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きっと続く永遠『今』を


「おはようございます、星宮さん!」


真夏日、風薙先輩は白のワンピースを着こなし、ショルダーバッグを肩から下げた姿で待ち合わせ場所に現れた先輩に挨拶を返す。


「柳さんはまだですか?」


「そうです、ね。先輩家遠い、ですし。」


私は二人っきりの状況で言葉が詰まる。


「なら、そこで座って待ってましょうか。」


先輩はベンチを指差す。

私は失礼します。と声をかけ隣に座り込む。

2人でいることでの緊張で私は声が出ず、町の騒音だけがその場に聞こえる。


「そういえば星宮さん、髪切りましたよね?前会った時は前髪が伸びてて気付きませんでしたが、星宮さんの目……」


「空の目薄い碧色で綺麗だよねー。」


柳先輩が後ろから肩を掴みながら声を掛けてくる。


「柳さんついたんですね。」


「おまたせー。」


「それじゃ行きましょうか、予約11時からですよね?」


「そうだね、4分あればつくと思うよ。あっちの方向。」


柳先輩が進行方向に指を差す。


「真逆です。」


風薙先輩は冷静にツッコミを入れつつ案内を始める。


「それにしても、柳さんから誘うなんて珍しいですね。普段はミリちゃんに任せっきりなのに。」


「優里浴衣買いたいって言ってたじゃん。空も買いたいらしいしちょうどいいかなって。」


「……貴方は?」


「きっかけ作ってあげたから昼飯代、奢って。」



「残念ながら私、浴衣と自分のと空さんの分の昼食代しか持ってきてませんので。」


「嘘つけ!君のカードは何色だ!」


「プラチナです♡」


「先輩、私ちゃんと自分のお昼代持ってきてますので、」


風薙先輩は人差し指を私の額に当てる。


「後輩なんだからこういう時は奢られてたらいいんですよ。」


「君ってホント後輩には優しいよね。僕にももっと優しくしてくれないかい?」


「お店着きましたよ。」


「おおい無視するなっ!!」


風薙先輩は自動ドアをくぐり、柳先輩に予約受付を済ませるよう促す。

席に着き、メニュー表を開く。


「なんでもいいので適当に注文しちゃってください。」


「それじゃ……しらす丼にします。」


「セットも付けてもらって大丈夫ですよ。」


先輩のそんな言葉に甘え、私はサラダ、味噌汁セットの画面をタップする。


「それじゃ、私も同じモノを。」


「僕焼き鯖にしよっかなー。」


私達はタッチパネルへの入力を終えると雑談を始める。


「そういえば優里、君なんで祭りのとき空の事置いてったのさ。」


「それに関しては本当に申し訳ないと思ってます……人が多すぎて居なくなったことに直ぐに居なくなったことに気付かなくて、探してる途中に規模が違う花火が打ち上がったりで気を取られてて本当にすみません!!」


