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第13話 影

「はぁ……」


 ナナミは、ギルド協会の近くにある小さな公園のベンチに腰掛け、深い溜息を漏らしていた。緑の木々が風に揺れ、夕方の斜陽が彼女の赤い髪を金色に染め上げている。


「あの時の二人でも……結局教団には敵わなかった……」


 ふと、倒れていた時に見た悪夢が脳裏に蘇る。かつて国でも有数の実力を誇った両親が、教団との戦いで無惨にも殉死した光景。その残酷な結末が、心の奥に刻まれた絶望感を呼び覚ます。


「……くっ……!」


 その瞬間、彼女の胸の内に、かつて抱いていた復讐心が再び渦巻くのを感じた。両親を奪った教団への憎しみ、怒り──それらが一気に押し寄せ、彼女の手元にあった飲み物の缶が、ギュッと握りつぶされてしまう。


「……だめ、だめよ……私……」


 ナナミは震える手を見つめながら、小さく首を振った。


「復讐なんてしても、あの二人は帰ってこない……それに、あの時、二人に誓ったじゃない……もう誰も恨まない、困っている人に手を差し伸べる優しい人になるんだって……!」


 必死に自分を落ち着かせようと深呼吸する。両親の最後の願いを裏切るわけにはいかない。怒りに身を任せることは、二人の魂をも裏切ることになるからだ。


「はあっ……はぁ、っ……いつかユウキに、ちゃんと私の過去を話さなきゃ……」


 ナナミが深い呼吸で気持ちを落ち着けようとしているその時、ふと冷たい視線を感じた。


「……ッッ!!」


 殺意を感じ取ったナナミは、即座にその場から離れ、臨戦態勢へと移った。


「へえ、こっちの存在に気づいたんだ。やるじゃん。」



 第13話 影



 男の声がナナミへと話しかける。


「……誰。」


 姿の見えない声の主へと、ナナミは問いかける。


「プッ!アハハハハ!!」


 声の主は街中に響くぐらい大きな声で笑い出す。


「……何が、おかしいの……?」


 あくまで冷静に、そして威嚇するような声で聞く。


「いや、教えるわけないでしょ!もしかして、バカなの?それに、もし教えて欲しいならそっちから名乗るのが常識だよねぇ?」


 ナナミは警戒を緩めず、周囲の気配を探った。だが、その声の主は気配を完全に消しており、どこにいるのか全く分からない。


「……ふふ、焦ってる?ねえ、どうしたの?さっきまでの威勢はどこに行っちゃったの?」


 その瞬間、ナナミの背後から鋭い殺気が放たれる。反射的に振り返ったその刹那、背後の地面から黒い影が突き上がり、槍のようにナナミに襲いかかった。


「くっ……!」


 ナナミは一瞬で身を引き、右手に魔力を集中させた。その瞬間、彼女の指輪が赤色に輝き始める。


「フレイム・アーツ!!」


 彼女の指先から放たれた炎が、足元から伸びる影を一瞬で焼き払う。焦げる音と共に、その黒い触手のような影は霧散し、辺りに煙が立ち込めた。


「おおっと、やるじゃん。まさか初撃を避けるだけじゃなく、反撃までしてくるとはね。」


 煙の向こうから、不気味な笑い声が聞こえる。その声は、まるで心の奥底をえぐるような冷たい響きを帯びていた。


「……姿を見せなさい。何者なの?」


 ナナミは煙の中に視線を向け、全身の感覚を研ぎ澄ませる。相手の気配は掴めないが、その異常な殺気だけはひしひしと伝わってくる。


「はぁ……めんどくさいなあ。そうだね、君には特別に名乗ってあげるよ。」


 煙が晴れたその瞬間、目の前に現れたのは黒いフードに身を包んだ小柄な人物だった。顔は仮面で隠され、仮面の向こうから覗く瞳は、まるで暗闇のような漆黒の色を放っていた。


「俺の名前はカグラ。さっき君の仲間たちのところに遊びに行ったニアの仲間さ。あぁ、別に覚えておかなくてもいいからね?どうせここで死ぬんだからさ。」


 カグラはその場で軽く肩を回しながら、まるでこれから始まる戦いを楽しむかのように薄く笑っていた。


「……誰の依頼?」


 ナナミの瞳がさらに鋭さを増し、指輪に埋め込まれている魔石がより一層輝き始める。


「ハァ……だからさぁ、何度言ったら分かんのかなぁ?何でもかんでも敵さんに聞こうとするのは賢くないやつがする事だってさぁ!!」


 カグラはその場で軽く足を踏み鳴らすと、彼の足元から無数の影が這い出し、ナナミに向かって襲いかかる。その影はまるで生きているかのように蠢き、触手のようにうねりながら彼女を取り囲む。


