第9話 私が私を愛す理由
あの日以来、私はふたりの帰りを待ち続けた。
待って、待って、待ち続けて、疲れる程待って、もう何もかも放り出そうとした時に、2人は私の元に帰って来た。
父の付けていたマントとペンダント、母の付けていた指輪と共に。
第9話 私が私を愛す理由
私はいっぱい泣いた。"2人のモノ"を抱きしめながら、全身の水分が無くなるまで泣いた。
そして恨んだ。私からふたりを奪った奴を。魔術協会を。世界を。
なにより、2人の力になれない程無力な自分を────
「フジモト・ナナミ様、ですね?少々お待ち下さいませ。」
2人がこの世を旅立ってから5年後、私はこの憎き世界に復讐する為に、魔術協会を訪れていた。
ここに来れば、2人の最期に行っていた任務が分かると思った。
魔術協会で自分の名前を出せば、過去の家族のクエスト履歴やランク、ギルド名等、事細かに調べる事が出来るのだ。
「フジモト様、お待たせしました。ご両親が最期にされていたクエストになりますが、魔術協会からの依頼だった為、別室での閲覧となります。今お時間ありましたらご案内させて頂きますが、どうされますか?」
私は小さな声で了承し、魔術協会の事務員に案内してもらうがまま着いて行った。
「こちらの部屋にある机に、クエスト内容等が書かれたものが置かれております。私は隣の部屋でお待ちしておりますので、気分が落ち着きましたらお呼び下さい。」
失礼します。と軽く会釈した事務員を見送ってから、扉を開いて部屋に入った。
その中は、真っ白な部屋にパイプ椅子と白い机、それと何枚か紙が重なって置かれていた。
「......これが、私のパパとママを殺した奴の載っているクエストね。」
真っ先に目に付いた、『魔術協会任務(SS)』と書かれた特殊任務詳細書を読んだ。
特殊任務詳細書
魔術協会に属する者は、この特殊任務詳細書に書かれている内容を無視する事は不可能である。これを破る場合、いかなる場合であれ、当人並びに当人の家族の公開処刑とする。
特殊任務内容
クエスト難易度:SS級
内容:某カルト教団(国家機密の為名前は伏せる)のアジトへ潜伏調査
期間:1ヶ月〜無期限
報酬:なし
注意事項:この教団に所属が発覚してしまった場合、戦闘に入らず直ちにその場を立ち去る事。(こちらで遺体とサンプルを回収出来ない可能性が高い為)
大まかにこのような事が書かれていた。
「なに、これ......。こんなの、こんなのってあんまりじゃない!!何!?魔術協会に入った人間には人権が無いっていうの!?パパやママだって、同じ人間なのに!!捨て駒のように命を扱って!!こんなのってあんまりじゃない!!」
怒りと憎悪に塗れた私は、思わず机を蹴っ飛ばし、パイプ椅子を投げ、我を忘れて怒り狂ってしまった。
「こんなの……っ!! 魔術協会に呼ばれるってことは、事実上の死刑宣告じゃない!! なんで!! ……なんで、よりによってパパとママなのよ……っ!!」
「……うっ、うぅっ……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
分かっている。どんなに暴れようと、どんなに泣きじゃくろうと、どんなに復讐心に燃えて行動しようと、あの2人は戻ってこない。それでも、暴れた。暴れるしか無かった。自分のこの思いをぶちまける為には。自分のこの思いを抑える為には。
その時、パッと1枚の紙が見えた。その紙には、『遺書』とハッキリ書かれている。思わず、無意識の中で手に取ってしまった。
ナナミへ
ナナミがこれを読んでいるという事は、パパとママはもう殉死してしまったのでしょう。
でも、悲しまないで。何も恨まないで。魔術協会に入って、たまたま私たちがこの任務を請け負って、たまたま任務中に死んじゃっただけだから。だから、他の人や協会を恨んで生きないで。貴方は貴方の、自分の人生を生きて。あ、でも少しは悲しんでくれてもいいのよ?なんてね。
これを読んでるナナミが幾つかは分からないが、これはパパとママ2人からのお願いだ。俺たちが最期まで頑張って良かったと思える程、幸せになりなさい。勉強して、遊んで、恋愛もして、それで結婚もして......
それで、しわしわのおばあさんになって、ナナミが幸せだったと思えるようになったら、パパとママに会いにおいで。そしたら、パパとママはナナミを迎えてあげるから。
愛しているよ、ナナミ。
パパとママより
「ううっ、うううっ、ひぐっ......」
私はまた泣いてしまった。でも、さっきとは違う、優しい涙。世界を恨んでしまった事への申し訳なさ。
あぁ、私はまだ子供だったんだなぁって、2人みたいに、困っている人がいたら手を差し伸べれる程優しくなろうって、この2人の遺書を読んで感じたんだ。
「......すみません、もう大丈夫です。ありがとうございました。あと、机とか、椅子とか色々乱暴してしまってすみませんでした。」
あの後私は、机やら椅子やら色々投げてしまった事を事務員さんに謝ったら、優しい顔で大丈夫ですと言ってくれた。
「......それと、フジモト様のご両親に、魔術協会に娘が来たらこれを渡してくれと言われましたので、こちらお渡し致しますね。」
そうだ、そうして渡された本の中に、私の魔眼についてが───────
───ミ
誰かが呼んでる?
───ナミ
聞き覚えのある、でも新鮮な落ち着く声。
───ナナミ!!
「ゲホッ!ゴホッゴホッ!!」
ここは......ギルド協会の休憩室?
「あぁ、よかった!サキさん!ナナミが目を覚ましましたよ!!」
あぁ、私、魔眼の痛みで気絶して、長くて懐かしい夢見てたんだ。
「よ゛か゛っ゛た゛て゛す゛ナ゛ナ゛ミ゛さ゛ん゛〜!!!」
「わわっ!!ちょっと、サキさん落ち着いて落ち着いて!!鼻、鼻かんで!!私の服、鼻水でベトベトになっちゃうから〜!!!!」
苦しくて悲しい、私の夢。でも、何故だろう。そんなさっきの夢が愛おしくてたまらない。きっとそれは、大切な仲間が、友人が私にも出来たからだろう。
「あははっ!あはははっ!も〜!サキさんのせいで服鼻水だらけじゃないですか〜!!」
パパ、ママ、私は今、皆のお陰で幸せに暮らせてるよ。ありがとう。




