見送りの可能性
それは、微笑ましいものではない可能性が高い。
近頃、中学生以下の学生に、見送りが流行っている。
数人で連れ立って帰り、家の前まで到着しても入らず、友人の姿をしばらくの間は確かめる。
ときには家を越えて一緒に歩き、ひと区間ほど進んでから戻る。
もちろん、日本全国どこでも行われていることだが、そのパーセンテージが異常だった。
どうやら、ほぼ全員が行っている。
「連れションみたいなもんですかね?」
新入りのZさんの感想だった。
「ああ、たしかに誰か一人がやったら、皆もやらなきゃ、って雰囲気になりますよね」
アルバイトのUさんは現実的な所感を述べた。
誰かが行ったのなら、された相手も返さなければならない。
自分はやったのに、相手は返してくれなかったとなれば、恨みが募る。
誰も止められず、連鎖的に広がり、やがてはその学校独自の文化となる。
よくあるといえばよくあることだった。
「変ですね」
Zさんの感想で話は終わった。
ただ、市職員としては少しばかり気になったため、知り合いに詳しい事情を聞くことにした。
「ああ、あれかぁ」
中学生であるIさんは、非常に嫌そうだった。
今まで見た誰よりも。
「オレが言ったって、言わないでよ?」
言い触らすことはないが掲示するとは伝えた。
それならいいとしたのは、この掲示を中学生以下はあまり読まないからだ。
「あれ、怪談」
一人二人ではなく、多くの人が似たようなものを目撃したのだという。
「友達と帰って、家について、そこから友達の様子が気になって、自室の窓から見た奴がいたんだ」
その友達は気付いた様子もなく歩いていた。
「なんかさ、ちょっといい気分になってずっと見てたらしいんだけど、あれ? って思ったんだって」
いままでと同じ相手だとは思えなかった。
その後ろ姿が、どことなく奇妙だった。
「なんだろう、ってずっと見てたんだけど」
風が吹き、変化が生じた。
「その友達の顔が、べろ、って剥がれた」
その友人は慌てたように戻し、きょろきょろと周囲を見渡した。
その動作には、明らかにまずいものを見られたという恐れがあった。
咄嗟の判断でその人は隠れたが、そうしなければ、きっと目が合っていた。
「友達が、人間じゃなかった、そう気づいたんだよ」
そのような「怪談」が流行った。
「だから、あれって見送りじゃないんだ」
では一体なにかと聞くと、Iさんは簡単に答えた。
「見張り」
嫌そうな顔を変えずに続けた。
「お前って本当に人間か? 化物じゃないか? なあ、隙を見せてみろよ、化けの皮はいつ剥がれるんだ? そういう攻撃なんだよ、あれ」
疑いをかけられた側は、拒否できない。
拒否するのは、化物であることの証明だ。
「何人かもう「人間じゃない」って扱いをされてるやつが、いる」
そのように目撃された。
「それが本当か嘘かなんて、誰も気にしない」
異物を取り除き安心するための「見張り」は、今日も行われている。




