病院増築の可能性
それは、医療ではない可能性が高い。
鵜陣保蔵の総合病院に勤務するC・Bさんさんは、近頃不満があるという。
「いいんですよ? 病院が大きくなることは、患者の皆様からすればありがたいことには違いないんです」
人命が第一だという信条は変わらない。
「けれど、何かわからないものが増えるのは困る。隣で何をしているかわからないというのは、落ち着かないんですよ」
いつの頃からか、ふと気づけばC・Bさんの知らない専門科が増えていた。
それは再作科とあった。
「再生科ならわかるんですよ、そうした医療は重要だ。けど、再作科ってなんですか」
聞いたこともないものだった。
「けど、だけれど……」
盛況だった。
「以前の、三分の一ほどです」
内科をしているC・Bさんのもとに訪れる患者の数が減った。
「いままでこちらに来ていた人たちが、あの再作科に行ってるんですよ」
新しく増設された病院に、新しい科。
だが、その内実が不明だった。
「勤務している人たちも、おかしな様子です」
内科外科などで分断されているが、それでもある程度のつながりがある。
大学で学んだ長い時間は、人同士のつながりを作り出す。
「本当に見覚えも心当たりもない人しかいなかった」
C・Bさんだけではなく、他の人達もそうだった。
誰一人として新設科の医者との知り合いはいなかった。
「中には、ただの鍵屋が出入りしてるという話すらあって……」
すべてが不審だった。
不満は限界まで溜まっていた。
「だから、挨拶と同時に喧嘩を売るため、乗り込むことにしたんですよ」
真正面から「お前ら怪しい、何をやっている」と文句を言うつもりだった。
「無理」
できなかった。
「あれは、無理です」
再作科としか表記されていないそこに入れば、そこにあったのは医療現場ではなかった。
患者を迎えるエントランスの向こうには扉が、ちょうど開いていた。
通常であれば見ることはできない場所を、いいタイミングで見てしまった。
「工場だった」
清潔にはされているが、断じて人に対して使うべきではないものが並んでいた。
「最新の医療器具を全部知ってるわけじゃないです。けど、あれらがそういう用途のものだとは思えなかった」
巨大な裁断機があった。
透明な織物のようなものがあった。
こちらを見る人の手にはハサミがあり、手際よく透明な布を切っていた。
切るたびに、悲鳴のような音がしていた。
熱によって溶かされようとしている人がいた。
それらを組み直す「何か」がいた。
「マスクをした人が、にこやかに近づいて来た」
悪意は微塵もなかった。
だが、その手にはハサミがあった。
「必死で、逃げました」
医療現場であると考え乗り込んだ場所は、見たこともないような現場だった。
得意とする領域から、完全に外れた。
「情けないとか、そんなことを考えることさえできなかった」
ただ、ダメだと思えた。
これは医療行為ではない。
「そうして、病院の外へ出て、警察か、いや、医院長に電話をしなければと考え……」
立ち止まったタイミングで、車に轢かれた。
「……あれに関しては、こっちがアホすぎましたね。なんで道路の真ん中で突っ立ってるんですか」
歩道は赤信号であり、車道はカーブにより視界が悪かった。
「腰部骨折、大腿骨変形、多指切断、目測ですが5メートル以上は跳ね飛ばされてました。まあ、そんなこと考えなくても重症です」
病院前とはいえ、まったく安心はできなかった。
「誰かが、駆け寄って来る姿が見えました」
気の所為かもしれない、だが、その相手は。
「さっきの、再作科の人たちに見えた」
絶望した。
かけられた「すぐに良くなる」という言葉すら、その後押しをした。
「……その後、復帰しました」
傷の一つもなかった。
轢かれながらも下した自己診断は嘘だったとでもいうように。翌日には無傷で退院していた。
「……医者としてこんなことを言うのは業腹なんですが、一体彼らは何をしたんですか?」
現在、C・Bさんは再作科に入らないかと誘われている。




