空き地に降る雪の可能性
その可能性はわからない。
妙求市に季節外れの雪が降った。
積もることはなく午前中には雨に溶けてしまったが、夜の間は降り続けた。
その日、同じタイプの夢を見る人が多く出た。
それは路地裏の、周囲をコンクリートの建物で囲まれた場所だった。
四角く切り取られた空白地。上から雪がはらはらと舞い、落ちて、地面を覆った。
夢だと、誰もが気づいた。
同時に、その雪で覆われた空き地に何かが埋まっていることも。
「俺は、ぶっ壊したバイクだったよ」
Tさんは言った。
昔、事故を起こして廃棄したものだった。
そのハンドル部分だけが地面から突き出ていた。
「苦労して掘り起こして、乗った」
エンジンがかかり、短い帰り道を走った。
「素敵でした」
Dさんはうっとりと言った。
「本当に、素敵な夢でした」
雪に埋まっているものが何か、決して言わなかった。
ただ、それは生きていたようだ。
複数の生物が雪の下を這っていたということが、断片的な情報から推察できた。
Dさんは舌なめずりし、自らのお腹を撫で続けた。
「ガキの頃に買ってもらったおもちゃだったよ」
Fさんは不機嫌だった。
「たぶん、本物そのものなんだろうな。けどな、めちゃくちゃ安っぽかった」
記憶の中にあるようなリアルや圧倒はなかった。
それでも一晩中、そのおもちゃで遊び続けた。
それは子供の頃のFさん自身と遊んでいるような感覚だった。
市職員も夢を見た。
四角く狭い空間に、上から雪が降る。
白くなだらかに敷き詰められた雪は、底なし沼のようだった。
踏み込めばそのままドプンと沈む。
そこから、手が出ていた。
直感的に、市職員自身の腕だと理解できた。
助けるべく踏み出せば思ったよりも雪は薄く、足が沈むことはなかった。
だが、そこが湖だとでもいうように手は藻掻いた。
つかみ、引き上げようとした。
逆に強く引き寄せられた。
「どろぼう」
市職員そっくりの顔が、雪から顔を出しながら言った。
笑っていた。
「私を奪った、私の存在を、私の全部を」
市職員自身であると理解できた。
市職員となる前の、「私」だった。
「返せ、戻せ、お前なんか――」
はい、と返答した。
「……」
なぜか沈黙があった。
ひどく不機嫌そうだ。
戻りたいと望むのであれば、吝かではない。
ただ、できれば今の業務を引き継いで欲しい。
公僕という立場は変わることがないはずだ。
雪に沈むその人に言った。
舌打ちされ、手が離れた。
「冗談よ」
睨まれた。
「あんた、本当につまらない。本当に私?」
市職員は市職員でしかない。
「あんたねぇ……」
市職員は一晩中、愚痴を聞かされた。
その間、雪は降り続けた。