「いえ、大丈夫です。ほんとに。」


私は風薙先輩を落ち着かせる。


「謝っても謝りきれません!浴衣も奢らせてください!!!」


「いや大丈夫です!ほんとに、すみません、大丈夫です!!」


「なんで君が謝ってんのさ。優里も空を困らせないでくれ。ほら料理ももう来るよ。」


柳先輩が冷静にツッコミを入れつつ、配膳ロボットを指差す。

配膳ロボットが机に近付き机に料理を並べていく。


「神山町のこれ、ずっと思ってたんですがすごいですね。」


「確かに東京にはなかったね。」


「配膳ロボット自体は神山外にもあるらしいですけど、置いてくれるのは神山だけ……みたいな話、よく聞きますよね。やっぱりどれも非科学で出来た物なんですかね。」


風薙先輩が配膳ロボットを目で追いつつ運ばれてきた料理を口にする。


「これ美味しいですね、空さんのセンスに任せてよかったです。」


風薙先輩は目を輝かせながら褒めてくれる。


「あ、ありがとうございます。」


私は照れながら返事をする。

私は何時までもこの時間が続くとを願いつつ、提供されたご飯を完食する。




「それじゃ、僕15時まで適当に暇つぶしてるから。」


ショッピングモールで二人に別れを告げた僕は電気屋へ向かう。

目的は新作ゲームの確保である。

ゲームコーナーへと歩く途中様々な機械を見つける。

食材を入れるだけでカット、火の調節、ごみの分別まで済ませる調理器具。部屋の物を整頓してくれるロボット。

どれもこれも非科学で出来た、分解したとしても解明されることはないであろう代物ばかり。

神山町……科学で説明つかない物が特に発展した町。警備ロボットや自警団が居ても治安は日本の中ではトップクラスに悪いし、能力者が外に出て暴れるなんてこともしばしばある。この町はどこを目指していて、何になるんだろうか。時偶考えるが答えは見つからないまま。


