-第1章-
静寂な図書室の中、窓から差し込む柔らかな光が薄いカーテンを通して優しく広がっていた。
春川愛はいつものように哲学書に囲まれ静かに座っていた。
彼女の手元にはカントの『純粋理性批判』。
そのページを慎重にめくりながら愛は理性の力について思索を深めていた。
その時、視界の端にふと人影が入った。
顔を上げると茶色のミディアムヘアが柔らかく揺れる少女が親しげに微笑みながら近づいてくるのが見えた。
「こんにちは、春川さん。
私、雨宮莉乃って言います。」
愛は驚いて顔を上げたがすぐに小さく頷いた。
「こんにちは。
どうして私の名前を?」
「前から気になってて。
それにいつも哲学書を読んでるってクラスで噂になってるよ。」
愛は少し戸惑いながらも相手の興味に応じるように微笑んだ。
「そうですか…。」
莉乃は愛の向かいの椅子に腰を下ろし少し首をかしげた。
「それにしても、どうしてそんなに理性にこだわってるの?」
突然の質問に愛は一瞬言葉を失ったがすぐに考えを巡らせた。
「どうしてって…?」
「だって、いつも真剣な顔で本を読んでるからさ。
まるで世界の真理を解き明かそうとしてるみたいに見えるんだ。
でも、なんで理性をそんなに重視するのかちょっと気になって。」
愛はその言葉を受け止めゆっくりと答えた。
「私…感情に流されると本質を見失う気がするんです。
理性があれば正しい判断ができると思って。」
「わかるよ。
感情に振り回されると、視界が狭くなることってあるもんね。」
少し間を置いて、莉乃はゆっくりと口を開いた。
「でも感情がないと何のために正しい判断をするのか、わからなくならない?
人は感情を持ってるからこそ、理性を使っていろんなことを考えるんじゃないかな。」
愛はしばらく考え込んだ。
莉乃の言葉は彼女の中で小さく何かを揺さぶった。
「確かに感情がなければ、何のために生きるのかも曖昧になりますね。
でも感情に頼りすぎると、合理的な判断ができなくなる危険があります。」
「それはそうかもね。」
莉乃は柔らかく笑った。
「でも、それでも私は感情を大事にしたいな。
だって感情があったからこそ、今こうして春川さんに話しかけたんだよ。」
「感情があったから、ですか?」
「そう。
春川さんに興味があったから声をかけたのも感情だし、春川さんの考え方に触れてみたいと思ったのも感情。
理性だけじゃなくて感情もまた大切なものなんだと思う。」
愛は莉乃の言葉に思わず考え込んでしまった。
彼女の論理は感情を重視していたが、それでもなおそこには確固たる何かがあるように感じられた。
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