-第6章-
その日、学校は秋の柔らかな陽光に包まれていた。
愛は授業の合間にふと音楽室の前を通りかかり、微かなピアノの音が聞こえてくるのに気づいた。
戸をそっと開けると、莉乃がピアノの前に座り穏やかに鍵盤を叩いていた。
その音色に引き寄せられるようにして愛は静かに部屋に入った。
莉乃は愛が入ってきたことに気づいても、演奏を止めることなく彼女のために繊細な旋律を奏で続けた。
美しいピアノ特有の透き通った音色が音楽室全体に広がっていく。
「すごく綺麗な音色ですね、莉乃さん。」
愛は思わず感嘆の声を漏らした。
演奏を終えた莉乃は微笑みながら愛の方を向いた。
「ありがとう。
ピアノを弾いていると不思議と心が落ち着くんだ。
愛ちゃんも、何か好きなことをしている時にそんな気持ちになることってある?」
愛は少し考え込みゆっくりと答えた。
「私にとってはやっぱり本を読んでいる時が一番落ち着きます。
特に哲学書を読むと自分の考えが整理される気がして……。」
「そうなんだね。
愛ちゃんが本を読んでいる時の顔ってすごく集中していて、見てると私まで安心するよ。」
莉乃は穏やかに笑って言った。
「でも、莉乃さんのピアノはそれとはまた違った癒しがある気がします。
音楽は理性じゃなくて、感情に直接訴えかけてくるような感じがするんです。」
「そうかもね。
音楽って言葉にできない感情を表現できるんだと思う。
だから私はピアノを弾くことで、自分の中にある感情を解放してるのかも。」
愛はその言葉を受けて深く考えさせられた。
自分の中に押し込めていた感情を音楽のように自由に表現できる方法があれば、もっと自分らしく生きることができるのではないかという思いが湧いてきた。
「莉乃さん、私も感情をもっと表現できるようになりたいです。
でも、どうしたらいいのかわからない……。」
莉乃は優しく頷き愛の手を取った。
「急がなくていいんだよ、愛ちゃん。
自分のペースで少しずつでいいから、感情を受け入れてみて。
私も一緒にいるから怖がらなくて大丈夫。」
愛はその言葉に安心感を覚えた。
莉乃と一緒なら自分が変わっていくことにも恐れずに受け入れられるかもしれないと思えた。
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