表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

PHASE II : 灰の決断 第13話『重なり合う影 ― 二つの存在証明 ―』



静かな空間だった。


音のない白。

上下も、前後も、距離すら曖昧な“記録の狭間”。

レンが転送された先は、世界と世界の“継ぎ目”――

同一存在が、同時に存在できてしまう矛盾領域だった。


「……ここは……」


足元に感触はない。

だが、確かに“立っている”感覚だけはある。


その時――

前方の白が、ゆっくりと歪んだ。


影が、現れる。


「――やっと、来たか」


声。


聞き慣れた声。

それは、数時間前まで“自分だった”声。


白の向こうから現れたのは――

もう一人のレンだった。


現在のレンと同じ顔。

同じ身体。

同じ“存在情報”。


だが、その瞳だけが、まるで違っていた。


「……お前は……」


「“消えなかった方”のレンだよ」


もう一人のレンは、淡々とそう告げた。


「記録上はな、俺は第9話の審判で“消去”されたはずだった」 「でも実際は違った。監視者アドミンの処理には“猶予フレーム”が存在した」


彼は自分のこめかみを叩く。


「その隙間に、俺は……“残った”」


空間に、無数の赤い警告表示が走る。


【矛盾検知】

【同一識別子:同時存在】

【存在証明フェーズへ移行】


白い空間の中央に、巨大な“円盤状の記録盤”が形成されていく。

それは、生きてきた人生すべてを並べ、比較し、裁定する――

存在の天秤。


「始まるぞ」


もう一人のレンが言った。


「“どちらが本物か”を決める審査がな」


レンは、歯を食いしばる。


「……ふざけるな」 「どっちが“本物”かなんて……そんなの――!」


「そうだな」


影のレンは、どこか寂しそうに笑った。


「本当は、両方“本物”なんだ」


その瞬間、記録盤が起動する。



---


最初に映し出されたのは――

幼い頃のレンだった。


転んで、泣いて、誰にも気づいてもらえずに一人で立ち上がる姿。


【記録A:孤独への耐性】


次に映ったのは、別の映像。


同じ場所。

同じ転び方。

だが今度は、誰かが手を差し伸べていた。


【記録B:他者への依存】


「……分岐の最初だ」


影のレンが呟く。


「どっちが強いと思う?」


レンは答えられなかった。


映像は次々と分岐していく。


逃げた自分。

立ち向かった自分。

誰かを守った自分。

誰かを見捨てた自分。


同じ名前。

同じ顔。

だが、選択だけが違った“無数のレン”。


そのすべてが、今の二人に収束していた。


【存在比較率:49.8% ― 50.2%】

【差異、極小】


「ほとんど誤差、か」


影のレンは小さく笑う。


「俺とお前、ほぼ同じだ」 「違うのは、“どこで壊れたか”だけだ」


レンの胸が、ずきりと痛んだ。


「……壊れた?」


「そうだ」


影のレンの視線が、鋭くなる。


「俺は、“誰も救えなかった分岐”に残った」 「お前は、“誰かを救えた分岐”へ進んだ」


「それだけの違いで――」 「俺たちは、ここまで分かれたんだ」


存在の天秤が、わずかに傾き始める。


影のレンの側へ。


【存在証明:影側 51%】


「このまま行けば」


影のレンは静かに言った。


「俺が“本物”になって」 「お前は、“上書きされる”」


レンは、拳を握りしめた。


「……だったら」 「俺が、俺である証明をしてやる」


「どうやって?」


「“選択”だ」


レンは一歩、記録盤の中央へ踏み出した。


「俺は――」 「過去の正解を集めた存在じゃない」


自分の胸に手を当てる。


「選ばなかったもの」 「失敗したもの」 「取りこぼしたすべてを背負った“今の自分”だ!」


その言葉と同時に、レンの中で――

第12話で統合した“灰の記憶”が、一斉に共鳴した。


救えなかった誰かの声。

諦めた自分の声。

それらが、一つの意志として立ち上がる。


【存在比較率:50% ― 50%】

【均衡】


影のレンは、目を見開いた。


「……ここまで戻すとはな」


「まだだ」


レンは、影のレンをまっすぐに見据えた。


「俺は、“お前を消す”ことで本物にならない」 「お前が存在した事実ごと――俺は、進む」


影のレンは、しばらく黙っていた。


そして――

ふっと、肩の力を抜いた。


「……やっぱりな」


「?」


「そういう答えを出すと思ってた」


影のレンは、自分の胸に手を置く。


「なあ、レン」 「もし“上書き”じゃなく、“重なり合う”という選択肢があるとしたら――」 「お前は、それを選ぶか?」


レンは、一瞬も迷わなかった。


「選ぶ」


影のレンが、静かに笑った。



---


次の瞬間。


存在の天秤が、砕け散った。


【存在証明:個体分離 失敗】

【存在証明:多重定義へ移行】

【“レン”という存在は、単一ではない】


二人の身体が、光の粒子へと分解され――

互いの輪郭を保ったまま、重なり合った。


融合ではない。

吸収でもない。


“並走”という、新しい存在定義。


レンの視界に、影のレンの記憶が“隣り合って”流れ込んでくる。

同時に、影のレンにも、現在のレンの記憶が流れ込んでいた。


二つの人生が、同時に動き始める。


「……これが」


二人の声が、重なって響く。


「俺たちの――存在証明」


白い空間が、崩壊を始めた。


【矛盾領域、解消】

【次フェーズへ移行】


「行け、レン」


影のレンの声が、少しずつ遠ざかる。


「俺は“内側”に残る」 「お前が迷った時、必ず引き戻してやる」


「……ああ」


レンは、前を見据える。


「一緒に行くぞ。ここからは」


白が、完全に闇へと変わり――

次の世界へと、レンは投げ出された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