表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7 あたたかな庭で



 待合室の喧噪を(かえり)みて、二人は中庭へ移動する。

 思った通り、そこは待合室ほどの騒がしさは無く、なおかつ柔らかい陽光にあふれていた。

 

 二人はベンチに並び、一冊のノートを覗き込んでいた。


「……そうそう、そうすると人の顔ってバランスが取れるんだ。ほら、上手くなったじゃん」


 オトナシは頷きつつ、カグチの指導の元で大分整った似顔絵を嬉しそうに眺めている。

 突如、その横に何かを書き始めた。


「……? なんだ?」

『カグチもここに書いて。おれの似顔絵 → 』


 にこっと笑うと、カグチにノートとペンを差し出す。


「しょーがねーなー」


 カグチは言われた通り、すらすらと線を引いていく。

 『絵が好き』という言葉の通り、彼の手つきには迷いがなく、あっと言う間に出来上がっていった。


「出来たぞ」


 描かれたのは、柔らかく笑うオトナシの顔。

 オトナシは一度その絵をじっと見つめると、その顔がぱあっと輝き、抱きしめるようにノートを胸に当てる。


『すごい! ありがとう!

 おれももっと練習して、もっと格好良くカグチを描けるようになる』

「おー。しかし、なんでノートの表紙に名前と顔なんて書いてたんだ?」


 カグチがそういうと、オトナシは肩から提げていた自分の鞄を開いた。

 ――そこには、無数のノートがびっしりと入っている。


「うおっ」


 オトナシは数冊を取り出し、カグチに向けて広げた。

 どの表紙にも、名前とあまり上手いとは言えない似顔絵が書かれている。


『話してくれた人の分だけノートを作ってあるんだ。

 これがおれの《声》と《思い出》だから』


 オトナシはそう書くと、“声”と“思い出”。その言葉を、強調するようにぐるりと丸で囲んだ。


「重く無いのか?」

『重い』

「だろうな」


『でもね、どれも大事だからちゃんと抱えておきたいんだ

 楽しいことも、つらいことも全部』


 ノートを抱えたままこちらを見る、オトナシの無垢な瞳。

 さらりと落ちる髪の影が揺れ、カグチは思わず視線を落とした。


「…………そうか」


 少しの沈黙ののち、オトナシは新たなページにさらさらと文字を書き足した。


『カグチ。また今度、星空を見に行かない?

 他にもいい場所があるんだ』


 カグチは小さく息を吐き、肩の力を抜く。


「ああ。良いぜ、付き合うよ」


 その返事に、オトナシは嬉しそうに笑みを浮かべた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