課長にも案内するよう言われてます」


もう輪廻の輪に乗る決意は出来ていたのだが、せっかくなのでお言葉に甘えて、案内してもらうことにした。

輪廻の輪には1人で乗らなくてはいけないのだろう。

そうすると、もうこの先、生まれ変わるまでは誰かともうお喋りすることはない——そう思うと、胸の奥に少しだけ寂しさを感じた。


輪廻の輪へ向かう前にもう一度、転生希望の行列の方へ振り返った。

行列はさっぱり減った様子がない。

むしろ夜に近づくにつれ増えているようだ。

——やはり並ばなくて良かった。


「じゃあ行きましょうか」

「お願いします」


道すがら職員の方と少し話をしながら歩いた。


「休みの日は大抵観光してますね。まだここに入って間もないので」

「そうなんですか。案内係へは希望されて?」

「ええ、利用した時にこうやって話すのが楽しいな、と思いまして」

「……利用したとき?」

「ええ、あ、着きましたよ」


輪廻の輪は想像以上に大きかった。

上の方の籠なんて、豆粒どころか、胡麻よりも小さい。


「うわー、本当に大きいんですね」

「上から見ると、凄くいい眺めですよ」

「え?乗ったことあるんですか?」

「ええ、職員制度で安く乗れるんです。年間の休暇は潰れてしまいましたが、その価値はありましたね」


まさか輪廻の輪に、休暇中の職員が乗っているとは思いもしなかった。

意外な事実に呆けていると、職員の方に声をかけられた。


「じゃあ戻りましょうか」

「え?戻る?私は輪廻の輪に乗るんですけど」

「いやいや、さすがに初日から休暇は取れませんって」

「……初日?」

「ええ、さっき勤務契約書にサインされてましたよね?」

「……勤務契約書?」

「課長に判子もらったじゃないですか。あ、これから同僚になるから、もう敬語は無しでいいか」

「同僚」

「どの課に行くのかなー。見学者で地獄を最初に見に行った人ってあんまいないって聞いたから、閻魔課長も久しぶりに新人が入るってご機嫌だったよねー。」


……だから閻魔課長は、私が地獄に向いていると言ったのか。

そして、非転生者の残り3割の内訳は、地獄2割、就職1割だったとは。


——ああ、あの書類すら読まずに、何が活字中毒だ。


「あそこは穴場の温泉があるから、今度の休みに教えてあげ——」


改めて同僚になった職員の声を聞きながら、恥ずかしさからか顔が熱くなる。


こうして私はここで働くことになった。

——輪廻の輪に乗るのは、初めての休暇に職員割引を使おう。


「あ、あのさ、閻魔課長ってどんなお酒を——」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


「この主人公、これからどうなるの?閻魔課長との飲み会が見たい」、と少しでも思った方、ぜひ感想をお聞かせください。

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