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君の目に星の光を。

文字だけで表すの難しい、難しくない?


「なんでですか!」


「なにがだい?」


柳先輩がドーナツを齧りながら返事する。


「なんで今からモテようってタイミングでスイーツ食べ放題に連れてくるんですか!」


「焼肉と悩んだ、けど女の子らしいのこっちかなって。」


「空、私はしっかり忠告しましたよ。姉さんに恋愛は難しいって。」


黒髪ポニーテールの色白の旧名ミリア·ユニ·ブレダインらしい美少女。相川ミリア『アイカワミリア』は紅茶片手に私の話を聞き、時おりショートケーキを口に運んでいる。アメリカ貴族の育ちらしくその作法は完璧である。


「うぅ……」


折角の食べ放題、晩御飯が入らないくらいお腹いっぱい食べたいものだが優里先輩と会う前に太る、なんて事は絶対に避けなくてはならない。


「食べればいいじゃん。」


あまりに羨ましそうに見ていたのだろう。柳先輩にそう声をかけられてしまった。


「太るの、嫌ですから……」


「でも空、引っ越してきたばかりの頃は毎日のように買い食いしてたのに太らなかったじゃないですか、気にしなくていいと思いますよ。」 


「しっかり体重は増えました……。」


顔を赤らめながら反論する。


「横じゃなくておっぱいに栄養が行ってたんならいいじゃないですか?」


神妙な面持ちでそんな事を言うもんで


「んぐ、ガハッ!ゲホ、エホ!グ!」


柳先輩が思いっきり吹き出した。


「ミリ……ゲホッ、ここ食事場だ……僕らしか聞いてないとは言えはしたない言動は控えて。」


優しく諭すような口調で正論をぶつける。こうしてみると二人は血が繋がってなくても姉妹なんだな、と実感する。


「で……本題、優里をどう落とすか。」


柳先輩の顔つきが変わる。


「君は風薙優里に何ができる?」


その言葉は簡潔に今の私に必要なものを引き出す言葉であると同時にやるならとことんやる、という圧まで醸し出している。こんなにも圧を出されちゃ胃が痛くなる。


「……私はっ、」


「確認だけど成績が良いとか得意料理は〜とか言おうとしてないよね。」


言葉が突き刺さる。


「風薙優里って人間は何事もなんとなくで済ませている人間だ。だけど、親が社長の金持ち、程よい友人関係、平均値の頭脳。雲の上ではないにしろ手を伸ばさないと届かない程度には一般人より優れていると言っても過言ではない相手だ、そんな奴相手に自己紹介程度の情報でのできることなんか言っても何も届かないよ。」


