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貴女と私の永遠を。


「先輩、ずるいです。」


「何がだい?」


「私だけ着物で、なんで先輩は制服なんですか!学校でも着てるの見たことないのに!」


空は僕に怒りをぶつける。


「まあ君となら制服でいいかなって。」


「折角の祭りなんですから先輩の和服とか着物見たかったんですけど!」


「ごめんごめん、そのうち見せるから。」


空が怒っているのは僕の方から着物を着てくれ、と頼み込んだからである。

今日の日付は8月3日、優里に断られたので空を元気づける為にも祭りに誘ったと言うわけだ。……既に立ち直ってはいるが。


「先輩、射的やりませんか?」


空が指の向ける先には一つの屋台が佇んでいる。

僕は香具師に400円を渡しコルク銃を受け取る。


「お兄さん、これって当てたポイントで景品貰えるんだよね。」


「おうよ!」


僕は確認を取りつつコルクを詰める。


「僕、こういう長い銃撃ったことないんだよね。普段ピストル的なやつ、小銃?出したりはするけど。」


「この間助けてくれた時も出してましたね。」


「ま、どっちも一緒か。」


トリガーを引くとポン、と軽く得点の書かれた箱が揺れる。


「……これは?」


「倒れないとダメだ。あと2発頑張れよ。」


香具師のお兄さんは残りのコルクを指差す。


「はぁ仕方ない。」


僕がコルクを再装填していると。


「やった!」


空が5と書かれた箱を倒していた。


「なんで空に倒せて僕が倒せないんだ!」


「先輩下狙いすぎなんですよ。上の方狙ったほうがいいです。あと片手で持つ銃じゃ、」


「ほんとだ、上狙うと倒れるね。」


「なんで片手で持ってちゃんと当てれるんですか。」


そんなツッコミを受けつつ3発撃ち終えた僕達は駄菓子を景品として受け取る。


「空、次焼き鳥食べよ。」


僕は空の腕を引っ張り屋台へ向かう。




「美味しいです。」


「良かった。」


僕達は4件ほど屋台を回ったところで食事を取る。


「それにしても便利ですね、先輩の能力。おかげで座れました。」


「これくらいなら負担も少ないし、椅子の出し入れくらいは言ってくれたらいつでもするよ。」


「そう言えば先輩の能力って物の"具現化"ですよね"収納"できるんですか?」


「できる、いや厳密に言えばできない。かな。僕のコレはできるのは具現化だけ。だから出した物を消す為の何かを出して消す。ほら、講義であったでしょ?能力は解釈によってできる事が増やせる。だけど脳に負担がかかる。なら、解釈を増やさずに今の能力で解決して脳に負担を減らす。」


「能力者の人って色々考えてますよね。」


「いつか君もそうなるよ、神山にいるならね。能力が宿ったら一番に見せてよ、いや一番は優里かな?」


「か、からかわないでください…。」


僕の放った冗談に熱暴走した機械の様に顔を赤らめる。


「あのあと、お祭りがだめなお詫びにって映画一緒に見に行ったんですよ。」


「ちゃんと進展してるなら安心だよ。」


「空、腕時計今何時だい?」


「18時半ですけど、どうかしました?」


「花火、ここでも上がるんだよ。こっちのは僕のより綺麗。模倣元だし僕のより綺麗だよ。ほらあっちの山の方か、ら…」


目線の先には優里と瑠美の2人が仲睦まじそうに手を繋いで立っていた。

『なんで君達がそこにいる。』

僕は喉から声を出すことができなかった。


「っぁ、ぅ、?」


嗚咽と困惑の混ざった声が隣から聞こえる。

瑠美がこちらに気づいたのか目線で僕等を追う。

その瞬間。


「優里、」


「なんですっ、」


瞬間瑠美は優里の顎を左手で引き右腕を背中に回しながら唇を重ねる。

やりやがった。明らかに空の優里への好意に気付いての行動。優里は私の物だ、と誇示するかのような。

気付けば隣に空の姿はなく、人混みの奥へと走って行った。


「だー!もう!どいつもこいつも世話のかかる!」


最低限の荷物を担ぎ僕は急ぎ足で空を追いかける。

空は浴衣だってのにとんでもない速度で奥へ消えていく。

どれくらい走っただろうか、祭りの騒ぎはとうに遥か後方まで過ぎ去っていた。空は橋の上で縮こまっていた。


「ぇうっぇ…」


「……見つけた。」


ぜぇ、ぜぇ、と息を切らしながら僕はへたり込む空の肩に手を置く。


「なん…でにげんのさ。」


「好き、だった、人に、泣いてる顔なん、て見せ、たくなく、て、でも前髪切っちゃって、隠せなくて……」


ああ、僕のせいだ。僕が髪を切らなかったら、僕がアドバイスなんてしなければ。責任を取って励ますのが僕の仕事だろう。


「…君はなんで優里のことが好きなんだい?」


「……私には無いものを持ってるから、です。私と、同じなのに優里先輩は明るくて、後輩の私の耳にもはいるくらい人気者で――」


「――ずるいな、って。それで実際に会って好きになったんです。」


空は話してるうちに立ち上がり川を見下ろすような体勢になる。


「先輩、私は何がしたかったんですかね。逃げてばっかりで、欲しいもの一つも手に入れられず。」


「空はさ、もっと自分の事大切にしたほうがいいんじゃないかな。逃げたっていいし、もっと周りに頼る生き方、してもいいと思うよ。」


「そう、ですかね。」


自分にしてはそこそこ良いことを言ったと感じていた。だが橋の上では車の通る音だけが鳴る、痛いくらいに沈黙がしんどい。そりゃそうだ、生き方にどうだこうだと言ったとてそいつが立ち直るなんてことはない。


