偽神主の可能性
それは、無謀である可能性が非常に高い。
陽爻神社に神主が現れたとの報告を受けた。
市職員が確かめた所、偽物だった。
年齢は五十前後であり、ニコニコと笑顔で人当たりは良いが、どこか暴力に慣れた様子がある。
「誰も管理者がいない以上、特には問題はない、こちらはそのように認識していますが?」
後に調べたところ、神社仏閣の乗っ取りを行う常習犯だった。
正式な許可は得ていないが、行うべきことを行う。
金儲けはするが、妥当な範囲に収める。
そのようなグレーゾーンを行う人物だった。
「それとも、何かこちらが法を破るようなことをしましたかね?」
ここ妙求市では現在、司法関係が機能していない。
様々な事柄に注意が必要だ。
その事実を伝えた。
「……それは、本当に?」
妙求市に住む人にとっては、もはや常識だ。
「はははは、それは、それは……」
神主の笑顔が、更に歪んだ。
信じられない幸運を手にしたという表情だ。
この神社から離れるべきだと伝えたが、聞き届けられることはなかった。
「いやあ、職員さん、いいことを教えてくれた!」
三日後、この神主から相談を受けた。
「いろいろと、勝手が違いすぎる、ここは」
神社仏閣は、その古さもあり様々なものが残されている。
だが、いかなる文章も、祀るべき対象も、神社内には残されていなかった。
「さすがに教派神道13派には属さないってのはわかるんだが、それにしたって手がかりってものがない」
そのくせひっきりなしに参拝者は訪れ、莫大な額を賽銭箱に放り込むのだという。
「万札とかなら素直に喜べるんだが、桁が違う」
札束の群をどうすればいいのかわらなかった。
あれだけの額をいままでどうしていたのかを訊かれたが、市職員にもわからなかった。
「というかな、あの参拝客ども、いったい何を望んでいる?」
対価として差し出すものが不明だった。
参拝客にあれこれと話かけたが、神主を一瞥するだけで無視された。
まるで「珍しく喋る路傍の石」だとでもいう目だった。
「こっちは、それなりに話芸を磨いてる。曲りなりにもこれで飯を食ってる自負がある。だってのに、一切通じない」
参拝客の全員がそうだった。
市職員は、知る限りの情報を伝えた。
人が変わるという伝承や、いままでに起きた異変について。
神主は真面目に聞いていたが、期待外れだという表情を浮かべた。
「さすがに、それは、なあ?」
参考にできないと表情が物語った。
現実的な判断だった。
「だが、そういうのを信じてる連中だってのは、わかった。感謝するぜ、職員さん」
どうやら諦めるつもりはないらしい。
市職員は、陽爻神社から離れるべきだと再度述べた。
笑って流された。
さらに二日後、憔悴した様子の神主が対処課を訪れた。
仲間に呼びかけ、人海戦術により苦境を脱しようとしたそうだ。
「……予定倒れだ」
誰も来なかった。
連絡すらつかなかった。
「それだけなら、ビビったのかよ腰抜け共が、って話だが」
全員を妙求市で見かけたという。
彼らは、神主のことを憶えていなかった。
ただの他人の空似だと言われた。
「小指のないやつが、そんなにいてたまるかよ……」
神主は呻いた。
明救市から離れるよう薦めた。
神社から離れるだけでは、もはや足りない。
「……あんたが親切心からそう言ってくれるのは、分かるんだ。だがな、今更諦められるかよ」
結局、聞き届けられることはなかった。
しばらく後、その姿を街中で見かけた。
神主の姿ではなかった。
生気のない無表情で平坦に、「はじめまして」と彼は言った。




