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銅像の可能性

それは変えなければならない。


妙求市駅前にはロータリーがあり、その中心には銅像がある。

通常、この銅像には地元由来の偉人や芸術作品が造られる。


駅がその街の入口であるとしたら、銅像はその玄関だ。

何を誇りとしているか、どれほど芸術を尊重しているか、一目でわかる。


妙求市における銅像は、直方体だ。

ただの四角い銅ブロックの塊が、でん、と置かれている。


芸術ではあるが、現代芸術だ。

意味を見た人が考えなければならない。

大抵の人が足早に横を通り過ぎるため、思考する人はあまりいない。


そして、市職員の手元には、表札だった薄い板がある。

プラスチック製のものであり、何度も書き換えることができた。

とある団地における部屋の異常を発生させたものだ。


銅像の下の方には、ちょうどこの表札が入るだけのスペースがあった。

試しに書いて入れてみた。




一週間後、ひどく真剣な顔をしたアルバイトのUさんに詰め寄られた。


「どうして、あんなことをしたんです?」


意味がわからないため聞くと、どうやら銅像が変化していたらしい。

あるキャラクターの姿となっていた。


筆記したのは、まさにそのマンガのタイトルだった。


「それだけなら、いいんです。●●様かっこいいし、眼福です。いえ、そこではないんです、違うんですよ、どれほど罪深いことをしたのか、自覚してくれませんか?」


意味がわからなかった。

市職員が著作権法違反以外に、どのような犯罪をしたのかを聞いた。


「今週号に、同じ姿があったんです……っ!」


その目はひどく真剣だった。

どうやら、銅像の姿そのままの絵があったらしい。


先の展開を、銅像がすでに取っていた。


「そして、今日! 銅像が! ガッツポーズして吠えている●●様の姿に変わってたんです!」


試合は佳境であり、いいところで今週号は途切れた。


「ネタバレしてんです、あの銅像! 許せねえ!」


Uさんは地団駄を踏んで吠えた。

市職員は表札を抜き、タイトルを変えた。




「どういうつもりです?」


新入りのZさんに、無表情に問いかけられた。

意味がわからず聞き返すと、あの銅像のことだという。


「なんで、あれになってます?」


現在、銅像はロックスターのような姿となっていた。

髪の毛は逆立てた形で固定され、ギターを片手に吠えている。

派手なメイクもしているようだが、銅像であるためその変化は僅かなものだ。


年寄りはいい顔をしないだろうが、非常に躍動的であり、とてもいい銅像だと思う。

タイトルは「栄光」だ。


「……わかってやっていない……?」


その言葉の意味こそがわからない。


「……あれ、私です」


しばし脳がフリーズした。

銅像のため色合いはわからないが、非常に独創的な服装をしていた。

その表情は限界まで激怒しており、「この世の中の何もかもがクソだ」と吠えていた。


え、と思わず呆けた。


「変えてください、今すぐに」


市職員は頷いた。

変えるより前に、写真で撮影していいかという提案は拒否された。


「もう……今更あんなの……」


少しZさんを見る目が変わった。


ただ、次に変えるべきタイトルも思い当たらない。


ためしに「妙求市でもっとも偉大なもの」と書いた。

スライド式のそこへと入れた途端、銅像が震え出した。


Zさんだった姿はぐにゃりと歪み、ねじれ、触手のようなものが生えたかと思えば顔が浮き出た。

銅製のそれがマグマのように沸騰し、絶え間なく姿を変えた。


螺旋を描いたかと思えば球体として浮き上がり、巨大なものとして顕現したかと思えばただの立像と化し、無数の蜘蛛の群として浮き上がり、人間大の笑う口元となった。


一時も休まず変動を続ける。

ざわめく周囲の様子を認め、市職員はすぐさま表札板を引き抜いた。

収まらなかった。


止めるためには、新しいタイトルを書いて入れるべきだ。

だが、何を?


たとえばここで「平和」と書いたとしても、「平和とは戦争の準備期間にすぎない」と解釈し、引き続き暴れるかもしれない。

下手なものを書けば後押しとなる。


具体的かつ、他の解釈のしようがないものが必要だ。


より強く、明確なイメージで、塗り替える。

それにもっともふさわしいものは何か?


市職員は苦渋の決断をした。




「へぇ」

「ほぉ」


後日、二人はその銅像を見た。

ニヤニヤしているというのは、市職員の邪推だろう。


駅前の銅像はその街の玄関であり、何を重視する場所であるかが一目でわかるものである。

これはまったくふさわしくない為、すぐにでも変えなければならないが、新入りとアルバイトからの妨害にあっていた。


現在、妙求市のロータリーには「市職員の子供の頃」の銅像が立っている。

微笑ましいものを見るような目で歩行者は通り過ぎる。


むっつりとつまらなさそうな、不機嫌そのものの表情をした子供が小石を蹴る様子の何が楽しいか、市職員には理解できない。


挿絵(By みてみん)


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