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流れ滴るは血の赤を


揺れている。中身のない空っぽの身体だけが電車の中で揺れている。

朱色の空が窓から私を照らす。

思考を放棄し、私は席に座ったまま窓の外を眺め続ける。

この世界は残酷だ。誰かが死のうと生きようと絶望しようと希望を見出そうと日は沈み、月は昇る。人が、生命が、何をしたって世界は表情1つ変えず月は沈んで日が昇る。

いつしか、人の話で聞いたことがある。

『生というのは脆いが故に美しく、散り際である程愛らしい。』

誰が言ったかは記憶に残っていないがその言葉は呪いとして私の中に刻まれている。今の私は愛らしい存在なのだろうか。


「先輩……」


優里先輩は予定が詰まっていたと言っていたが私は"拒絶"されたという部分のみが反響する。私の先輩への強い依存を自覚した瞬間だった。


『次は18区、終点です。お降りの際は足元にご注意ください。』


電車のアナウンスが響く。降りなきゃ。

ぽつぽつと足音を鳴らしながら私はホームのベンチに座る。

次の電車までは20分。

焼き付けるような暑さが私の身体を刺し続ける。私は結局何がしたかったのだろう。虚無の時間が流れる程私の心傷が深まる。


「行かなきゃ」


正体のわからない焦燥感に駆られ私は駅を後に歩みを進める。

どれくらい歩いたのだろう、私は橋の上で歩みを止め川の方を見下ろす。

せせらぎが聞こえると同時に私の曖昧だった意識と空っぽの身体が少しずつ元に戻る感触を感じる。


「ふふ、懐かしい顔」


欄干にコツンという金属の音共に隣から柳先輩が見せたような神秘的なオーラーを纏った女性が声をかけてくる。


「星宮ちゃんだっけ?聞いてあげる、話してごらん?」


私は顔を上げその女性を見つめる。

瞳の奥には優しさが詰まっているように見える。


「三森……さん。」


「5年ぶり、その顔じゃあんまり元気はしてなさそうだけど。」


「三森さん、5年前と、変わってない。」


記憶に微かに残る三森佳音と私の目の前の三森佳音は何一つ変わらない。服も髪も使用していたカメラも。


「そうね。ここに来た時から変わってないし、永遠に変わらない。」


「……羨ましいですね。」


「いや、案外そうでもない。永遠ってのは最高の呪いで最悪な願いなの。」


「笑顔で言うことじゃないです。」


「ふふ、星宮ちゃんと会った後に変わったことと言えば面白い男の子を見つけたくらい。その子、私の事姉御ーってついてきてくれてとっても面白いの。」


満面の笑みを浮かべ三森さんは語る。


「三森さんはその人、好きなんですか。」


「一緒にいて楽しいならyesになるのかもだけどそれが恋愛的な意味ならnoよ。玩具に情は湧かないタイプなの。」


私はある考えが浮かぶ


「三森さんにとって、私っておもちゃですか?」


「あはは、それちょっとずるいかも。」


口元に手を当てながら微笑む。


「久しぶりにあった妹って程でもないし、近所の子供って感覚が近しい表現かしら。」


しばしの沈黙の後三森さんは答える。


「それで、星宮ちゃんは何しにここに来たの?用もなくこんなところには来ないでしょう?」


「…好きな人に誘いを断られました。」


「あはっ、それって告白したわけじゃないんでしょう?なら気にしなくていいじゃない。」


「それはそう、なんですけど…」


「星宮ちゃんは繊細過ぎるの、もっと気楽で良いんじゃない。将来の伴侶がその人だって決まってるわけでもないし、それに、」


三森さんはクイッと私の体を引き寄せ目を見つめてくる。


「星宮ちゃんは可愛いから恋人だってできるわよ。」


「ふぇ、え」


緊張のあまり素っ頓狂な声を出してしまう。


「あはっ、ごめんね。ちょっとからかってみたくなって。」


三森さんは微笑みながら楽しげにはしゃぐ。


「まあ、星宮ちゃんは考え過ぎ。もっと楽しいことを考えて、もっと目の前のことを向き合えばいいと思うわ。」


長い髪を2本の指でいじりながら夕陽に照らされる三森さんを見つめる。


「そうだ、星宮ちゃん水浴びしない?」


三森さんは下の川へと続く階段を真っ直ぐ指差す。

随分と唐突な提案に私は少し困惑しつつも首を縦に振る。


「足元気を付けてね、濡れてて滑るから。」


三森さんは私の手を取り一歩一歩丁寧に壇の下へと歩みを進める。


「わっ、」


川の中へと足をつけた途端、冷たさと勢いに身体が下流へ持っていかれそうになる。


「今日は流れが強いわね、普段はもう少し緩やかなのだけど。」


バシャッと三森さんは川の真ん中に寝転がる。


「私、ここの景色大好きなの。神山町は一部の場所を除けば都会だし、綺麗な空見えることなんて少ないじゃない?でもここは神山町になるずっと前から変わらない景色で、綺麗な空が見えるの。手を伸ばせば届きそうな空の下、私はここにいるんだって気分が良くなる。それにね、」


三森さんは人差し指を真っ直ぐ橋の上に向かって立てる。


「上から私より下の癖に私を馬鹿にした奴らが沢山覗いてくれる。」


そう囁くように出された言葉は水音で掻き消される。


「私は星宮ちゃんが思ってるよりまともな人間じゃないから、私のアドバイスよりも自分が信じた道を進みなさい。」


川には赤に焼けた夕陽の色が濃く反映されている。とても美しく下流の方へ静かに流れて。


「それで、星宮ちゃんは元気になれた?」


川から上がり三森さんは自身の髪をタオルで拭きながらこちらを見る。


「おかげさまで。」


「5年前は将来怖くないのかーとか言ったけど星宮ちゃんは案外大丈夫そうね。あとは想い人への依存。」


「ううっ、」


いたいほどその言葉が刺さる。


「また何かが辛くなったらおいで、楽しい事があるうちは私より身近な人を優先しなさい。これは約束、私はどうだっていいから。」


小指を絡め合いながら約束を交わす。


「それじゃ、暗くなる前に帰りますね。」


私は駆け足で駅へと向かう。


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