「また影か……でも、さっきと同じ手は通用しないわ!」


 ナナミは再び右手に魔力を集中させ、その手元から放たれた炎が影を一気に焼き尽くす。しかし、その瞬間、カグラは影と共に彼女の背後に回り込んでいた。


「甘いよ、ナナミちゃん。」


 ナナミが振り向くよりも早く、カグラの足元から無数の影の刃が形成され、一斉に彼女に向かって射出される。


「っ……!」


 ナナミは咄嗟に両手を前に突き出し、魔力を集中させた。


「プロテクト・バリア!!」


 青い光の障壁が瞬時に展開され、影の刃がその表面に衝突し、火花を散らせながら弾き飛ばされる。しかし、その衝撃でバリアにはひびが入り始めていた。


「へぇ、やっぱ思った通りの強さだね。でも、どこまで持つかな?」


 カグラはその様子を見てさらに笑みを深め、その手を軽く握りしめる。その動きに反応するかのように、影の刃がさらに増幅し、次々とバリアに叩きつけられていく。


「くっ……!」


 ナナミは歯を食いしばりながら、バリアの維持に全力を注いだ。しかし、カグラの影はまるで生きているかのように次々と形を変え、彼女を押しつぶそうとしている。


「もっと、もっと絶望しなよ。君のその無力さをね!」


 その言葉にナナミの目がさらに強く輝き、その瞳に宿る緑と青の魔眼がその力を解放しようとしていた。


「さあ、これでおしまいだァ!!」


 更に影の刃が形成され、射出されそうになったその時、カグラの後ろから何者かが迫ってきているのが見えた。


「後ろががら空きだよ!水天一撃(すいてんいちげき)!!」


 ユイは剣を振り上げ、カグラを後ろから仕留めようとするが、先程までナナミを襲っていた影が盾となって防がれる。


「ハァ!?アイツ、殺し損ねたのかよ!!ったく、どいつもこいつも使えねえなァ!!」


「へへっ、これで終わりと思ったら大間違いだよ!!」


 そうユイが言うと、カグラの足下から噴水の如く大きな水柱が噴出され、上へと飛ばされた後、勢いよく地面へと叩きつけられた。


「─────グハァッッ!!……ってぇなァ!クソッタレがァッッ!!」


「よし、今だよ!ユウキくん!!」


 その合図と共に、ユウキがどこからか飛び出してくる。


「行くぞ、エアロ・フィールド!!」


 ユウキが唱えた瞬間、腕の時計が緑色に輝きを放ち、カグラの周りに強力な気流の壁が一瞬にして成型された。


「フッ、フフフッ、アハハハハ!!こんなんで俺を捕らえたつもりなのか!?こりゃ傑作だなァ!アハハハハ!!」


 そう高笑いしながら、カグラはエアロ・フィールドをいとも簡単に吹き飛ばしてしまう。


「ハァ〜ッ。今回は俺の負けとしてやるけど、次会ったらテメェらの事、ぜってー殺してやるよ。できるだけ苦しい殺し方でな。」


 さっきまでとは雰囲気の違う低い声でそう言い残すと、カグラは自分の影の中へと消えていった。


「はあっはぁっ……」


 ナナミは荒い息をつきながら立ち尽くしていた。手足の震えが止まらず、心臓が激しく鼓動を打っている。


「ナナミ、大丈夫!?怪我はない?」


 ユイが急いでナナミの元へと駆け寄り、肩に手を置く。ナナミは一瞬反応が遅れたものの、ようやく息を整え、かすかに頷いた。


「……ええ、なんとか。でも、あの男……ただの戦闘狂じゃない……」


「影を操る能力……あれ、かなり厄介だね。アイツ、まだ手の内を隠してるっぽそうだし、今後も戦ってくだろうから、どうにか対策とらなきゃ……」


 ユイは、先程まで戦っていた場所を睨みつけながら言った。地面には無数の焼け焦げた跡と、割れた石畳が散らばっている。


「ユウキくんも、今のうちに撤退しよう。アイツが仲間を連れて戻ってくるかもしれない。」


 ユイの言葉に、ユウキも頷きながら二人に駆け寄る。


「……ごめん、私のせいで……」


 ナナミはか細い声で呟くが、ユウキは即座に首を振った。


「気にするな。ナナミも無事だったんだし、それだけで十分だ。」


 その言葉に、ナナミは少しだけ安堵の表情を浮かべる。


「……そうね、2人ともありがとう。この借りは絶対どこかで返すわ!」


 いつものナナミの雰囲気に戻り、ユウキは安堵しつつ、新たな敵の襲来に、これからの戦いへの不安が募っていくばかりなのであった。

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― 新着の感想 ―
最新話まで読ませていただきました。 いきなり幼馴染に殺されるところからの衝撃のスタート、そして涙のわけ…… 裏で動き始める「教団」という存在など惹かれる要素が多く、すごくワクワクするなと思います。 気…
 ただの異世界ものというわけでもなく、教団という存在がこの話の惹きになっていると感じました。  始まりの殺されたことを含め、これからの展開や、種明かしに興味がそそられる作品であると思います。
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