病室にて
僕は手に温かいモノが添えられ目を覚ます。
おはよう、というのは何か違うかなと考え僕はそれを握り返す形で返答する。
「……ナースコールします?」
一瞬息を呑む音が聞こえた。安堵の為の物だろう。
「いらない」
僕は身体を起こし見舞いに来た優里の方へと振り向きやっ、と手を軽く振る。
「お身体の方は」
「知らない。今の今迄寝てたからこれの後のことは何も知らないよ」
これ、と言いながら両手で人の形を作り舌を突き出す動作を見せ付ける。
「……見てたんですね」
「舌までは。あの後どうしたんだい?」
はぁ、と今度は呆れの溜息が聞こえる。
「普通にビンタしましたよ。私はそっち側じゃないですし」
「どの道希望薄だったのか」
「貴女が男だったらありましたよ、自分の性を恨んでください」
違うって、とは言えなかった。
何故かそれは僕が僕自身を否定してしまうように感じたから。
「強引にされたせいで気まずいのなんの、式の時だって大変だったんですから」
「式ぃ?」
しまった、と言う失言を犯した顔だった。
優里はそんな顔を隠そうとはするが無理だと判断したのだろう。
「星宮ちゃんの、葬式です」
葬式。覚悟はしていた。というか僕の眠っていた時間は恐らく、それと向き合う為の時間だった。それでも現実としてそれを受け止めるのは難しかった。
「泣くんですね、柳さんも」
「男だって人死は泣いていい、みたいなのあったろ」
女じゃないですか、なんてテンプレートなツッコミを受ける。
「ミリアはどうしてる」
僕は思い出したように優里に尋ねる。
「あっちの方はメンタルがやられてます。二日前、青髪の人が様子を見るって貴女の家に行きましたよ」
「来てたんだ、パパ」
優里は「ああ、あれが。」と納得したような声を出す。
「四日間毎日御見舞い来てましたよ。優しい人なんですね、到底人殺しとは思えませんでした」
四日間毎日、優里の言葉から推察するに僕はあれから四日眠っていたということになる。
「起きたら剥いてやってくれ、って林檎預けられてましたけど今食べます?」
こくっ、と肯定の意思を示す。
それに呼応するかのように優里は左手を僕の前に突き出す。果物ナイフを出せ、ということだろう。
「優里もさ毎日来てくれてたんだね」
「ええ、殆どここで読書して過ごしてましたからね」
剥き終わったりんごを持参したであろう紙皿に移し僕の前に差し出す。しゃりっ、という音と甘酸っぱさが口の中に広がる。
「龍輝……パパ以外に誰か来てたりは?一応感謝位は言っておかなきゃいけないし」
「ミリアちゃんと初歌ちゃんと朱音さんと津兎歳さんと……あと、私の知らない人ですけど白髪の身長の高い女性が」
「そいつからっ!……名前とか聞いたか」
気付けば僕は声を大きく荒げていた。多分看護師にも聞こえていたのだろう。大丈夫ですか?!の声と共に一人看護師が病室に入って来た。
僕は看護師に謝罪をすると何か事情を察してくれたのだろう。看護師は病室を去ってくれた。
「……一応聞いてます、三森佳音と名乗ってました。古いカメラを持っている方ですよね」
「……そう、だね」
「事情、教えてください」
事情を教えて、と言われても仮説が正しければアレは人じゃない冷静に人を殺せるバケモノ。そんなのを無能力者である優里に伝えて突っ走られでもしたら。そう考えると僕は
「……できない」
気付けば否定の言葉を口にしていた。
「……なぜですか。私が、無能力者だからですか」
「違う!違う、けど……」
優里はベッドまで身を乗り出し僕に詰め寄る。
「それじゃあなんでですか!!納得させてくださいよ!!ひとりで……置いていかないでくださいよ……」
「……ごめん」
「……そうですか」
優里は床に足を戻したと同時にバっとナースコールを押す。
「優里、君なにしてっ」
「私からのささやかないやがらせです。早く、退院してくださいね」
優里は病室を後にした。
その背中には悲壮感が漂っていた。