心が痛い。


「……具体的に必要なものを教えてください。」


「2つある。1つは今みたいに誰かに助けを求めること。君、根暗だろ。背負い過ぎて潰れてちゃ何にも残んないよ。」


綺麗とは言えない文字で紙に名前を書きながら柳先輩は言の葉を紡ぐ。


「2つ目ってなんですか。」


「こいつを考えてくれたら教えよう。」


ひらひらと俳句の応募用紙であろう紙を見せつけながら言う。


「なんですか、それ。」


「課題の紙。考えるのめんどくさくってさーやってほしいなー……っっで!!ぶたなくてもいいじゃんか!」


「流石に平然と頼み込むのはどうかと思ったので。」


ミリアちゃんが容赦なく追撃の姿勢を見せるので


「月光と瞳輝く冬の日に」


と即興で考えた物を伝える。


「余り騒ぐとお店の人の迷惑になってしまうので続きは家に帰ってからにしてください。」


「帰ってからぶたれるってことじゃんかっ!」


「空、少し姉さんの扱い慣れてきました?」


柳先輩はカフェラテをテーブルに置いて話の続きを始める。


「2つ目だけど自分の武器と相手の攻略点を見極めろ。さっきも言ったけど社長の娘だ、お金を持ってるなんてものじゃ全くなびかない。趣味で攻めるよ。」


一呼吸置いた後


そうだね先ずは──と語りだす


「ゲームはどれくらいできる?」


「優里先輩ゲームお好きなんですか?」


「好きなんてものじゃないです。プロですよ、アレは。」


ミリアちゃんが補足する。


「フィミコンのゲームとソシャゲを少しくらいです。」


「スパマミ2、クリアできるかい?」


「無理です、2の1で限界です。前作と難易度が違いすぎます。」


「じゃあダメだね。あの子は自分が強いのを自覚してるから対等に戦える相手を求めてる、ゲームで攻めるのは諦めたほうがいい。」


「優里さん怪談好きじゃありませんでした?」


ミリアちゃんがそんな事を聞く。


「……そう……だね。」


「柳先輩、怪談とか苦手なんですか?」


「そんなことは……ない、ただ顔見知りに自称だけど霊媒術師名乗ってるのがいてさ。そいつ僕と喋る時ずっと変な方向見てるんだよ。やっぱ幽霊って実在するのかなって……」


いつもの雰囲気とは違う目でそんな事を語りだす。


「姉さん、じょ、冗談ですよね??」


心配そうにミリアちゃんが尋ねる。怖いのに何故この話を持ち掛けたのだろう。


「冗談だよ。相川ジョーク。」


笑いながら柳先輩はそういう。


「まあ、幽霊見える知り合いもそいつの目線が変なのも事実だけど」


「だっ、だめじゃないですかっっ!!」


「なんならたまに虚空に話し出す。」


「もっとだめじゃないですか!!!」


端からみると微笑ましい姉妹の会話だ。


「君は?何か怖い話とかない?」


怖いかどうかはわかんないですけど、と前置きをして私は語りだす。


「神山町の都市伝説……になってる人にあったことは、あります。」


柳先輩は、興味ありげに。ミリアちゃんは恐怖と好奇心が混ざった顔で私の次の言ノ葉を待っている。


「私って、去年越してきたばっかりですけど一応神山町には遊びに来たりしていましたんですよ。私の中学は神山町の近所だったのでそういう人は多かったんです。その遊びに来てたときの話なんですけど18区の橋の上で白髪のすごい美人なお姉さんにあったんです。名前は確か三森佳音『ミツモリカノン』その人に言われたんです。


大人になるのは怖いことだ、今の幸せを失った後待ってるのは先の長い人生。それをうまくできる奴ってのも一定数いるけど私は怖かった。君は辛くないのか。


って。未だにその言葉の意図はわかりませんし、その人がほんとに都市伝説になってる人なのかはわかんないです。」


私が話し終えると


「ほ、星宮。よく生きてたね……。」


完全な想定外の言葉が飛び出てきた。


「空、18区って自警団がいるとは言え、結構治安悪いんですよ??」


「下手したら今内臓取られてるか、奴隷として売られてるか……。」


「なんでそんなに怖いこと言うんですかっ!!」


幽霊なんかよりもよっぽど怖い話を聞き、私はそう言葉にする。


「……怪談はなしでいこう。君、自分の武器は理解しているかい?」


少しだけ話を戻し柳先輩は尋ねてくる。


「私はっ、」


言いかけたところで言葉が詰まる。私の武器ってなんなのだろう。考えても考えても答えは出てこない


「君ってばさ、考えすぎなんだよ。恋人なんだ。好きって気持ちが一番大事なんだ。星宮、君はもっと、自由になっていい。そうだね……具体的には」


柳先輩は私に向かって指を向け。


「前髪を切れ」


と一言。


「瞳輝くどうとか言ってるけど君の前髪、長すぎて目に光入ってないじゃないか、そりゃクラスメイトに生気が無いだのなんだの言われるよ。まずは君の目に星の光を灯すのが先。」


「なんで知ってるんですか……」


「相手を知るには周りに聞くのが早いんだよ。」


柳先輩は人差し指を立てながらウインクをする。


「とりあえず。今日切るよ、早めにやんないと結局のらりくらり回避されそうだし。」


それはいいんですけど……と前置きしつつ


「美容院って予約しないと入れなくないですか?」


「あ、僕が切るよ。」


その場に一瞬の静寂が流れた後。


「姉さん、やめておきましょう。姉さんじゃダメです。」


ミリアちゃんが止めに入る。


「なんでさ、普段パパの髪切ってるの僕だよ?」


「あの人は基本的に何しても似合うじゃないですか、姉さんは致命的なくらい不器用なんですから大人しく明日連れていきましょうよ。」


「大丈夫大丈夫、なんとかなるってとりあえず会計済ませて家行くよ〜。」


そう言うと柳先輩は伝票を持ってそそくさとレジの方へ行く。


「払います。」


流石に申し訳ないのでそう伝えるが。


「先輩に甘えときなって、別に良いんだよこれくらい。」


そういいながら会計を済ませてしまう。


「そんじゃ家行こっか、直ぐ近くだし。」


「私明日の弁当の材料だけ買ってから帰ります。」


ミリアちゃんは後程、と軽く挨拶を済ませスーパーの方に去っていった。

柳先輩と二人きりで話題も特に無い。少し気まずい空気が流れる。


「星宮ってなんで神山に来たの?」


柳先輩から発されたのは当たり障りのない世間話ではあるがこの空気を変える助け舟でもある。


「漠然と神山町に行ってみたい。って考えだった気がします。なんでもない自分を変えたくて、能力ってモノに頼ろうとしていたような気もします。ただ、神山町に興味を持ったのはさっき話した怪談の時、ですかね。」


