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PHASE II : 灰の決断 第12話『灰の統合 ― 選ばれなかった未来へ ―』



灰が、降っていた。


燃え尽きた世界の名残のように、空から静かに、音もなく。

それは雪にも似ていたが、決して清らかなものではなかった。

失敗した可能性。消去された選択。

“選ばれなかった未来”そのものが、形を変えて降り積もっているようだった。


レンは、瓦礫の上に立ち尽くしていた。

ここは、かつて“世界線A-12”と呼ばれた監視領域。

第9話でアドミンの審判により、**「不要」**と断じられ、強制終了された世界だ。


そして――

その世界の“レン”は、確かにここで死んだ。


「……まだ、残ってるのか。記録ってやつは」


背後から、もう一人のレンの声がした。

同じ顔。

同じ声。

同じ存在。


だが、決定的な違いは――


一方は**“選ばれた未来”のレン**。

もう一方は、“選ばれなかった未来”のレンだった。


灰色のコートを羽織るレン(旧)は、ゆっくりと前へ歩き出す。


「お前は、俺の“続き”なんだろ」 「だったらさ……この気持ちも、引き継いでくれよ」


現在のレンは、答えられなかった。

言葉にすれば、それは“乗っ取り”になる。

だが沈黙すれば、ここで消えていく彼の存在を、完全に否定することになる。


「……俺は」


喉が震える。


「俺は、お前の代わりじゃない」 「でも――お前が、ここで終わる理由にもなれない」


灰色のレンは、ふっと笑った。


「優しいな。そういうところが“選ばれた理由”か」


その瞬間、空間が歪んだ。


無機質な光と共に、上空に巨大な“円環の瞳”が浮かび上がる。

それは、PHASE IIを管理する上位監視層レイヤー・ジャッジ


【未統合記録を検知】

【エラー存在、消去対象――】


「来たか……」


灰色のレンが、両腕を広げる。


「なあ、今の監視システムはさ――“失敗”を許さないんだ」 「だから俺たちは、“世界に必要なかった未来”として処分された」


彼は一歩、現在のレンへ踏み出した。


「でもな」 「失敗の中にしか、生まれない選択だってあったはずだ」


空間に、無数の記録映像が浮かぶ。

救えなかった誰か。

選ばなかった言葉。

躊躇した一秒。


それらすべてが、“灰”になってレンの足元に降り積もる。


「その重さを知ってるのは――俺だけだ」 「だから、統合する価値がある」


現在のレンの視界に、警告が走る。


【強制記録統合――実行まで3秒】

【2秒】

【1秒】


「待てッ!!」


レンは、反射的に叫んだ。


「お前を――“データ”として取り込むなんて、そんなの違う!」 「記憶は、都合よく合成するもんじゃない!」


灰色のレンは、はっきりと頷いた。


「ああ、だから――“意思”ごと渡す」


次の瞬間――

灰色のレンは、自ら胸を貫いた。


灰が爆ぜる。


砕け散った記憶の粒子が、嵐のように現在のレンへと突き刺さる。

痛覚。

後悔。

怒り。

諦め。

そして、“それでも生きたかったという感情”。


レンは叫び声すら上げられなかった。

ただ、膝から崩れ落ちる。


【統合率 78%――90%――100%】

【“未選択未来人格”の吸収、完了】


上空の円環の瞳が、一瞬だけ沈黙した。


【観測対象レン:性質変化を確認】

【灰の決断、成立】


灰は、もう降っていなかった。


瓦礫の中で、レンはゆっくりと立ち上がる。

瞳の奥に、以前とは違う“色”が宿っていた。

それは光でも闇でもない――“選択の重さ”そのものの色。


「……全部、背負った」


彼は呟く。


「選ばれた未来も」 「選ばれなかった未来も」


その時、空間の裂け目が再び開いた。

次の監視領域への転送ゲートだ。


ゲートの向こうには、次の試練――

“二人のレン”が記録上、同時に存在する矛盾領域が待っている。


レンは、静かに一歩踏み出した。


「これが……俺の“灰の決断”だ」


そして、世界は転送された。



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