「お金が足りません、お金を入れてください。」


考え事をしつつセルフレジに立っていたもので5000円札と1000円札を間違えてしまったらしい。

周りに冷たい目で見られつつ、僕は電気屋を退店し、近くで休めるベンチを探し回る。


「げ、」


「あっ、」


できるだけ会いたくない人物と出会ってしまった。


「貧乏霊媒師がなにしてんのさ、こんなところで。」


「付き添いだよ、その言い方やめろ。」


目の前のこいつは如月久遠『キサラギクオン』。一族でやっている神社の43代目で霊媒師をやってる。


「妹ちゃん元気してる?」


「結局ずっと会ってねーよ」


「なんでさ」


「京香には俺が居ない方が良い。」


久遠は天井を見つめながら返答をよこしてくる。


「ネガティブだねえ。」


「お前もだろ、何年前のこと引き摺ってんだよ。」


「君だって同じじゃないか。」


数秒間の沈黙が僕等の間に流れる。

僕等の仲はそれほど良いモノではない。だけど共通認識としてあるとするのならば、『やりづらい相手』だろう。


「久遠は最近何して生活してんのさ。」


「知人の飲食店で手伝いと霊媒師の仕事。胡散臭さ全開の仕事だからある程度自由が利くし、もうこいつでしか食ってけねえだろうな。」


あいも変わらず会話をしている相手は僕だってのに視線の先は人々の頭上を見つめている。その目には光が薄く写っていた。

見え過ぎるから辛い、そんな感覚は少し分かってしまう。力があるから、見えてしまうから、心があるから、だから辛くなる。


「……飲み物くらいなら奢るよ。」


自販機を指差しながら久遠に語りかける。


「おしるこ。」


「今夏だぞ、売ってるわけないじゃないか。」


「ミルク珈琲。」


ガタン、ガタン、とミルク珈琲が取り口へ落下してくる。

取り口から缶を引っ張り出しそのまま久遠に手渡す。


「サンキュー。」


ベンチに座り直し珈琲を喉に流し込む。


「で、久遠はこの先どうするつもりなのさ。」


「どうするもこうするもねえよ、大事なもんを守る。霊媒師ってのはそういうもんなんだよ。」


「やっぱり僕の前じゃ君を見せてくれないか。」


一口甘味と苦味の混ざった珈琲口に含む。


「見せるも何もこれが素だ。」


「嘘つき。」


はぁ…っと大きなため息が出る。場の空気を掴めず何となくやりづらい、久遠と会話をしているとただひたすらにそう感じる。

ふと僕は人々の視線がこちらに向けられていることに気づく。何か奇怪な物を見るような視線が。


「久遠。」


「あ?」


「君って今、他の人に視えてる?」


「視えてない、視えるわけがないだろ。」


刺すような視線の答えが隣に存在する虚であることが判明した。


「虚空に缶コーヒーあげて話しかけてたって事か…」


右手を顔に当て天を仰ぐ。

他人から見えないんじゃただの不審者だ。

ぷるるるる……

久遠のスマホから呼び出し音がかかる。


「今二階の電気屋前。おん、じゃそっち向かうわ。」


久遠は立ち上がりつつ用だけ簡潔に伝え電話を切る。


「相川、ちょい前出て。」


僕はわけもわからず体を少し久遠の側に寄せる。

久遠は手刀で打つ様な動きを目の前で行い僕の方へミサンガを投げてよこす。


「コーヒー代。間接的にマーキングされてるだけとはいえ目はつけられてるから心霊スポットとか行くんじゃねえぞ。」


久遠は手を振りながらその場から離れて行く。


「ほんとなんだったんだあいつ。」


久遠の背中を見つめつつそんなことを呟く。

時刻は14時50分、2人を迎えに足を動かす。


「や、良いの買えた?」


大きな紙袋を提げた二人の肩をぽん、と叩きながら僕は歩み寄る。


「なかなか良い買い物になりました。」


「私も、良いもの買えました。なんとか2万円内に収まりましたし。」


「私、少々お花摘みに。」


優里が手荷物を僕に預け手洗いへと歩き出す。


「行ってらー。……で空、優里と約束は出来たの?」


「はえ?」


「だから、デートの、約束。」


「あえ、えっと。できて、ません……。」


「一番大事なところ忘れてるじゃないか…。とりあえず優里が戻ってきたらカフェにでも寄ろう。席外すから、その時。」


空からはい、という返事を受けつつ優里と合流しカフェに向かう。


「空さん、好きなのなんでも奢るので食べちゃってください。」


「僕のは?」


「いやです。」


僕等はメニューを広げ各々好きなものを注文する。


「ブラック2つとミルクティー1つ、アップルパイ2つとガトーショコラお願いします。」


「やー、色々疲れたよ。ほんとに、色々。」


僕はミルクティーを流し込みながらここに来てからの事を思い出す。


「そういえば、ミリアちゃんは今日来てないんですね。」


「あー、課題に追われてる。優里はもう終わってそうだけど空は?」


「私はまだ、です。」


「柳さんも、今年は終わるといいですね。」


「今年は半分終わってるからへーきへーき。ねえ、空ガトーショコラ一口食べさせて。」


空はガトーショコラを切り分け僕の口に運ぶ。甘みの中にある苦みが口に広がる。


「……貴女たちいつの間にそんな仲になってたんですか。」


「ふふ、一緒の部屋で寝た仲だよ。僕床だったけど。」


「それじゃ恒例行事の説教は」


「あれって恒例行事なんですか…。」


空の呆れた声が響く。


「空もアップルパイ強請りなよ、ほらそっちのお姉さんに。」


僕は優里の方を指差す。


「もう……空さん口開けてください。」


「え?はええ?」


「ほら、あーん。」


「わ、あ。はうう……」


空が顔を赤らめる。

ぐいっ、と優里は空の口にアップルパイを放り込む。


「どうですか?」


「お、おいしいです。」


「ふふ、」


「何笑ってるんですか柳さん。」


「なんか微笑ましいなって。」


「もう、なんですかそれ」


優里が笑みをこぼす。


「そうだ、僕ちょっと手洗い行ってくるよ。財布置いてくから勝手に抜いといてね。」


「行ってらっしゃい。」


「それにしても今日は場を作ってくれた柳さんに感謝ですね。おかげで楽しい1日になりました。」


「……あの!先輩。」


「どうかしましたか?」




「8月3日、私と一緒、に夏祭りに来てくれませんか…。」




「……ません。」


「え。」


「……すみません、その日は行けません。予定が詰まっておりまして、」



「……そう、です、か。」




「……お会計しましょうか。」


「そう、ですね……。」




「……貴女の分も、払いますよ。」


僕はびくっ、と身体を震わせる。


「いつから気付いてた?」


「空さんに祭りの話を出された時です、貴女が誘うなら何かあるんだろうなとは最初から思ってましたけど。」


「……そう。」


どうしてくれるんだ、この空気。


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