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4 川底へ


  

 その山の奥には古い橋があった。

 下には深い崖が広がっており、そこから落ちた人は中々見つからない。

 現に毎年、行方不明者が出ている場所だ。

 

 月の明るい夜。

 カグチは山道を歩き、その場所へ向かっていた。


「(あそこなら、きっと確実に……)」


 ――身を投げる、そのために。



 だが、その橋には先客がいた。


「……人? こんな時間に?」


 人影は橋の下を覗き込んでいるようだったが、

 突如、その身を大きく乗り出した。


「!? おい、なにしてんだ!? やめろって!!」


 自分も同じ事をしようとしていたのを忘れ、カグチは思わず駆け寄り、その青年の肩を掴んで引き戻した。


「……!? !!?」


 青年は酷く驚いたような顔をし、何かを必死に言っている。

 いや、言おうとしているが、言えていない。

 ――声が、全く出ていないのだ。


「……は? なんだ、お前」


 戸惑うカグチをよそに、青年は顔をしかめ、地面に置きっぱなしの鞄からノートを取り出す。

 そして、何かを走り書きした後、カグチに押しつけた。


『なにすんだ』


 月明かりに照らされた太い文字は、はっきり読めた。

 青年は眉をつり上げ、ノートをバンと叩いて怒りを示す。


「何すんだって、お前死のうとしていたろ!?」


 青年はぶんぶんと首を横に振ると、再びペンを走らせた。


『してない』

「あんなに身を乗り出してたじゃねぇか!?」


 青年はこくりと頷き、カグチを手招きした。

 そして橋の下……自分が見ていた川底を指さす。


 ――そこは、光で満ちていた。


 キラキラキラキラと、無数の粒が揺らめき、まるで夜空をそのまま川底に沈めたようだった。

 いや、今夜の空よりも、川底の星々の方がよほど輝いている。


「なんだ、あれ……?」

『ここの川底に、光に反応する石がいっぱいあるんだ。

 日中は目立たないけど、今日みたいに月の明るい日にはとても綺麗に見える。それを見ていただけ』

「そうだったのか……すまない」


 カグチが素直に頭を下げると、青年は“大丈夫”と言うように、穏やかな顔で小さく首を振った。


「すごい……星空みたいだな。いや、今日の星空よりもキレイだ」


 心から感動したようなカグチの呟きに、青年はくすりと笑う。

 そしてしばらくの間、二人は黙って川底の星空を眺め続けた。



 

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