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11 『大丈夫』


 暗く、湿っぽい空気。

 所々に染みがついた、コンクリートの部屋。


  ――あの夢だ。

 

 カグチは体を強ばらせた。


 それは、もう平気だと思い始めていた、暗く冷たい悪夢の始まりだった。


「(しばらく見ていなかったのに、なぜ今更……!?)」


 そんなカグチの疑問もつゆ知らず、

 いつも通り、見たくもない残虐なショーが始まる。


 また一人、また一人と、次々に手にかけられていく。

 

 もう、止めてくれ。

 頼むから、見せないでくれ。

 来ないでくれ。


 カグチの言葉は届かない。

 いつも通り、犠牲者の酷い悲鳴が響いたと思うと、突然途切れ、代わりに重い水音が……

 

 鳴らなかった。


「……?」


 ――代わりに、波の音が聞こえる。

 いつかオトナシと歩いた、あの海岸の音だ。

 そして、世界の端が、ゆっくりと淡く光りはじめていた。


『大丈夫だよ』


 暗く陰鬱だった背景が、カーテンのように剥ぎ取られ、夜明けの海に変わる。

 その向こうから、大きなオトナシがぴょこっと顔を出して笑う。


「は? オトナシ?」


 唖然とする間もなく、カグチへ、殺人鬼が向かってくる。


 オトナシは、持っていたノートで殺人鬼を押さえつけると、虫をつぶすようにそれを潰した。

 そのままぐりぐりと押さえつけ、丁寧にとどめを刺す。


「まじかよ……」


 オトナシは殺人鬼をノートごとぐしゃりと丸めると、そのままポイッと遠くに投げ捨てた。


『ね?』

「……ははっ、お前、ほんっとにつえーな!!」


 オトナシは笑う。


『大丈夫。大丈夫だよ。

 カグチはもう、大丈夫!

 きっと、自分でも気づくと思うよ』


 夜が明けていく。

 太陽が地平線から昇り、明るくなっていくと同時に、雨のようにノートの紙が降ってきて、空中で様々なものに変わっていった。


 少し歪んだ五芒星が空へ登り、

 彼の書いた似顔絵がくるくると踊る。

 

 そして、

 それらと一緒に落ちてくる、オトナシの書いた数々の言葉たちが、辺りをどんどん明るくしていく。


 暗く冷たく、ずっと貼り付いてきた悪夢が、明るく柔らかいファンシーなものに書き換えられていく。

 

 紙の雨の向こう側。

 オトナシは、まるで子どもをあやすみたいに笑いかけてきた。


『だからね、

 おはよう。カグチ』

 

 

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