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第10話 異常事態

 「サキさん、ナナミも無事目を覚まして落ち着いた事だし、本題に入っていいかな?」


 まだナナミに引っ付いているサキさんに話を振ると、涙でぐちゃぐちゃになった顔を近くのタオルで拭いて、咳払いをしつつ座り直した。


 「......そうですね、本題に入りましょう。その前に、まずは2人を危険な目に合わせてごめんなさい。それと、無事に戻ってきてくれて、ありがとうございます。」


 急に、いつになく真剣な顔とトーンでサキさんに頭を下げられるのでナナミも俺もびっくりした。


 「サキさん!大丈夫ですって!無事にユウキも私も帰ってこれたんですから!それに、貴重な体験も出来たんですし!」


 ナナミの言う通りだ。確かに俺達は、あの森の中で想定外の危険に晒された。でも、ナナミも俺も、体は傷つけど命までは落としていない。それに、もし俺達以外の低ランクギルドがあのクエストを受けていたら、それこそ一網打尽にされ命を落としていただろう。


 「でも......!」


 サキさんが言葉を続けようとすると、ドアがドガシャァンという音を出しながら勢いよく開いた。......というよりかは、大破した。


 「はいはいお前らそこまでだよ、そういうのは。」


 声が少し低めの、腰に大きめの剣を携えた身長の高いガタイの良い女性と、「あはは......」と苦笑いする小柄でひ弱そうな本を抱えた男性が部屋に入ってきた。


 「話を聞いてりゃ、本題に入らずグダグダグダグダ傷の舐め合いしてやがって、こっちが聞いてらんねえっての。ってか、そもそもお前らはなぁ───」


 急に入ってきたかと思えばこの人ずっと文句言ってる。まあその文句、的確ではあるんだけれど。


 「......あの〜」


 そんな中、ナナミが恐る恐る手を小さく挙げて発言した。


 「失礼ですが、お二方ともどちら様でしょーか......」




第10話 異常事態(エマージェンシー)




 「悪ぃな、自己紹介がまだだった。」


 絶対に謝るとこはそこじゃないと思いながら、ツッコミするのを諦めた。捻り潰されそうだし。


 「アタシの名前はミゾグチ・レイ。ミゾグチと呼んでくれ。こっちの貧弱なチビ野郎が────」


 「────カワグチ・ショウです。名前は好きに呼んで頂いて構いません。よろしくお願いします。」


 正反対な2人がなぜここにという質問は置いといて、俺達も自己紹介を済ます。もっとも、2人は俺達の事を知っていたみたいだが。


 「とりあえず、椅子でも座って今回の事態について話し合うぞ。」





 「お前らは今回のクエストで身をもって知っただろうが、今世界中の魔物が異常な動きを見せている。」


 ナナミのベッドを囲むように、俺達は今回のクエストに起きた事態を話していた。


 「お前らはアタシ達が来たのが不思議に思うかもしれんが、今世界中で低ランクの野郎共がクエストで殉死してたり、生き残って帰ってきたと思えば、そのまま冒険者を辞めていっちまう野郎共が急増してなぁ......実際に生還していて、精神的にもやられていないお前達は最近じゃ珍しいって訳なんだ。」


 「なるほど、それで俺達にどういう状況だったかを詳細に教えて欲しいって事ですね?」


 「あぁ」と言いながら、手元にあったペットボトルのお茶を1口飲んでから話してくれた。


 「アタシ達高ランクの人間も、問題が起きた低ランククエストを受注したりしているのだが......何故かアタシ達が受けても何もおかしな事が起こらず困っているんだ。そんな状況じゃ、異常の調査も出来ないしな。だから、アタシ達にそのクエストの話をして欲しい。それと、協力もして欲しい。」


 「分かりました。自分達が話せる事は全部話します。」


 そうして俺達は、"あのクエスト"で起きた事を事細かに説明した。初のDランククエストとして受注した事、感知魔法をかけ、マナリアの森でクエストを開始した事、感知魔法にかかったグレアリング・ドッグの数が有り得ない程多かった事、そこからナナミの魔眼で切り抜けた事────


 ざっとこんな感じで、ミゾグチさんとカワグチさんに事細かに今回のクエストの起承転結を伝えた。


 「成程......確かに、グレアリング・ドッグが多数で群れているのは異常ですね......一般的な常識として、グレアリング・ドッグが群れを成すのはせいぜい多くても20匹程度......それが戦闘開始時点で100匹を超え、ましてや戦闘中に討伐してもしきれない程増えていくのもおかしい......まるで、他の人間が低ランクギルドを狙うかのような不自然さ......」


 「......あぁ、これはかなり不自然だ。アタシ達が低ランククエストに行っても一切異変が起きない。一切だ。それに加え、魔物1匹1匹が魔力の暴走が原因で強くなってる訳でもなく、数で殴り込みに来たことで相対的に強くなっているなんてな......」


 まさか、人間が何かを企んで行動している......?でも、だとしてもなんの目的があってそんな事を......


 「まさか......教団の仕業......?」


 サキさんのその言葉にナナミの顔が一瞬で強ばった。


 「断定は出来ないですが、ハヤカワさんの言う通り教団の可能性は十分あると思います。だから、僕達も痕跡を追ったり、生態系を調査する為にもマナリアの森(そこ)に調査しに行こうと思ってます。......それと、フジモトさんとサトウさん、あなた方には低ランククエストの攻略をお願いしたいです。元々、最近若者の冒険離れが加速してて、低ランクの方々が少ない上にこの事態で低ランクギルドが大量に解散してるんです。それに、お二方ならきっと、次のクエストも攻略する事が可能だと思います。」


 「だってよ、ナナミ......ナナミ?おーい、大丈夫か?聞こえてるか?」


 ずっと強ばったままの表情で硬直していたナナミが、俺の声にハッとした顔をし、直ぐにいつものにこやかな表情で「私は賛成だよ」と答える。


 「お前達2人の協力に感謝する。それと、お前達のギルドに1人強力な助っ人を手配してやる。もし本当にギルドメンバーにしたいなら、勧誘しても構わない。"今は"フリーだからな。......入ってこい。」


 「やっと呼ばれた〜......」と言いながら疲弊した顔で部屋に入って来たのは、黒髪ショートの似合う、黒目がパッチリしていてまつ毛も長い......超が付く程の美少女だった。


 「あっ、あなた達が新しいギルドの方々ですか?初めまして、マツユキ・ユイです。少しの間ですが、よろしくお願いします。」

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