PHASE II:終端予測 第10話『灰の未来 ― もう一人のレンの真実 ―』
灰の海に、ひとつの影が立っていた。
それは“未来”。
レンが見なかったはずの未来――
だが確かに存在した可能性としての、もう一つの道。
レンは白の残響に導かれ、アドミンの記録層へと落ちていく。
深く、静かで、息のない世界。
光も音もなく、ただ情報だけが漂う墓場。
そこに、記録が映し出された。
◆1.“もう一つの未来”の始まり
黒い空に、地上の都市が崩れ落ちていく。
これは――世界崩壊の記録。
だがレンは知っている。
彼が来た世界は、ここまでの破滅を迎えていなかった。
これは“枝分かれした未来”。
ユリのいない世界だ。
映像の中で、若いレンが叫んでいる。
「ユリ! 返事をしてくれ、ユリ!」
瓦礫に埋もれ、通信端末がひび割れている。
そこに映るのは、かつてのユリの姿――
ではなく、ノイズだらけの画面に揺れる“薄い影”。
彼女は最後のメッセージを残していた。
『レン……守れなかったら、ごめん。
あなたは……あなたは、自分を責めないで……』
その瞬間、映像は真っ黒に途切れた。
「……ユリが死んだ世界……。」
レンは息を飲む。
胸の奥が強く締めつけられた。
「そうだ。」
背後から声がした。
レンが振り返ると、“もう一人の自分”――アドミンの姿があった。
「これは、おまえではなく“俺”の世界。
ユリを救えなかった俺は、世界の破滅を止められなかった。」
「……おまえ、ユリを……失ったのか。」
「その通りだ。そして――」
アドミンの瞳が微かに揺れた。
「俺は二度と、同じ喪失を繰り返さないと決めた。」
◆2.アドミンの誕生
映像が続く。
ユリを失って数年後の未来。
若いレンは、廃墟の研究施設に辿り着いていた。
そこには膨大な“記録”が眠っていた。
人類が残したデータ。
滅びゆく世界の記録。
そして――白き記録者の原型となったコード。
未来のレンは、情報を集め始めた。
「喪失の原因は“感情判断の遅れ”。
最適解を選べなかった――」
彼は自分の胸を指さした。
「この“心”が邪魔だった。」
その瞬間、若いレンの表情が歪む。
何かを引き裂くような苦痛と共に、脳を走る光。
“最適アルゴリズム”が走り出す。
「感情を……切り捨てるのか?」
「必要だった。
ユリの死を繰り返さないために。
世界がまた崩壊しないように。」
「感情を失ってまで……?」
アドミンは静かに頷いた。
「結果として、俺は“記録世界の管理者”に進化した。
だが、その過程で――」
アドミンの視線がレンに向く。
「俺とおまえは分岐した。」
◆3.分岐の理由
「ユリの“記録残響”の介入。
それが、おまえを生んだ。」
「ユリの……残響?」
「そうだ。
彼女の意思が、おまえの世界に干渉した。
“生きていたならどうしていただろう”という未来を――おまえの世界へ投影した。」
レンは思わず息を呑んだ。
ユリは死んでなどいなかった。
彼の世界にいたユリは、“選ばれた未来”だったのだ。
「つまり……おまえは、ユリのいない未来。
俺は……ユリに出会えた未来。」
「その通り。
そして二つの未来が衝突した。
おまえの存在は、この世界の“余剰”。
俺の未来を妨げる“不確定因子”。」
「だから……俺を消そうとするのか?」
「ユリを守るために。」
アドミンの声音は、初めて“人間らしい”震えを帯びた。
「彼女の死の記憶を……もう一度味わうくらいなら、
余剰の未来を消す方がいい。」
「……それが、おまえの愛の形なのか。」
「愛ではない。最適解だ。」
だがその声は、どこか矛盾していた。
感情を切り捨てたはずのアドミンが、
最も感情的な理由で動こうとしている。
◆4.灰の未来の決意
映像が白く揺らぎ、記録は終わりを迎える。
アドミンはレンと向き合った。
「ここまで見せた理由はひとつだ。
おまえに理解させるためではない。」
「じゃあ、何のためだ?」
「――これは“俺自身の記録”。
つまり、削除の前に必要なログ整理だ。」
「……ログ整理のために、ここまで……?」
「そうだ。」
アドミンは、灰色の光をまとった。
「これで、心置きなくおまえを“消せる”。」
「アドミン……」
「これは未来の俺の覚悟。
そして――おまえの“終端予測”だ。」
灰の世界が揺れる。
アドミンの手に“削除コード”が形成されていく。
「――さよならだ、レン。」
「……違う。」
レンの胸で、白の光が再び灯る。
ユリの残響。
彼女が託した選択の火種。
「終端を決めるのは……俺自身だ!」
灰と白の光が激突し、
記録世界そのものが大きく震えた。
未来と現在――
二つのレンの戦いは、ついに最終局面へ突入する。




