第1話 人生の終わりと人生の始まり
「なん、で……」
少々じめっとした風の流れる夕暮れの教室、先程まで、胸の辺りに刺さっていた刃物を見て、俺の頭には怒りや恨み、悲しみなんてものが湧き上がるより前に、真っ先に疑問が頭に浮かんでいた。
それもそうだ、そこに佇む1人の少女の正体は───
第1話 人生の終わりと人生の始まり
俺の名前は佐藤 優樹。私立星桜高校に通う至って普通の高校2年生。顔も運動も勉強も性格もどれを取っても普通だ。
7月の期末テスト間近、あまり友達の多くない俺だが、そんな俺にも誇りに思える幼馴染がいる。そいつが───
「おやおやぁ〜。今日も優樹さんは一段と眠そうな顔をしてらっしゃいますなぁ〜」
こいつ。暁月 由美である。中学からの幼馴染で、俺と真逆の何でもできる万能美人。中学の頃からバスケ部の先輩や、同じクラスの男子、はたまた校外からわざわざ訪問してフラれているヤツもいた。
俺はこんな幼馴染が、羨ましくも誇らしく思っている。
「うるせえ、こんな朝っぱらから元気な方がおかしいだろっつーの」
いつも由美とは、そんな軽口を叩き合いながら登校し、放課後もその日起きた面白い事を共有しつつ帰宅している。
だが、一つだけ今日は重要イベントであろう事が待ち合わせている。
そう、由美から放課後教室に残るよう言われているのだ。
健全な男子なら答えはひとつしか割り出せないのは当然だ。放課後に女子に呼び出され2人きり、これはもう、告白されるに違いないのだ。
ちなみに答えは既に決まっている。いや、もはや最初から決まっていたのかもしれない。もちろんYESだ。
そんなこんなで期待に胸を膨らませていたら、約束の放課後になっていた。誰もいない事を確認し、教室の窓ガラスに反射した自分を見つめ身だしなみを整え、イメトレも完璧にこなしておく。よし、心の準備はもう完璧だ。どんとこい。
そんな事を考えていたら、遂にその時はやってきた。由美が教室に入ってきたのだ。
「よっ、待たせたすまん」
いつもと変わらず気さくに接してくる彼女を見て、さっきまでの緊張はどこかへ消えていた。
「いや、俺もさっきまでやる事あったから気にしないでいいよ」
と返すと、気にしとらんわ!と笑いながら返してくれた。
「……んで、早速本題だけど、俺を放課後残らせたのは話があるからでしょ?」
と、早速こちらから話を切り出す事にした。このままずっと話していると心がどうにかなりそうだったからだ。
「あっ、うん……そうだよね。話があるんだった……」
由美は、夕暮れのオレンジがかった光のせいか、ほんのりと頬が赤くなっている気がした。
ああ、やはり俺は今から告白されるんだ。次の由美の言葉が出るまでは、俺はそう思っていたんだ───
「ねぇ優樹、私の為に、死んでくれない?」
自分の耳を疑った。当たり前だ。そんなセリフを冗談以外で聞くことなんてリアルではまず有り得ない。
「……由美、ごめん……よく聞き取れなかった。もう一度いいかな……ッ!?!?」
由美がさっき放った言葉をもう一度確認した時には、既に刃物が胸に刺さっていた。
「……えっ、嘘……だよ……な……??」
状況がまるで飲み込めない。さっき彼女が教室を踏み入れるまでは、あんなに仲良く話していたはずなのに、気がついたら何故か由美は俺の胸を刃物で貫いていた。
「あはぁ……ッ!!やっと……やっとアンタを殺せたわ……ッッ!!!」
カシャンという刃物の落ちる音と、由美とは到底思えぬ言動や表情をしている姿を見て、まだ現実を受け入れられずに居るところに、畳み掛けるように由美が語り出した。
「アンタの持っている能力が"コッチ"にとって厄介過ぎて、組織から目覚める前に殺すよう言われてたの……でも、ただ殺すだけだと勿体ないでしょ?だ・か・ら、アンタが私に惚れたタイミングで殺そうと思ったのッ!!だって〜、そっちの方が、アンタの絶望した顔が見れて楽しいでしょッ!?」
意味が分からない。能力?組織?何をさっきから言っているんだ???
「なん、で……どういう……こ……と……?」
状況に1人置いて行かれている俺が、意識が朦朧としている中で振り絞った質問を、恍惚とした表情をしたまま床に落ちた血濡れの刃物を拾い、由美は答えた。
「これから死ぬアンタには答える義理は無いけど……そうね、一つだけ教えてあげるッ!!アンタと過ごした4年と半分は、私にとっては唯のごっこ遊びでしか無かったってこと!!どう!?絶望した!?悲しくなった!?泣きたくなった!?それとも……私の事を殺したくなっちゃった!?なぁ、どうなんだよ!!なぁ!!私の質問にも答えてみろよ!!自分ばっか質問してないでさぁ!!」
そう俺に言いながら、右手に持った刃物を高く突き上げ、再度俺の胸に突きそうとしている。だが、俺はその時に気づいた。その目から1粒の涙が、俺の返り血に混じって輝いているのを────
……
…………
…………………………
「いてて……」
……妙に頭が重い。
それに、何だか身体の後ろがチクチクして痛い。
「……ん?」
7月とは思えないほど冷たい空気に目を開けると、さっきまで教室に居たはずの俺は森に仰向けになっていた。