「五分、」


「え?」


困惑混じりの返答が返ってくる。


「五分ここから離れないでくれる?」


「え、と、なん」


「花火、買ってくる。」


それだけ言い残し僕は橋に背を向け走り出す。沈黙を破る為の会話術なんて一つも知らない、なら僕は物に頼る。コンビニで手持ち花火のセットを購入し、駆け足で空の元へと戻る。


「ごめんね、待たせて。」


僕は花火を開封しながら火のついたロウソクを取り出す。


「結局前も今日もちゃんとできてないんだしゆっくりやろうよ。」


空のあいた手に押し付けるカタチで花火を握らせる。


「…でも」


「でもじゃない、ちゃんとやってくんないと僕帰らないから。」


我ながら小学生みたいな押し付けである。花火を選んだことも特に理由はない、コンビニで売ってる娯楽用品ならなんだって良かった。ただ敢えて理由を挙げるとするならば時間稼ぎであった。"僕と居る時位は変な気を起こさぬであろう"という願望の混じりの理由。

蝋燭から火を取り出しパチパチと音をたてた花火を見つめる。


「意外と綺麗だね。」


「そうですね。」


「で、君はどうする?」


「頑張って今まで通りの関係を続けます。先輩と後輩の。」


意外と恋に飢えてるわけじゃないんだね、と既に日が落ちた暗闇に呟く。


「柳先輩が彼女になってくれてもいいんですよ。」


「パス。」


「なんか、ひとりで考えたら割とどうでもよくなっちゃったんです。結局同性婚はできないですし、なら友達も恋人も女の子同士ならあんまり変わらないんじゃないかってそりゃ手に入れれるなら欲しいですけど。」


器用な考え方の出来る人だなと印象を受けた。もっと何もかも不器用な人間だと思っていたので僕の中で謝罪し、考えを改める。


「先輩はしたことないんですか、恋。」


「そういう話に持ってく雰囲気じゃなかったのに…。でも、僕も昔は女の子好きだったかな。いや好きになるように無意識に考えてたのかも。僕、お母さんが変な人でさ11歳まで男の子として育てられてたんだよ。男の子が良かったからって、ショッピングモールとか行くと女子トイレ行くと怒られたから男女共有のやつ使ってたな。」


隣を向き直すとぽかーんと口を開けたままにした空がこちらを見つめていた。


「それ現代日本ですか?」


「そりゃバチバチ現代。写真あるし、今度うち来た時見ていきなよ。」


最後に残った線香花火を手渡しつつ思い出に浸る。


「線香花火ってちょっと特別な感じしますよね。他の手持ち花火と違って、少し幻想的というか。」


空は言葉を探しながら目の前の小さな光について語りかけてくる。

小さく燃え尽きていく火の粉を数分見つめた後、光はアスファルトへと落下した。


「先輩、今日はありがとうございました。先輩のおかげで今、とっても幸せです。」


初めてみた。こんなに笑ってる星宮空は、なんだやっぱり『可愛いじゃんか』。


「せ、先輩…?」


「もしかして声出てた?」


恥ずかしそうに空はこく、と首を縦に振る。


「いんにゃー…ごめん。」


全く心にもない謝罪を一応は口にしつつ頭を下げる。


「罰としてコーヒー買ってきてください、ブラックの冷たいやつ。」


照れ隠しに口元を隠す空を背後にスマホを取り出し自販機へ向かう。電子決済を済ませ僕は橋の方に向き直る。




「はっ、?」




橋から自販機までせいぜい20m

なんで なんでその時間で

空が橋の上から一切を消しているんだ


「そらっ、空!」


嫌な予感はしていた。飛び降りを考えないか、自死を考えないか、その為の時間稼ぎだった。だけどあんな事を言ったのに飛び降りるか。頭が真っ白になって思考が先に進むのを封じてくる。

橋の下に流れる赤に染まるモノを目にする。

そこには蹲った星宮空と白髪の背の高い女性の姿があった。

気にする余裕は無かった。気にしなければいけなかった。

ソレを視界に収めた僕は川へと続く階段まで全速力で走った。


「はっ、?」


瞬間身体が浮遊する感覚に包まれた。感覚というより実際に僕は居たはずの橋の上から川へと身投げするカタチになっていた。

あの白髪、怨霊だ。

気付いたときには背中の方から鈍い音と痛みが走り、冷たくて温かい感触が背後に広がる。


「だから来ちゃダメって約束したんだけどな。」


怨霊が空を見ながら何やら独り言を呟き出す。

僕は飛びそうな意識を無理矢理繋ぎ止め空の身体に触れる。


「あっ、あああ、……」


冷たくなっていく僕の身体と空の身体の温度差はわからなかった。

そのまま僕は意識を手放した。


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