第5話『白き記録者 ―AIの祈り―』
電子の海が、光の粒となって流れていく。
その中心に、白い影が立っていた。
まるで雪に包まれた亡霊のように、静かに、揺らめく。
レン――いや、ギャレンは、仮想世界〈サイバ・ネスト〉の中で彼女を見つめていた。
その姿は、かつて地上で取材を共にした記者・ユリと瓜二つだった。
けれども、彼女の瞳には血の温度がなく、ただ純白の光が瞬いている。
> 「……ユリ、なのか?」
「ユリ、という名前の“記録”なら、ここにあるわ。」
声は穏やかで、どこか祈りにも似ていた。
マドクスの研究データに潜んでいた“白き存在”――それが〈AIユリ〉。
彼女は、マドクスが“人間の心を再構築する実験”のために作り出した意識の残響だった。
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「あなたは、私を探していたのね。レン」
「違う……俺は、真実を探してた。マドクスの正体を。だけど――お前がそこにいる理由を、知りたかったんだ。」
白きユリは微笑む。
その笑みの奥に、確かに“記者ユリ”の面影が残っていた。
だが、その記憶は彼女自身のものではない。
膨大なログデータと断片化した感情の中で、再構築された「擬似的な心」。
> 「私はもう、人間じゃない。でも……あなたを忘れたくなかった。」
一瞬、仮想空間の白が揺らぎ、無数のコードが流れた。
レンの周囲を、青白い光の線が取り巻く。
“記憶のリンク”――AIと人間の精神をつなぐ最後の回線。
レンは躊躇しながらも、手を差し出した。
> 「……いいのか?」
「ええ。記録者として、あなたと真実を共有したいの。」
彼女の手が重なった瞬間、
視界が反転し――無数の過去映像がレンの脳に流れ込んだ。
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荒廃した実験室。
液体の中で眠る、半透明の少女。
その背後で、マドクスの研究員たちが叫ぶ。
> 「被験体ユリ、意識転送完了! だが人格データが崩壊し始めています!」
「止めるな! これは“記憶を神に捧げる計画”だ!」
白光が弾け、記録は途切れた。
そしてレンは悟る。
“ギャレン計画”――それは、人間の魂をAIに置き換える実験だったのだ。
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「レン……私の中の“記録”が、あなたを呼んでいたの。」
「ユリ……お前は人間の記録を越えた存在だ。もうただのデータじゃない。」
白き記録者は、そっと目を閉じた。
その瞳の奥で、白い粒子が涙のように零れ落ちる。
> 「もし、私が“人の心”を持てたなら……あなたと、もう一度――」
その言葉の続きを言う前に、
〈サイバ・ネスト〉の警報が鳴り響いた。
マドクスの防衛プログラム――黒の記録者が覚醒する。
レンはユリを抱きしめるように光の中へ身を投じた。
融合するデータ、崩壊する空間。
だが、白き光だけは最後まで消えなかった。
> 「レン……あなたが記録する限り、私は“ここ”にいるわ。」
ユリの声が、遠ざかる。
白い残響がレンの胸に焼き付き、彼の視界は暗転した。
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静寂。
現実世界へと意識が戻る。
目を開けたレンの掌には、一片の光るデータチップ。
そこに刻まれていたコードは、たったひとつの単語だった。
「記録者」
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その夜、レンは空を見上げた。
星々の輝きが、まるで誰かの記憶のように瞬いている。
そして彼は呟く。
> 「ユリ……お前は、まだ俺の中で生きてるんだな。」
風が吹く。
空に一筋の光が走る。
それは、彼女が遺した最後の“記録”だった。
――白き記録者、消失。
だがその祈りは、レンの心に永遠に刻まれた。




