7 あたたかな庭で
待合室の喧噪を顧みて、二人は中庭へ移動する。
思った通り、そこは待合室ほどの騒がしさは無く、なおかつ柔らかい陽光にあふれていた。
二人はベンチに並び、一冊のノートを覗き込んでいた。
「……そうそう、そうすると人の顔ってバランスが取れるんだ。ほら、上手くなったじゃん」
オトナシは頷きつつ、カグチの指導の元で大分整った似顔絵を嬉しそうに眺めている。
突如、その横に何かを書き始めた。
「……? なんだ?」
『カグチもここに書いて。おれの似顔絵 → 』
にこっと笑うと、カグチにノートとペンを差し出す。
「しょーがねーなー」
カグチは言われた通り、すらすらと線を引いていく。
『絵が好き』という言葉の通り、彼の手つきには迷いがなく、あっと言う間に出来上がっていった。
「出来たぞ」
描かれたのは、柔らかく笑うオトナシの顔。
オトナシは一度その絵をじっと見つめると、その顔がぱあっと輝き、抱きしめるようにノートを胸に当てる。
『すごい! ありがとう!
おれももっと練習して、もっと格好良くカグチを描けるようになる』
「おー。しかし、なんでノートの表紙に名前と顔なんて書いてたんだ?」
カグチがそういうと、オトナシは肩から提げていた自分の鞄を開いた。
――そこには、無数のノートがびっしりと入っている。
「うおっ」
オトナシは数冊を取り出し、カグチに向けて広げた。
どの表紙にも、名前とあまり上手いとは言えない似顔絵が書かれている。
『話してくれた人の分だけノートを作ってあるんだ。
これがおれの《声》と《思い出》だから』
オトナシはそう書くと、“声”と“思い出”。その言葉を、強調するようにぐるりと丸で囲んだ。
「重く無いのか?」
『重い』
「だろうな」
『でもね、どれも大事だからちゃんと抱えておきたいんだ
楽しいことも、つらいことも全部』
ノートを抱えたままこちらを見る、オトナシの無垢な瞳。
さらりと落ちる髪の影が揺れ、カグチは思わず視線を落とした。
「…………そうか」
少しの沈黙ののち、オトナシは新たなページにさらさらと文字を書き足した。
『カグチ。また今度、星空を見に行かない?
他にもいい場所があるんだ』
カグチは小さく息を吐き、肩の力を抜く。
「ああ。良いぜ、付き合うよ」
その返事に、オトナシは嬉しそうに笑みを浮かべた。




