妙求市の可能性
跨線橋の夢を見たQさんは、近頃妙なことが起きているという。
「どういうことか、俺にもわからん」
それは感触の違いだった。
「歩道と道路を隔てるガードレール。ありゃ当然硬いもんだよな?」
そうでなければ歩行者を護れない。
「けどよ、俺が触ったとき、柔らかかったんだ」
錯覚などではなく、ぐにゃりとひん曲がった。
鉄柵ですらねじ切ることができた。
「俺がすげえ力持ちになった、っていうなら話は早いんだが、そういうわけでもないんだ」
Qさんは椅子を折ろうとするパフォーマンスをしたが、びくともしなかった。
「な? 普通だ。アメコミヒーローになったわけじゃない。なのに、これだぜ?」
見せてくれた写真は、おおよそ鉄製品が取ってはいけない形をしていた。
「この写真を撮った後、ある程度は元に戻したけどよ、いや、どうなってんだ、これ?」
市職員は試しに見えないブロックを渡した。
「お?」
壊してみるよう頼んだ。
「おお、別にいいけどよ、散らかるんじゃねえか?」
そうなった。
Qさんが力を込めた途端、粉砕された。
見えないだけに掃除には苦労した。
「なんだよ、あの砂の塊みたいのは」
市職員がいくら握り込んだところでびくともしないものだった。
「そうなのか?」
Qさんは接触限定ではあるが、消失物、あるいは夢操者由来のものを判別できるようだ。
たやすく破壊することができる。
「お、おう、そうか」
事態を理解できないようだった。
しかし、その有用性は計り知れない。
「どういうこったよ」
今まで不明だった部分を調査できる。
「いや、多少の借りはあるから、返したくはあるんだが、何すんだ?」
市職員はQさんに正式に依頼した。
その手が破壊可能な場所についての判定だ。
より詳しく言えば、この妙求市にどれだけ「消失物で出来たもの」が広がっているかの確認だ。
「病院での検査やら何やらがまだかかるらしくてな、暇ではある、いいぜ」
Qさんは妙求市のあちこちに赴き、指つついた。
たやすく変形するものもあれば、ごく普通の鉄製品のものもあった。
そうして分かった地図分布は、信じがたいものだった。
「やっぱり俺のこれは、その消失物? それとは無関係なんじゃねえか?」
そう信じたい。
Qさんが調査した限り、街の建築物の大半が消失物だった。
南方面はほぼ全域、北方面も大半が侵食されている。
いくつかの有名な場所は異なっていたが、ガードレールはもちろん、道も、建物も、あるいは車ですらも、消失物で妙求市は構成されていた。
「どうなってんだ?」
その答えは、市職員も持たない。




