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赤い視界の可能性

一部残虐描写があります

ご注意ください

いろいろ被害にあった、元未来予知者のCさんが相談に来た。


「赤いんです」


目にまつわることだった。


「最初は、なんだか視界が暗くなることがあるな、ってくらいだったんです」


それは、街中の景色を見ていたときのことだった。


寒暖差が激しく、目が乾いた程度のことだろうと考えた。


「違うんですよ……」


まずは看板だった。


「赤色を使った看板って多いですよね」


目立つ色であるだけに、注目を引くために使われる。


「その看板の数が、やけに増えてるな、とは思ったんです」


チェーン店では特にワンポイントのアクセントとして選ばれる。


「そうじゃなかった」


同じ街の同じ道であるにもかかわらず、「赤色の領域」が増加した。


「ハンバーガー屋のあそこ、赤と黄色の看板ですよね?」


世界的にも有名なチェーン店だ。


「それの黄色が、だんだん減ったんです」


Mのマークが細くなり、ついには赤に溶け込んだ。


「街中の、灰色だらけのコンクリートのビルも、赤く塗られました」


ペンキで塗ったというよりも、内側から染み出すようだった。


「写真で見れば、そんなことはないんです」


少なくとも見た瞬間は、前の通りの街の様子だった。


「いよいよおかしいな、って決定的だったのは、駅で電車を待っている間に、ビルが赤く変わったときです」


パターン模様を描く赤色が、ビル壁面すべてを覆った。

眼前の一棟だけではなく、風景すべてがそうだった。


「街が、赤くなったんです」


青空ですらも、端のほうから徐々に侵食した。

人々の肌は全員が日焼け直後のそれだ。

ミネラルウォーターは血のように毒々しい。


「それ以外、特に異常はないんです、匂いや味が変わるわけじゃない、こっちの目がおかしくなっただけです……」


また、その「赤」はまんべんなく塗られるわけではなかった。

流動的であり一定しない。


見えない誰かが刷毛で塗ったかのようだった。


「主に視界の端ほど、赤くなってました」


真正面からじっと見続ければやがては元の風景を取り戻すこともできた。


「色の認識だけが、おかしいんです」


少しでも気を抜くと赤くなる。


「どうすれば……」


医者へは行ったそうだが、問題なしと太鼓判を押された。

心理的要因の可能性が高いとされた。


「やっぱり、そうなんですかね……」


市職員は、試すことを提案した。

無駄かもしれないが、行くべき場所があると。


「はい……」


疲れ果てた様子だが、許可は取った。


妙求市総合病院の再作科の予約は取れなかったため、鍵屋へと向かうこととなった。

Cさんが青ざめた顔をしたのは、一度は訪れた場所であるためだ。


「あの、ここに?」


相変わらず胡散臭い鍵屋は、Cさんの目を覗き込むなり「ああ」と納得した。


「ずいぶん、大きく育てましたねぇ」


市職員は言葉の意味がわからない。

Cさんもまた同様だった。


市職員は訳知り顔でコップに水を入れた。


「ちょっと押さえておいてください」


言われた通りにCさんを拘束した。

鍵屋はピンセットを持ち出した。

Cさんは騙されたことにようやく気づいたかのような表情となった。


「なにを……」

「はい、動かないでくださいねぇ」


ためらいなく、眼球へと突っ込んだ。

つぷり、と音を立てて貫通し、硬いなにかを掴む様子があった。


かすれた高い悲鳴がした。

掴んでいる身体が力強く震えた。


「たまにねぇ、あるんですよねぇ」


べり、と音を立て角膜らしきものを剥がした。

足を動かし絶叫するCさんを市職員は更に抑えた。


「はい、そのままそのまま、あともうすぐですよ」


ぽっかりとした穴を開けたCさんの目の様子があった。


鍵屋はそこに、別のものを入れた。

スプーンと針の群れをあわせたような機器だった。


「人の身体には、寄生するものが多くいます」


顔だけでも顔ダニが二百万匹いると言われている。


「身体が変われば、別のものが巣食うこともある」


ゆっくりと、慎重に眼球内を探った。

限界まで見開かれたCさんの両目から、涙が流れた。


その涙が、赤くなる。

粘度が高く、スライムのようだった。


眼球が細かく痙攣した。

悲鳴はオクターブを限界まで高くした。


「あ、よし」


鍵屋の腕の動きに合わせて、ずるりと抜け出すものがあった。


「はい、これだ」


金魚だった。


一般的な大きさのそれが、ぴちぴち跳ねていた。

鍵屋は用意していたコップに、すばやく入れた。


魚が纏っていた赤色が、ふわりと水に溶ける。

広い場所に出られたことを喜ぶように金魚は泳いだ。


「最初は、それこそ卵だったんじゃないですかね、それが孵化して、育って、Cさんの視界を赤くしたんですよ」


眼球内にものがあれば、単純にものは見えなくなる。


「金魚の鱗は、よく光を反射します」


答えになっていなかった。


その後の処置を終えたCさんは、そのまま5分ほど呆然としていた。


やがて周囲を恐る恐ると見渡し、震えながらタオルで顔を拭いた。


「職員さん……」


なぜか恨みがましい目で見られた。

理由に心当たりはなかった。


視界の様子がどうかを聞いた。


「戻りました、戻りましたよ? 色は元通りです。でも、え、これ……」


平然とした顔で泳ぐ金魚をCさんは見た。

それが己の眼球で泳いでいたことを認めたくない様子だった。


「これ、育てます?」


金魚を示し、鍵屋は言った。


「いいえ」

「じゃあ、焼き魚ですね、身が少ないですが」

「やっぱり飼います!」


己に巣食ったものを育てるのは嫌だが、他人に食われるのはもっと嫌だそうだ。


挿絵(By みてみん)

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