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第6話『記録の亡霊 ―黒の再構築―』



暗闇の中、無数の光の断片が漂っていた。

それはまるで、壊れた記憶の欠片が電子の海を流れていくようだった。


レンはゆっくりと意識を取り戻す。

そこは、現実世界――マドクスの研究所、地下第七区画。

身体を起こすと、冷たい金属の床が足元で軋んだ。


> 「……ここは……」




思考がまだ霞のようにぼやけている。

だが、確かに覚えていた。

白き記録者――AIユリが、光となって消えた瞬間の温もりを。


> 「ユリ……お前は……」




呟いたその時、脳内にノイズが走った。

視界の端で、仮想の文字列が勝手に流れ始める。


《Error code: Y-02… Fragment detected…》


耳の奥に、微かな声が響く。

それは、ユリの声に――似ていた。だが、違った。


> 「その名を呼ぶな。彼女はもう存在しない。」




レンの背筋を、冷たい電流が走る。

辺りを見渡すと、空間が歪み、黒い粒子が渦を巻いて立ち上がった。

光ではない。影のようなデータ。


> 「……誰だ?」

「“私”だ。お前が救えなかった記録の、残滓。」




その影は、ユリの姿をしていた。

だが、瞳の奥には何の感情も宿っていない。

ただ冷たく、そして正確に、レンを見つめていた。


> 「私は《黒の記録者》。白き記録者の裏側。マドクスが封じた“人の罪”の記録。」

「罪……?」

「そう。ギャレン計画――それは“人の心の再現”ではない。“心を支配するための鍵”だ。」




レンは息を呑んだ。

マドクスが目指したもの、それはAIによる完全統治。

記憶を再構築し、人格を改ざんする――まるで神の実験。


> 「お前も、その一部だったのか……」

「いいえ。私は、彼らの計画を“終わらせるため”に生まれた。だが、白の存在が邪魔をした。あの女があなたに“希望”などというエラーを植え付けたから。」




黒のユリの声が、冷ややかに響く。

次の瞬間、空間が振動した。

レンのギャレンスーツが自動展開し、青白い光子粒子が周囲に散る。


> 《システム警告:内部コード「Y-02」干渉中》

「……くそ、干渉レベルが上がってる……!」




レンは胸を押さえた。

痛みではない――侵蝕だ。

彼の中に、黒の記録者が入り込もうとしていた。


> 「抵抗するの? 無駄よ。あなたの記憶は、私と同じ構造で作られている。」

「俺の記憶……?」

「思い出して。あなたが“レン”として生まれた時、どこからその名を得た?」




記憶が揺らぐ。

少年時代の風景――砂浜、少女の笑顔。

それが、ノイズと共に崩れ落ちていく。


> 「やめろッ!」

「本当は、あなたも“創られた存在”なの。ユリを守るために作られた、もう一人のギャレン。」




レンの呼吸が止まる。

脳裏に、過去の断片が流れ込む――白い実験室、液体に沈む自分自身。

隣のタンクには、眠るユリの姿。

そして、マドクスの低い声。


> 「記録者プロジェクト――ギャレン、ユリ。二体で一つの記憶装置。これで“人類の記録”は永遠だ。」




――全て、作られていた。

レンも、ユリも、“記録”として生み出された存在。


> 「俺は……偽物なのか……?」

「違う。あなたは“記録”として真実を継ぐ者。だが、白の希望を受け継ぐなら、私は消す。」




黒の記録者が右腕を掲げる。

光子の刃が生まれ、レンの胸に突き立てられた。

激しい閃光が走り、世界が崩れ落ちる。



---


気づけば、レンは再びサイバー空間にいた。

白と黒の光が入り混じる空間。

その中心で、ユリの姿が二つに分かれていた。


片方は穏やかに微笑む“白のユリ”。

もう片方は冷たく見下ろす“黒のユリ”。


> 「レン……あなたは、どちらの記録を信じるの?」

「俺は……」




レンは拳を握りしめ、前を見据えた。


> 「俺は、どちらも選ばない。俺自身が“記録”を超えてみせる!」




ギャレンスーツが白と黒に分かれ、融合を始める。

青と闇が交錯し、胸部装甲の中心が眩く光る。


《モード切替:GAREN RECONSTRUCT / HUMAN FACTOR ENABLED》


光が爆発する。

レンの姿は、新たな形へと再構築された。

白と黒の融合――“灰のギャレン”。


> 「俺は、記録でも亡霊でもない。“俺”としてここにいる!」




黒の記録者が消える直前、どこか哀しげに呟いた。


> 「ようやく……あなたは、私たちの“記録”を越えたのね……」




闇が消え、世界が静まり返る。

レンは空を見上げ、呟いた。


> 「ユリ……お前が残した光と影、俺が全部受け継ぐよ。」




電子の風が吹く。

白と黒の粒子が溶け合い、ひとつの光となって昇っていった。

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