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6 再会のノート


 

 白い壁の目立つ診察室。

 医師が見守る中、自分のマスクに手をかけたカグチの手が、酷く震える。


「無理せず、ゆっくりで良いからね」


 医師の言葉に頷くと、カグチは深呼吸し、そっとマスクを外した。

 黒いマスクのその下……彼の口元には、左右にギザギザとした傷痕が走っていた。

 未だに紅く、痛々しいその傷痕に、医師の指が静かに触れる。


「――うん。腫れてたのは大分良くなった。でも……残念だけど、この(あと)はこれ以上は治りそうもないね」

「そうですか」


 申し訳なさそうに肩をすくめる医師とは対照的に、カグチは淡々と答える。


「でも、何か手だてはあるかも知れないから。諦めないでやっていこう」

「……はい」 


 カグチはマスクを付け直し、ほっとしたように息を吐いた。


「じゃあ、また」


 軽く頭を下げて診察室を出ると、カグチはマスク越しに傷痕を撫で、肩を落とした。


 数年前に誘拐され、つけられてしまったその傷痕。

 既に治ったはずなのに、未だに()むことがあった。

 まるで、彼をあざ笑うかのように。


「……」


 待合室の喧騒(けんそう)を抜け、出口に向かって歩く最中、ふいに誰かとぶつかった。


「あっ、すんません、よそ見してて……って」


 ぶつかった相手は――あのオトナシだった。

 オトナシの方もカグチに気づいたらしく、その瞳がぱっと輝く。


 彼は慌てて鞄を探り、一冊のノートを取り出す。

 表紙にはカグチの名前と何かのマークが書いてあり、彼は満面の笑みを見せつつ、少し興奮した様子でそれを指さしている。


「あーそうそう、俺はカグチ。お前オトナシだよな? ってか、なんだこの、豆大福に海苔はっつけたようなマークは?」


 オトナシはそのマークと、カグチの顔を指さす。

 

「もしかして、俺の似顔絵ってことか? へったくそだなー」


 その瞬間、オトナシの表情が固まる。

 ノートとカグチを交互に見比べ、しょんぼりと肩を落とした。

 ――どうやら、自信作だったらしい。


「あっ、すまん! つい……」


 カグチが慌てて謝るも、オトナシは意気消沈した様子で俯いたまま動かない。


「あー……なあ、これから時間あるか」

「……?」

「よかったら、その……失礼なこと言ったお詫び……っちゃあなんだが、一緒に絵描かないか? 俺、こう見えても描くのが得意なんだ。だから……」


 顔を上げたオトナシは、驚いたように目を瞬かせる。

 次の瞬間、ぱあっと花が咲いたように笑って、首を縦に何度も振った。


 

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