コンビニの新商品の可能性
特殊例である可能性が高い。
阿左美通りの団地に住むNさんは、コンビニによく立ち寄る。
「普通に美味しいんですよね」
コンビニのこだわり等はないそうだ。
「近くにあるかどうかだけですよ、正直」
それでも、季節限定のスイーツなどあればつい目が引かれた。
「どんな味かは、知りたくなりません?」
ただ最近は、少しばかりコンビニに寄るのが怖いのだそうだ。
「……全部が全部ってわけじゃないんですよ? ただ……」
Nさんのよく行くコンビニには、壁棚にスイーツ類が置かれている。
透明なカップにつつまれたシュークリーム、断面も鮮やかなミルクレープ、油分こそが美味という佇まいのティラミス、さまざまな装いのそれらを確かめた。
「妙なものが、間にあったんです」
衛生面の対策として、個別包装されているのが常だが、剥き出しのまま置かれていた。
「まるっこくて、白いものでした」
食べ物というよりも、毛玉の一種のように見えた。
真っ白なものが大福状に横たわっている。
「バーコードと値札が、貼られてたんですよ」
直貼りだった。
生菓子に対する扱いではない。
「買う気には、なれませんでした」
他に美味しそうなものはある、こんな気色悪いものに手を伸ばす気にはなれなかった。
「店内を一周して、もう一度見たんですが」
姿が変わっていた。
白い毛玉は無かった。
「レゴブロックでした」
人形に組み上げ、手を上げた状態だった。
「値段は税込み500円で、前と変わってなかった……」
同じ位置に同じ値段で存在した。
「帰りました」
関わってはいけないと思えた。
「次の日も、同じようにそのコンビニに訪れたんですが……」
スイーツコーナーに、やはり異常物はあった。
値段は税込み500円。
「コーヒー豆でした」
ローストされたそれらが円柱状に積み重なっていた。
「ちょん、って突いたら崩れました」
足早にその場を離れ、店内を一周してからまた見た。
「目玉と黒い肉でした」
脈動し、Nさんを見つめ涙を流した。
眼球に直接500円のバーコードシールが貼られていた。
「いい加減、もう限界でした」
こんなものを売る方に問題がある。
これらは変だと指摘しなければならない。
「けど、なんて言えばいいんだろうって……」
最初は丸いもので次にレゴブロック、次の日にはコーヒー豆で今は目玉のものになっていた、こんなものをどうして売るのか?
そう素直に言ったところでクレイジー扱いだ。
「いえ、とにかく「店に変なものがある」ってだけでも言わなきゃいけない、って思って」
近くにいた店員に尋ねた。
どうしてこんなものを売っているのかと。
「普通に戻っていたらどうしようか、って思ったんですが、変なままでした」
陶器製のミニチュアバイクだった。
小型サイズであるにも関わらずエンジンを吹かしていた。
スイーツコーナーの棚にあっていいものではなかった。
「その店員は、ああ、って笑顔になって……」
こんなところにあったんですね、大変失礼しました。
そう言って、硬いそれを手に取り。
「食べたんです」
店員の歯が、噛み砕く音を聞いた。
小型エンジンが壊れる響きがあった。
「二口とか三口くらいで食べて、美味しそうにペロって唇を舐めて……」
私物が紛れ込んでいたようです。美味しいんですよ、これ。
そう言って、また仕事へ戻った。
「呆然としました」
仕事中に、客が見えているところで食事をするのはあんまり良いことじゃない、そんなどうでもいい感想だけが思い浮かんだ。
その店員の仕事ぶりをチラチラと横目で見たが、先程の行動が嘘だったように普通だった。
「馬鹿にされてる、気がしたんです」
実際のところはどうかわからない。
だが、「おまえはコレが怖いんだよな?」と言われたように思えた。
この心優しい店員様が、おまえが恐怖したものを取ってあげるからな?
「次の日、そのコンビニに行きました」
気持ちとしては決闘だった。
足早にスイーツコーナーへ行くと、それはあった。
「小型カメラでした」
税込み550円。
値上がりしていた。
「妙に湿っているそれを手にとって、会計に向かって……」
その時、レジ打ちをしていたのは、昨日の店員だった。
Nさんは、いくつかの品を購入し、勝負に望んだ。
「私物だかなんだか知らないですが、値札が貼られている以上、買って良いもののはずです」
その店員は、アルコール飲料、菓子類、冷凍食品などをバーコードで読み取り、それを手に取ったとたん固まった。
「その時、変なものは縞模様のアメーバになってました」
どろりと店員の手から逃れようとした。
「その店員が、こっちを見たんです」
その表情は、無感情か、「へえ、やるね?」という感嘆か、あるいは侮蔑か、そうしたものだろうとNさんは予測した。
どれも違った。
「泣いたんです」
悲しみのためではなかった。
「片手でバーコード、もう片方にアメーバのそれを手にしながら、喜んでたんですよ」
ああ、あなたはこれを、自ら望んで得てくれる人なのですね?
そう声もなく感謝された。
店員と客、レジで区切られている。
にも関わらず、運命の人と再会したかのような歓喜があった。
流れる涙も鼻水もそのままだ。
Nさんの後ろに並んでいた客が、「え……」と慄く様子があった。
「その人はコンビニのアルバイトで、店長とかではなかったはずです」
店員が照れたような笑みを浮かべ「すいません」と言い、バーコードで読み取る直前。
「やっぱりこれキャンセルで、と言いました」
毛玉へと変わったそれを奪い返し、横へと退けた。
「しばらく固まってました」
完全に表情を消した店員が、さり気なさを装って再びバーコードで読み取ろうとするのをNさんは防いだ。
「キャンセルで」
断固とした意思を示した。
店員は完全に事務的かつ機械的に会計を済ませた。
「人って完全に絶望すると、ああいう表情になるのかもしれません」
自動ドアをくぐりながら振り返れば、人魂へと変化したそれを手に立つ店員の様子があった。
涙を流しながら、大きく口を開けていた。
「結局、あれって何だったんですかね?」
それは誰にもわからない。
市職員は何度か件のコンビニを訪れたが、異常な新商品に出会うことはなかった。