「18区の死に損ないか……」


そう柳先輩は呟く。

時間は19時を回った辺り、路地裏を通っていることもあり闇の中に月の光だけが輝く時間である。


「なァ姉ちゃん、俺等と遊ばない?」


闇の中から男の声が聞こえてきたのは私達の会話が終わった直後であった。近付いてくると同時に姿が見え始める。人数は2人で1人はガタイが良く、もう1人は小柄であった。


「ごめんね、僕等この後用事あってさ。」


慣れたように柳先輩はそう返す。

男の方はいいじゃんいいじゃんと私達に歩みを進めてくる。


「そもそもこの子は恋愛対象が女の子だし、僕も別に君達みたいな人はタイプじゃないっていうか…」


言葉を選びつつも柳先輩は誘いを否定していく。


「別に減るもんでも無いんだし…さっ」


「ヒッ!」


私はいきなり強く腕を掴まれぐいっ、と体を寄せられ、驚きのあまり裏返った声を上げる。

バチンッ!と私の声に反応するように何かを思いっきり叩いた音が響く。


「離れなよ。」


柳先輩がドスの聞いた声で威嚇する。


「おいおいいきなり叩くこたぁ…」


「その子から離れろって言ってるんだよ。君の耳には届いてないのか?ド三流。」


いつもの優しい雰囲気とは違う、ヒリついた声を上げる。

男達は混乱している様子だが、尚も接近を試みてくる。


「それは喧嘩の合図って事で良いんだよね?僕は忠告した、あくまで先に手を出したのは君達だ。」


柳先輩は私に花火を見せてくれた時とは明らかに違うおぞましいオーラを纏いつつ、1歩ずつ男達に迫る。


「能力者がっ!」


相手の男のうち1人が柳先輩に飛び掛かる。

柳先輩はそれを回避し何かを呟く。


「撃て、」


バンッ!

そんな音が路地裏に響き渡る。足元には少量の血液が広がってくる。


「ッ!」


「大丈夫、ちょっとした切り傷程度には抑えてある。ただの法律の範囲内での喧嘩、正当防衛だ。君達の方は恥ずかしくないのかい?ナンパして失敗したら喧嘩、それに能力者を罵倒用語として使えると思ってるのは滑稽だね。」


「クソアマが!」


柳先輩は狼狽える私を諭すように優しく声をかける。

同時に男の攻撃に反応し体を動かす。

瞬間柳先輩の背後に一つの動きが見える。


「先輩、後ろっ!」


柳先輩の後ろから銃で負傷したもう1人の男が立ち上がり反撃してこようとしている。

柳先輩は体を反らしたばかりで到底反応できそうもない。


「4時方向、4時方向にそのまま体を反らせ、その後一発反撃にでろ相川!」


柳先輩のスマホから鳴るその声は正確に指示をすると同時に柳先輩もそれに合わせて反撃をする。


「2発、撃て、」


男達に一発ずつ銃を撃つが1人には外してしまう。


「先輩!!」


「クソガキっ!!」


「安心してよ、僕の能力は頭に浮かぶ事で物理法則に反していないことならなんでもあり。だから」


ドゴン!


「ただしそれは神山基準の、だけどね。」


男を2人共気絶させた所で柳先輩はこちらを振り向く。


「怖い思いさせてすまないね、無事で、良かった。」


私の体を抱きしめながら柳先輩はそう口にする。


「菜途沙も、助かったよ。ナビが無きゃ可愛いお顔が殴られてたし。」


「どっから来るんだよ、その自信は。」


私の背後から呆れた声が聞こえる。

私は驚きで少し体を震わせる。


「大丈夫、自警団の津兎歳菜途沙『ツトトセナズサ』、さっきのナビもこいつの能力。」


「にしてもホント良くできるよな、気絶させただけで外傷は切り傷のみ、周りの物も一切傷つけずおまけに防音のフィールドも貼って周囲に影響を与えない、ねぇ……。後の処理は自警団でやる、相川お前は早く帰れ。そっちのお前も、路地裏歩くならもっと明るい時間にしろ。」


私達は注意を受けつつ、帰路についた。

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