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10 コンビニで


 とある深夜のこと。

 二人はコンビニに立ち寄って、売れ残りの肉まんをひとつ買い、半分こにしていた。


 カグチは横を向き、傷を見せないようにマスクをほんの少しだけ持ち上げ、そっと一口かじった。

 オトナシはそんな彼を横目で見ると、ごそごそと鞄の中を探り始めた。


「……? オトナシ、早く食えよ。冷めるぞ」


 オトナシはこくこくと頷き、鞄を閉じると肉まんを頬張り始める。


「そういやよ、お前大学生なんだろ? こんなに出歩いてて、単位とかは平気なのか?」


 カグチの問いに、オトナシは口いっぱいに肉まんを詰めたまま、むぐむぐと頷く。


『へいきだよ』


 片手で急いで書かれたガタガタの字を、ぐいっと押し付けられ、カグチは吹き出した。


「焦ってんじゃねぇか。まあ、大学いってねぇ俺が言えたもんでもないけどさ。卒業できるもんはしといたほうがいいんじゃねぇの?」


 からかうように笑いながら、ふと足元へ視線を落とした瞬間――カグチの動きが止まった。


「うお!?」


 視線の先には、黒光りするあの有名な虫が一匹。

 カグチの声に驚いたのか、虫もビタッと固まり、カグチはそれと至近距離で睨み合う形になる。


「?」


 首をかしげるオトナシに、カグチは引きつった顔のまま答えた。


「……お、俺、だめなんだ、これ、だけは」


 その一言を聞くやいなや、オトナシはノートをぱらりと開き、一枚を迷いなくびりっと破く。

 その紙を虫の上にかぶせると、そのまま紙ごとつまんで丸め、コンビニのゴミ箱にぽいっと放り込んだ。

 

 目にも留まらぬ、鮮やかな一連の動作に、カグチが感嘆の声を上げる。


「すげ……つえぇな、お前!」


 オトナシは得意げに胸をはると、ふん、と鼻を鳴らした。


『ともかく、大学は平気だよ。ギリギリだけど』

「ギリギリは平気って言うのか?」

『平気だってば!!』


 夜が明けていく。

 そろそろ、帰る時間だ。


「ほんじゃー今日はそろそろ帰るか。俺こっちだから……」


 (きびす)を返そうとしたカグチの服を、オトナシが掴んだ。

 そして、四つ折りにされたノートの紙を渡す。


「なんだ?」

『お守り。あげる

 それ、おれの好きな言葉』

 

 オトナシは紙を渡し、ノートをしまうと、ばいばい、と手を振った。


 カグチが紙を開くと――、

 大きく力強く書かれた『大丈夫!』という言葉と、少しマシになったオトナシ本人の似顔絵が描かれていた。


 カグチはふっと笑う。


「お守り、ねえ……」


 丁寧に畳んでポケットにしまうと、カグチも家へ向けて歩き出した。


 

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